"「AI資本主義」は人類を救えるか"
中谷巌"「AI資本主義」は人類を救えるか 文明史から読みとく"について。
「AI資本主義」という言葉ははじめて見た。AIと資本主義の関係については、雇用への影響や、新しい産業の誕生など、いろいろ取沙汰されているけれど、「AI資本主義」とは何だろう?
そして本書はタイトルにこの言葉を掲げているけれど、その定義は明確には示されていない。どうやら資本主義は産業革命以来、新しい技術をどんどん取り込みながら成長してきた、その延長としてAIを取り込んでいくということを指しているようだ。
著者の中谷巌氏といえば、新自由主義論者として、竹中平蔵らとともに政府の経済政策に大きな影響を与えた人であるが、それ以上に、新自由主義は間違いだと完全転向し、「市場万能主義」を徹底的に批判したことで世間を驚かせた。
この新自由主義否定・市場万能主義否定の姿勢は、本書でも明確である。
空気など、所有できないものは値段が付けられず(外部経済)、そうなると資本はこれを食い荒らす。その結果、地球上の生命は空気を失って生存できなくなる。(もちろん実際には空気中への汚染の垂れ流しという形をとる)
これを資本主義の枠組みで解決するためには、こうした外部経済を市場原理に取り込む、たとえば空気の利用料などで「商品化」することが一つの方策になると考えられる。こうしたことははるか昔から、たとえば宇沢弘文氏が主張していたことである。
さてタイトルにある「AI資本主義」だが、前述のとおりこの言葉の定義はない。サブタイトルの「文明史から読みとく」にある文明史の延長としてAIが置かれ、現在および将来のAI利用で経済活動が変化する様子がところどころで記述されている。
そうした事例は興味をそそるものだけれど、他書でも紹介されている事例なので、紹介は差し控えよう。
本書を読みながら並行して違うことを考えていた。
それは、本書の論旨は、他の著名な著作を多く引用・参照することで組み立てられているということ。そしてこれらの著作を読んでみたい(既に読んだものもあるが)ということ。
その著名な著作の中でも柱となっているのは次の4著作である。これらは各章のサブタイトルともなっている。
著者は、AI資本主義、人類のゆくえを考えるうえで、参考になる(補助線と表現)としている。
前述のとおり、主要な「補助線」は、ハラリの2著、ウォーラーステイン、ボヌイユとなっているが、それらを補強あるいは批判する文献が多く引用・参照されている。これらも重要なリソースである。
巻末の参考文献を転載しておこう。
こんなにたくさんは読めないが、一つの読書指針となるかもしれない。
「AI資本主義」という言葉ははじめて見た。AIと資本主義の関係については、雇用への影響や、新しい産業の誕生など、いろいろ取沙汰されているけれど、「AI資本主義」とは何だろう?
そして本書はタイトルにこの言葉を掲げているけれど、その定義は明確には示されていない。どうやら資本主義は産業革命以来、新しい技術をどんどん取り込みながら成長してきた、その延長としてAIを取り込んでいくということを指しているようだ。
著者の中谷巌氏といえば、新自由主義論者として、竹中平蔵らとともに政府の経済政策に大きな影響を与えた人であるが、それ以上に、新自由主義は間違いだと完全転向し、「市場万能主義」を徹底的に批判したことで世間を驚かせた。
この新自由主義否定・市場万能主義否定の姿勢は、本書でも明確である。
空気など、所有できないものは値段が付けられず(外部経済)、そうなると資本はこれを食い荒らす。その結果、地球上の生命は空気を失って生存できなくなる。(もちろん実際には空気中への汚染の垂れ流しという形をとる)
はじめに | |
第一章 自然vs.虛構 | |
― | 『サピエンス全史』から「AI資本主義の現在」を読む |
なぜITの巨人たちが絶賛したのか /「鳥瞰する力」を身につける /ホモ・サピエンスはなぜ生き延びたのか /虚構を語る力が協力を可能にした /『ギルガメシュ叙事詩』における「自然」と「文明」 /神、言葉、貨幣 /人類は科学革命で「無知」に気づいた /科学革命から資本主義へ /予定説と資本主義 /科学革命の背景 /「自然」と「人間社会」の相互干渉モデル /ハラリの問題提起 /トランプ現象の背景 /米中経済戦争、始まる /虚構は基本的に不安定 /金融という不安定な虚構 /「新たな虚構」としてのAI資本主義 | |
第二章 データイズムの罠 | |
― | 『ホモ・デウス』から「AI資本主義の未来」を考える |
ヒューマニズムからデータイズムへ /ギルガメシュ・プロジェクト再び /技術革新は「身体内部」に向かう /デザイナーベビー /毎日の気分はアルゴリズムで決まる /判断もデータに委ねられる /巨大IT企業に集積する膨大なデータ /「データイズム」が人間中心主義を消滅させる /「無用者階級」の出現 /経済的不平等から生物学的不平等へ /二一世紀社会は庶民を必要としなくなる /ハラリの予測の問題点 /ガブリエルの科学主義批判 /あらゆる「制度」は脆弱なのか /ハイエクの「設計主義」 批判 /クローン・ロボットは存在可能か /塗り替えられた「人間観」 | |
第三章 普遍主義 | |
― | 『ヨーロッパ的普遍主義』から「AI資本主義の課題」に迫る |
「ヨーロッパ的普遍主義」とは /日本人を勇気づけた 『文明の生態史観』 /生活様式の遷移を明らかにする /第一地域と第二地域 /現代にも生きる第二地域のDNA /他成的遷移、自成的遷移 /それでも日本は西洋とは違った /中央が周辺を搾取する近代世界システム /「文明が野蛮を正す」 というロジック /イラク戦争の論理 /「東洋は西洋になりえない」 本質主義的個別主義 /科学こそ真理到達の手段 /真善美のパワーバランス /「合理的個人」という前提が崩れてきた /近代世界システムの崩壊 /自由貿易の行き詰まり /「普遍的普遍主義」の可能性 | |
第四章 自然の逆襲 | |
― | 『人新世とは何か』から「AI資本主義の限界点」を探る |
『西洋の没落』の背景 /自然から離れた文明は衰退する /一〇〇年前に予告された人口減少 /原子力は生態圏外のエネルギー /自然の逆襲が始まった /プラスチックごみ問題から考える危機 /「資本の論理」は自然を尊重しない /「私たちはいま目覚めた」という幻想 /リベラリズムに自然は救えない /予測できない危機にどう対応するか /自然に投票権を与えることの可能性 /排除すべき外部がなくなった | |
第五章 「排除」から「包摂」へ | |
― | 「日本的普遍」をいかに磨きあげるか |
社会的包摂という考え方 /浸透し始めた「包摂」の思想 /「包摂の論理」の背景 /「包摂の論理」が資本主義を救う /「包摂の論理」への移行は可能なのか /自然や社会を包摂する日本の歴史的伝統 /日本的宗教観のベースは「平等」 /階級制のないフラットな社会 /日本企業の共同体的性格 /日本にも「排除の論理」はある /「包摂の論理」は企業の競争力になる①―「テッセイ」「富士フイルム」の例から /「包摂の論理」は企業の競争力になる②―「トヨタ自動車」の例から /「選ぶ文化」と「育てる文化」 /「包摂の論理」は企業の競争力になる③―「東レ」の例から /「日本的普遍」を磨き、追求しよう /「世の中はすべて正しいことをやっている」 /「日本的普遍」の原点にあるもの―「なる・つぎ・いきほひ」 /「いま」を重視し、継続性を維持すること /明恵上人の「自生的秩序」肯定の思想 /ハイエクと明恵の「自生的秩序」 | |
引用・参考文献 | |
あとがき |
独占できないものを市場に取り込むことは実務上はかなり難しく、それに値段をつけることは政策当局の恣意で行われると不当に高額になったり、正常な空気の維持には足りないということも起こるだろう。空気を入札するという形で競争原理を働かせることで適正価格になるかもしれないが、それには熟慮された取引フレームが必要だろうと思う。
さてタイトルにある「AI資本主義」だが、前述のとおりこの言葉の定義はない。サブタイトルの「文明史から読みとく」にある文明史の延長としてAIが置かれ、現在および将来のAI利用で経済活動が変化する様子がところどころで記述されている。
そうした事例は興味をそそるものだけれど、他書でも紹介されている事例なので、紹介は差し控えよう。
本書を読みながら並行して違うことを考えていた。
それは、本書の論旨は、他の著名な著作を多く引用・参照することで組み立てられているということ。そしてこれらの著作を読んでみたい(既に読んだものもあるが)ということ。
その著名な著作の中でも柱となっているのは次の4著作である。これらは各章のサブタイトルともなっている。
- ユヴァル・ノア・ハラリ『サピエンス全史』
- ユヴァル・ノア・ハラリ『ホモ・デウス』
- ウォーラーステイン『ヨーロッパ的普遍主義』
- ボヌイユ他『人新世とは何か』
著者は、AI資本主義、人類のゆくえを考えるうえで、参考になる(補助線と表現)としている。
そしてAI資本主義のもとでも、自然の「排除」は続くでしょう。産業革命以来、排出された放射性物質や、新たに生まれたプラスチックなどの人工化合物が地中や海底で急激に累積し続け それか生態系を破壊し続けています。
さらに言えば現在、GAFA (Google, Apple, Facebook, Amazonの略称) と呼ばれる巨大ⅠT企業が提供するサービスが私たちの日常生活に深く浸透してきました。私たちは、知らず知らずのうちに、これら企業が提供する情報システムにしっかりと組み込まれ、それによって生活の方向を決められるという事態になっています。AI資本主義が人間社会の根本的な構造、ひいては人類文明そのものを変えようとしているのです。
以上のような状況を理解するためには、人類がたどってきた文明史を学ぶことをとおして、そもそも「人間とは何なのか」についての哲学的理解を深めることが不可欠になります。AIの可能性を論じようとしても、 この哲学的な問いと正面から向き合わないかぎり、有益な結論を手にすることは不可能なのです。
しかし、「人間とは何か」という問いも含め、「人類史」の範囲はあまりにも広い。 この茫漠たる領域を踏破するためには、私たちの「思考」の方向性を定めるための指針が必要です。本書ではそのためのいわば「補助線」として、四冊の本を厳選しました。
それらは、ユヴァル・ノア・ハラリ『サピエンス全史』と『ホモ・デウス』、イマニュエル・ウォーラーステイン『ヨーロッパ的普遍主義』、そしてクリストフ・ボヌイユほか『人新世とは何か』です。いずれも不誠塾のテキストとして取りあげたものです。
本書では、この四冊の本からそれぞれ指針となるキーワードを挙げて、現代に連なる人類史を解説し、AI資本主義のゆくえを探っていきます。もちろん単なる解説ではなく、それぞれの書物の著者が提供しているものの見方に対する批判をも加えつつ、結論として私独自の視点(キーワード)を提示したうえで、あるべき未来への提言を試みます。
さらに言えば現在、GAFA (Google, Apple, Facebook, Amazonの略称) と呼ばれる巨大ⅠT企業が提供するサービスが私たちの日常生活に深く浸透してきました。私たちは、知らず知らずのうちに、これら企業が提供する情報システムにしっかりと組み込まれ、それによって生活の方向を決められるという事態になっています。AI資本主義が人間社会の根本的な構造、ひいては人類文明そのものを変えようとしているのです。
以上のような状況を理解するためには、人類がたどってきた文明史を学ぶことをとおして、そもそも「人間とは何なのか」についての哲学的理解を深めることが不可欠になります。AIの可能性を論じようとしても、 この哲学的な問いと正面から向き合わないかぎり、有益な結論を手にすることは不可能なのです。
しかし、「人間とは何か」という問いも含め、「人類史」の範囲はあまりにも広い。 この茫漠たる領域を踏破するためには、私たちの「思考」の方向性を定めるための指針が必要です。本書ではそのためのいわば「補助線」として、四冊の本を厳選しました。
それらは、ユヴァル・ノア・ハラリ『サピエンス全史』と『ホモ・デウス』、イマニュエル・ウォーラーステイン『ヨーロッパ的普遍主義』、そしてクリストフ・ボヌイユほか『人新世とは何か』です。いずれも不誠塾のテキストとして取りあげたものです。
本書では、この四冊の本からそれぞれ指針となるキーワードを挙げて、現代に連なる人類史を解説し、AI資本主義のゆくえを探っていきます。もちろん単なる解説ではなく、それぞれの書物の著者が提供しているものの見方に対する批判をも加えつつ、結論として私独自の視点(キーワード)を提示したうえで、あるべき未来への提言を試みます。
前述のとおり、主要な「補助線」は、ハラリの2著、ウォーラーステイン、ボヌイユとなっているが、それらを補強あるいは批判する文献が多く引用・参照されている。これらも重要なリソースである。
巻末の参考文献を転載しておこう。
■引用・参考文献(本文への登場順) | ||
*掲載のURLは二〇一八年一一月現在のものです | ||
中谷巌 | 『資本主義はなぜ自壊したのか―「日本」再生への提言』 | 集英社文庫、2011 |
ユヴァル・ノア・ハラリ著 柴田裕之訳 | 『ホモ・デウス ―テクノロジーとサピエンスの未来(上・下)』』 | 河出書房新社、2018 |
ユヴァル・ノア・ハラリ著 柴田裕之訳 | 『サピエンス全史―文明の構造と人類の幸福 (上・下)』 | 河出書房新社、2016 |
イマニュエル・ウォーラースティン著 山下範久訳 | 『ヨーロッパ的普遍主義 ―近代世界システムにおける構造的暴力と権力の修辞学』 | 明石書店、2008 |
クリストフ・ボヌイユ、ジャン=バティスト・フレソズ著 野坂しおり訳 | 『人新世とは何か―〈地球と人類の時代〉の思想史』 | 青土社、2018 |
矢島文夫訳 | 『ギルガメシュ叙事詩』 | ちくま学芸文庫、1998 |
マックス・ヴェーバー著 大塚久雄訳 | 『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神 [改訳版]』 | 岩波文庫、1989 |
片山杜秀 | 『「五箇条の誓文」で解く日本史』 | NHK出版新書、2018 |
エリック・ホブズボーム著 大井由紀訳 | 『20世紀の歴史―両極端の時代(上・下)』 | ちくま学芸文庫、2018 |
マルクス・ガブリエル著 清水一浩訳 | 「なぜ世界は存在しないのか』 | 講談社選書メチエ、2018 |
マルクス・ガブリエル・インタビュー | 「コンピューターは哲学者に勝てない ―気鋭の33歳教授が考える『科学主義』の隘路」 https://news.yahoo.co.jp/feature/1016 | (2018.7.13) |
瀧澤弘和 | 『現代経済学―ゲーム理論・行動経済学・制度論』 | 中公新書、2018 |
フリードリヒ・アウグスト・フォン・ハイエク著 佐藤茂行訳 | 『科学による反革命 理性の濫用』 | 木鐸社、2004 |
仲正昌樹 | 『いまこそハイエクに学ベ―〈戦略〉としての思想史』 | 春秋社、2011 |
リチャード・ドーキンス著 日高敏隆他訳 | 『利己的な遺伝子 [40周年記念版]』 | 紀伊國屋書店、2018 |
梅棹忠夫 | 『文明の生態史観』 | 中公文庫、1974 |
エドワード・W・サイード著 板垣雄三、杉田英明監修、 今沢紀子訳 | 『オリエンタリズム(上・下)』 | 平凡社ライブラリー、1993 |
ダニエル・C・デネット著 土屋俊訳 | 『心はどこにあるのか』 | ちくま学芸文庫、2016 |
アンディ・クラーク著 池上高志、森本元太郎監訳 | 『現れる存在―脳と身体と世界の再統合』 | NTT出版、2012 |
オスヴァルト・シュペングラー著 村松正俊訳 | 『西洋の没落(Ⅰ・Ⅱ)』 | 中公クラシックス、2017 |
中沢新一 | 『日本の大転換』 | 集英社新書、2011 |
ヨルゲン・ランダース著 竹中平蔵解説 野中香方子訳 | 『2052―今後40年のグローバル予測』 | 日経BP社、2013 |
ナショナル・ジオグラフィック | 「海鳥の90%がプラスチックを誤飲、最新研究で判明」 https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/15/090400246/ | (2015.9.7) |
厚生労働省 | 「健康用語辞典 〈脱抑制〉」 https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/alcohol/ya-045.html | |
W.D.ノードハウス著 室田泰弘他訳 | 『地球温暖化の経済学』 | 東洋経済新報社、2002 |
日本学術会議 | 「提言 いまこそ『包摂する社会』の基盤づくりを」 http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-22-t197-4.pdf | (2014.9.8) |
オルダス・ハクスリー著 大森望訳 | 『すばらしい新世界 [新訳版]』 | ハヤカワepi文庫、2017 |
ゲーテ著 池内紀訳 | 『ファウスト 第一部 [新訳決定版]』 | 集英社文庫、2004 |
Angus Maddison | The World Economy: A Millennial Perspective/Historical Statistics (Development Centre Studies) | OECD Publishing. 2007 |
河合隼雄 | 『中空構造日本の深層』 | 中公文庫、1999 |
山岸俊男 | 『信頼の構造 こころと社会の進化ゲーム』 | 東京大学出版会、1998 |
桑原晃弥 | 『一生使える49の「知恵」 トヨタ式考える力』 | 日本能率協会マネジメントセンター、2018 |
丸山眞男 | 『忠誠と反逆―転形期日本の精神史的位相』 | ちくま学芸文庫 1998 |
大澤真幸 | 『日本史のなぞ ―なぜこの国で一度だけ革命が成功したのか』 | 朝日新書、2016 |
ルチアーノ・フロリディ著 春木良且、犬束敦史監訳 | 『第四の革命 ―情報圏 (インフォスフィア)が現実をつくりかえる』 | 新曜社、2017 |
こんなにたくさんは読めないが、一つの読書指針となるかもしれない。