大森正司「お茶の科学―『色・香り・味』を生み出す茶葉のひみつ」について。

ブルーバックスの1冊。
ブルーバックスには「コーヒーの科学」(旦部幸博)という本もある。こちらはいわば姉妹編(お茶が後だからさしずめ妹か)ということになるか。
中学生のとき、紅茶に凝ったことがある。
ダージリンとか、アッサム、オレンジペコとかイングリッシュ・ブレックファストといった種類のリーフティーを集め、自分専用のポットを使って紅茶を入れていた。
もちろん、お湯は沸かしたてを使い、カップは前もって温めておくのは当然である。
紅茶のブランド物などは田舎では手に入りにくい。比較的高級なもので、当時どこでも手にはいるものといえば、トワイニングぐらいだったと思う。今だとトワイニングのダージリンだと、今の価格で1,000円/100gぐらいじゃないだろうか。
この頃は、マリアージュ・フレールとか、ルピシアとか、高級紅茶の店が増えた。これらだともちろん種類によるけれど、2,000~3,000円/100gというところだろうか。ダージリン・セカンド・フラッシュとかこだわるとさらに高価になる。
もっとも、普段飲むなら、リプトンのイエロー・ティーバッグがなんといっても気を使わず、扱いやすくて、それなりに紅茶の味わいがある。(これ以下だと、香りも味もなく、色だけ着く。)
リプトンのイエロー・ティーバッグは、浸出時間が長すぎると色は濃く、味は苦くなるのに、1つで2杯出そうとすると、2杯目はやたら気の抜けたものになる。1杯だけではもったいない気がするのに、2杯にすると情けなくなる。2杯分ぐらいの大きなカップにたっぷり入れるのが良いのかな。(お茶を出す、お茶を入れる、同じなのに逆の言葉だなぁ)
なお、本書によると、正しい入れ方は、まずお湯をカップに入れ、ティーバッグをその中に浸して1分間ほどそのままにするというもの。もちろん2杯出そうなどという貧乏根性はダメである。
それに、ティーバッグを馬鹿にしてはいけない。
ティーバッグの場合は、リーフグレードで、D(ダスト)とか、F(ファニングス)、BOPF(ブロークン・オレンジペコー・ファニングス)という、細かい葉が使われるが、茶葉の品質として悪いわけではないという。
等級の高い煙草の切れ端で作るシートタバコが、低等級の通常刻み葉のタバコより味わいがあるのと同様ではないだろうか。
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第1章 お茶の「基本」をおさえる |
| ~どんなお茶も、すべて同じ「チャ」だった |
第2章 お茶はどこからきたのか? |
| ~チャと茶のルーツを巡る旅 |
第3章 茶葉がお茶になるまで |
| ~色や風味はいつどうやって作られるのか |
第4章 お茶の色・香り・味の科学 |
| ~おいしさは何で決まる? |
第5章 お茶の「おいしい淹れ方」を科学する |
| ~煎茶を“玉露” にする方法 |
第6章 お茶と健康 |
| ~なぜお茶は身体にいいのか |
第7章 進化するお茶 |
| ~味も楽しみ方も変える技術 |
本書では、緑茶やウーロン茶、さらには後発酵茶もとりあげられている。
ウーロン茶などについてはわからないけれど、緑茶は、紅茶よりもずっと繊細である。昔から、田舎の茶舗でも、かなり高いものが売られていて、そういうお茶は、葉がピンと細く巻いて、その抽出前の葉の上品さは、紅茶の比ではない。そして、トワイニングのダージリンの数倍の値がついていたように記憶する。
緑茶、つまり日本茶といえば茶道、煎茶道というわけで、子供が自分の小遣いでできるようなものではない。それらは「修行」みたいなものだから、趣味というには違うような気がする。
結局、紅茶の方が無難で近づきやすい趣味なのである。(日本の伝統というのは、どうして、こう重々しくて高くつくんだろう。)
さて、昔から、紅茶といえば、ミルクかレモンかという論争があるけれど(本書でも書かれているが、種類によっても向き不向きがあるらしい)、私は基本はストレートである。
そういえば、ミルク・ティーは、紅茶にミルクを注ぐのか、ミルクに紅茶を注ぐのかという論争もあった。
この頃はミルクかレモンかで論争になるどころか、フレーバー・ティーというのが流行っている。
紅茶の有名店というところへ行くと、ダージリン・セカンド・フラッシュなんてものも置いてたりするのだが、フレーバー・ティーが広い場所を占めている。当然、ストレートのリーフティーよりバリエーションが豊富だからそういうことになるのだろう。
私はフレーバー・ティーというのは、あんまり好きじゃなくて、出されたら飲むとしても、喫茶店でそうしたものを注文したり、そうした種類の紅茶を買うことはない。
フレーバーということではないが、以前はブランデーを滴らしたりしたこともあったが、この頃はブランデー自体が我が家には常備されていない。
そう思っていたところ、本書で著者が一言。
ところが、最近ではこうした紅茶本来の味を知らない人も少なくありません。「紅茶が好き」いって毎日飲んでいる人でも、話を聞いてみると、口にしているのはフレーバーティーである人が意外に多いのです。
<中略>
「どんな紅茶が好きですか?」と訊いたとき、瞬時に「アールグレイ」とか「ローズティー」などと答える客人には、筆者は笑顔で、次回からは出がらしの紅茶を煮出して差し上げることにしています。
フレーバーティーしか馴染みがない人に、紅茶本来の渋みや香り、重厚さを味わえるリーフティーを淹れて差し上げると、「これが本当の紅茶の味なんですか!?」とたいてい驚かれます。
フレーバー・ティーをお洒落だと思って飲んでいる人が聴いたら、何と思うだろう。
筆写はフレーバー・ティーを馬鹿にしているわけではないだろう。ただ、そうした装飾をほどこさない、ストレートなお茶の味わいというものを知ってもらいたいということだと思う。その上で、お茶に自分の好みの香りづけを楽しむ、それはそれで好き好きだろう。
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