バングラデシュに長く仕えた首相を打倒したレジーム・チェンジの流れを分析する(抄訳)
2024/08/06のアンドリュー・コリブコ氏の分析の抄訳。2024年7〜8月にバングラデシュで起こったカラー革命と、そこに至る経緯の解説。
Analyzing The Regime Change Sequence That Toppled Bangladesh’s Long-Serving Prime Minister
主流メディアのニュースを普通に消費しているだけの人は、バングラデシュについては、レジーム・チェンジ(政権交代、体制転換)を経験したばかりの南アジアの国であると云うこと以外は余り知らない。
だがこの国は世界で8番目に人口の多い国であり、世界最大の繊維産業のひとつを持ち、地理戦略上、非常に重要な位置に在る。
バングラデシュは、最も狭い所で僅か12~14マイルの幅しか無い「ニワトリの首」で本土と繋がっているインド北東部の州(セブン・シスターズ)と国境を接しており、これらの州の幾つかは長年、民族分離主義の不安に悩まされている。
バングラデシュの首相を長年務めたシェイク・ハシナは、中国や米国とも緊密な関係を築いて来たが、事実上のインドの同盟者でもあった。彼女はインドのナレンドラ・モディ首相の地域開発のヴィジョンを共有し、北東諸国との貿易を促進する為にインドが自国内を通過する権利を認めた。
更にハシナはインド政府がテロリストに指定している過激派組織が自国を利用するのを阻止し、宗教過激派の取り締まりも行った。
バングラデシュ経済は彼女のリーダーシップの下で急速に成長したが、彼女は国内の安定を維持する為に強硬な手段にも訴えた。このことは、野党に対する政府の訴訟を「反民主的法律戦」と考える大勢のイスラム主義傾向の若者達を怒らせた。
治安当局は物議を醸す戦術を使用したが、これは図らずも国内の不満を増大させ、それ以前から彼女の多極的にバランスを取る外交政策に不満を持っていた米国がこれを口実として制裁を課すことになった。
2023年4月、ハシナは米国が自分に対するレジーム・チェンジ工作を仕掛けていると非難したが、それ以降、両国間の関係は悪化した。その後11月にはロシアが、野党がボイコットした2024年1月の選挙中に、米国がカラー革命を画策するかも知れないとの懸念を表明した。更にその後ハシナは、自分が米国の基地要求を拒否した後、米国はキリスト教徒の代理国家を作ろうとしていると非難した。
2024年6月になると高等裁判所が、2018年に違法とされた政府の公務員割当制度を復活させた。これが引き金となって、これに不満を持つ多くの人々が街頭に繰り出した。当初この運動を主導していたのは学生達だったが、直ぐに日和見的な野党メンバーや、西洋で養成された市民社会分子、宗教過激派によって取り込まれた。その結果ハシナは辞任して国外へ逃亡した。
今までのの流れを振り返るとこうなる。
2023/04/16:米国がバングラデシュでレジームチェンジを企んでいるのは何故か?(要点)
11/26:ロシアは米国がバングラデシュでカラー革命を画策するかも知れないと警告(抄訳)
・2024/01/10:バングラデシュとブータンの選挙結果はインドに戦略的息抜きを与える(抄訳)
・01/28:The Bangladeshi Opposition’s New Narrative Is Meant To Maximally Appeal To The West
・05/27:Bangladesh Warned About A Western Plot To Carve Out A Christian Proxy State In The Region
・07/25:バングラデシュの騒乱はカラー革命ではないが、直ぐにそうなるかも知れない(抄訳)
・08/05:バングラデシュは本格的なカラー革命に巻き込まれている(抄訳)
・08/05:What’s The Best Way Forward For Bangladesh After Its Regime Change Surprisingly Succeeded?
・08/06:バングラデシュのクーデター後の政治的暴力は将来の方向性にとって幸先が悪い(抄訳)
最高裁が割り当て枠をが縮小した後も暴動は続いた。暴徒達は自分達が議会や宮殿を襲撃しても軍は致死的な武力に訴えないだろうとの賭けに出て、それに勝った。更に文脈を無視した「国が抗議者に暴力を揮う場面」の映像が流されたことで、野党とは無関係の平均的なバングラデシュ人、宗教過激派、外国勢力も激怒してこれに加わることになった。
この戦術は正にカラー革命の特徴だ。多くの人が、暴徒達は、野党バングラデシュ民族主義党の同盟者であるジャマーアテ・イスラーミー(政府から禁止されている)のメンバーではないかと疑っているが、彼等は治安当局を意図的に挑発して、街頭の治安を回復する為に暴力を揮わざるを得ない様な状況を作り出した。ソーシャル・メディアが禁止され、外出禁止令が発令されたにも関わらず、これらの切り取り映像に唆されて街頭へ出た人々は、自分でも知らない内に彼等にとっての「人間の盾」として機能することになった。この為治安当局は機能停止に追い込まれた。
ハシナは治安機関が当てに出来ず、政府が持ち堪えられないことが判ると、国外へ逃亡した。その後、報復的な政治的暴力と、少数派のヒンズー教徒に対する攻撃が続いた。
インドはバングラデシュが曾ての様に民族主義党の下で非友好国に逆戻りする可能性を懸念している。バングラデシュが米国の対インド代理戦争の駒になれば、以前の様にインド政府がテロ組織に指定している組織を国内に匿うかも知れない。更に、
・インドの隣国パキスタンは周知の様にインドが大嫌いだ。
・中国はインドと激しい国境論争を抱えている。
・そして米国はインドが属国にならず、ロシアとも縁を切らないし中国と戦うことも拒否したことに激怒している。
従ってこれら3国もまたバングラデシュと同じ様にインドを罰したいと思う理由を持っていることになる。彼等の利害がバングラデシュに集中すれば、インドの国内安全保障と領土一体性に重大な脅威を齎すかも知れない。
最悪のシナリオでは、これらの国々の政策(協調したものであれ各国独自のものであれ)の総合的な結果が大国としてのインドの台頭を妨害することになる。これは新冷戦に於ける主要なパワープレイのひとつだ。
そうなると決まった訳ではないが、少なくともインドはこの隣国の危機を注意深く監視している。
Analyzing The Regime Change Sequence That Toppled Bangladesh’s Long-Serving Prime Minister
主流メディアのニュースを普通に消費しているだけの人は、バングラデシュについては、レジーム・チェンジ(政権交代、体制転換)を経験したばかりの南アジアの国であると云うこと以外は余り知らない。
だがこの国は世界で8番目に人口の多い国であり、世界最大の繊維産業のひとつを持ち、地理戦略上、非常に重要な位置に在る。
バングラデシュは、最も狭い所で僅か12~14マイルの幅しか無い「ニワトリの首」で本土と繋がっているインド北東部の州(セブン・シスターズ)と国境を接しており、これらの州の幾つかは長年、民族分離主義の不安に悩まされている。
バングラデシュの首相を長年務めたシェイク・ハシナは、中国や米国とも緊密な関係を築いて来たが、事実上のインドの同盟者でもあった。彼女はインドのナレンドラ・モディ首相の地域開発のヴィジョンを共有し、北東諸国との貿易を促進する為にインドが自国内を通過する権利を認めた。
更にハシナはインド政府がテロリストに指定している過激派組織が自国を利用するのを阻止し、宗教過激派の取り締まりも行った。
バングラデシュ経済は彼女のリーダーシップの下で急速に成長したが、彼女は国内の安定を維持する為に強硬な手段にも訴えた。このことは、野党に対する政府の訴訟を「反民主的法律戦」と考える大勢のイスラム主義傾向の若者達を怒らせた。
治安当局は物議を醸す戦術を使用したが、これは図らずも国内の不満を増大させ、それ以前から彼女の多極的にバランスを取る外交政策に不満を持っていた米国がこれを口実として制裁を課すことになった。
2023年4月、ハシナは米国が自分に対するレジーム・チェンジ工作を仕掛けていると非難したが、それ以降、両国間の関係は悪化した。その後11月にはロシアが、野党がボイコットした2024年1月の選挙中に、米国がカラー革命を画策するかも知れないとの懸念を表明した。更にその後ハシナは、自分が米国の基地要求を拒否した後、米国はキリスト教徒の代理国家を作ろうとしていると非難した。
2024年6月になると高等裁判所が、2018年に違法とされた政府の公務員割当制度を復活させた。これが引き金となって、これに不満を持つ多くの人々が街頭に繰り出した。当初この運動を主導していたのは学生達だったが、直ぐに日和見的な野党メンバーや、西洋で養成された市民社会分子、宗教過激派によって取り込まれた。その結果ハシナは辞任して国外へ逃亡した。
今までのの流れを振り返るとこうなる。
2023/04/16:米国がバングラデシュでレジームチェンジを企んでいるのは何故か?(要点)
11/26:ロシアは米国がバングラデシュでカラー革命を画策するかも知れないと警告(抄訳)
・2024/01/10:バングラデシュとブータンの選挙結果はインドに戦略的息抜きを与える(抄訳)
・01/28:The Bangladeshi Opposition’s New Narrative Is Meant To Maximally Appeal To The West
・05/27:Bangladesh Warned About A Western Plot To Carve Out A Christian Proxy State In The Region
・07/25:バングラデシュの騒乱はカラー革命ではないが、直ぐにそうなるかも知れない(抄訳)
・08/05:バングラデシュは本格的なカラー革命に巻き込まれている(抄訳)
・08/05:What’s The Best Way Forward For Bangladesh After Its Regime Change Surprisingly Succeeded?
・08/06:バングラデシュのクーデター後の政治的暴力は将来の方向性にとって幸先が悪い(抄訳)
最高裁が割り当て枠をが縮小した後も暴動は続いた。暴徒達は自分達が議会や宮殿を襲撃しても軍は致死的な武力に訴えないだろうとの賭けに出て、それに勝った。更に文脈を無視した「国が抗議者に暴力を揮う場面」の映像が流されたことで、野党とは無関係の平均的なバングラデシュ人、宗教過激派、外国勢力も激怒してこれに加わることになった。
この戦術は正にカラー革命の特徴だ。多くの人が、暴徒達は、野党バングラデシュ民族主義党の同盟者であるジャマーアテ・イスラーミー(政府から禁止されている)のメンバーではないかと疑っているが、彼等は治安当局を意図的に挑発して、街頭の治安を回復する為に暴力を揮わざるを得ない様な状況を作り出した。ソーシャル・メディアが禁止され、外出禁止令が発令されたにも関わらず、これらの切り取り映像に唆されて街頭へ出た人々は、自分でも知らない内に彼等にとっての「人間の盾」として機能することになった。この為治安当局は機能停止に追い込まれた。
ハシナは治安機関が当てに出来ず、政府が持ち堪えられないことが判ると、国外へ逃亡した。その後、報復的な政治的暴力と、少数派のヒンズー教徒に対する攻撃が続いた。
インドはバングラデシュが曾ての様に民族主義党の下で非友好国に逆戻りする可能性を懸念している。バングラデシュが米国の対インド代理戦争の駒になれば、以前の様にインド政府がテロ組織に指定している組織を国内に匿うかも知れない。更に、
・インドの隣国パキスタンは周知の様にインドが大嫌いだ。
・中国はインドと激しい国境論争を抱えている。
・そして米国はインドが属国にならず、ロシアとも縁を切らないし中国と戦うことも拒否したことに激怒している。
従ってこれら3国もまたバングラデシュと同じ様にインドを罰したいと思う理由を持っていることになる。彼等の利害がバングラデシュに集中すれば、インドの国内安全保障と領土一体性に重大な脅威を齎すかも知れない。
最悪のシナリオでは、これらの国々の政策(協調したものであれ各国独自のものであれ)の総合的な結果が大国としてのインドの台頭を妨害することになる。これは新冷戦に於ける主要なパワープレイのひとつだ。
そうなると決まった訳ではないが、少なくともインドはこの隣国の危機を注意深く監視している。
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