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中印関係は国境紛争を巡って依然として行き詰まり(抄訳)

アンドリュー・コリブコ氏の分析の抄訳。2023/04/27の中印国防相会談では、中国は国境紛争の凍結を望み、インドは2020年のガルワン事件以前の原状回復を望んでいることが明らかになった。これは当面は行き詰まりであり、これにより他国間協力は損なわれることになるだろう。
China & India Remain At An Impasse Over Their Border Dispute



国境紛争に関する立場は中印で真逆

 2023/04/27、上海協力機構(SCO)サミットの一環としてパキスタン以外の全ての参加国の国防相とデリーで会合した中国とインドの国防相は二国間会談で、国境紛争に関して正反対の見解を表明した。

 中国の李尚福将軍は、両国は「相違点より遙かに共通の利益を共有して」おり、、「二国間関係と互いの発展を包括的、長期的、戦略的観点から捉え、世界と地域の平和と安定に対して知恵と力で共同で貢献すべきだ」と述べた。

 他方、インドのラジナート・シン国防相は、「インドと中国の関係発展は国境での平和と静謐が前提であると断固として伝えた。」「既存の合意違反は二国間関係の基礎全体を侵食しており、国境での軍事行動が止んだ場合には論理的に緊張緩和が続くことになると繰り返した。」



問題の背景

 この正反対の見解についての詳しい背景を知りたい読者は、「最近の中印緊張を形成する戦略的力関係は、通常よりも危険である」とする以前のリンク付き分析を参照して欲しい。

 注目すべきは、これは2020年夏のガルワン川渓谷を巡る衝突以降、中国の大臣がこの様な訪問を行うのは初めてだということだ。この衝突は当時中印両国を戦争の瀬戸際まで追い込んだ。

 ここ数ヵ月、両国はインド北東部のアルナーチャル・プラデーシュ州を巡って言い争って来た。中国はここを1962年の戦争中に短期間だけ支配しただけにも関わらず、ここを南チベットであると主張している。

 両者の確執が最近エスカレートしたより大きな背景には、進行中の世界全体の三極化(米国主導の西洋のゴールデン・ビリオン、中露協商、非公式にインドが主導するグローバル・サウス)が横たわっている。従ってこの問題が解決されるまでは、アジア本土に於けるグローバルなシステム移行は不安定な儘になるだろう。

 米国は、インドが中国の同盟国だと世界に誤って信じさせようとしているのと並行して、ロシアは中国の「ジュニア・パートナー」であるとも信じさせようとしている。これらの情報戦の物語はどちらも、BRICSの中核であるロシア・インド・中国(RIC)とSCOを分断統治することを目的としている。

 米国の知覚管理者達は、中国の政策立案者達を操って、インドを米国の新たな汎アジア「封じ込め」連合の一員であると信じさせたいと思っている。その一方で、インド人にもロシアは信頼出来ないパートナーだと思わせたい。だが、一部を除いてこの知覚操作は成功していない。米国は問題を多国間化させようとしているが、中印国境紛争は、依然として純粋な二国間問題であると言える。



中印の抱えるジレンマ

 中国は国境紛争を凍結し、インドとの他の二国間関係から切り離したいと考えている。他方インドは、新しい時代に両国関係を包括的に拡大する条件として、ガルワン事件以前の原状回復を要求している。

 中国の望み通り、インドが実効支配線(LAC)に沿った変更を黙認した場合、インドは中国の「ジュニア・パートナー」であるとの認識が広まるリスクが有る。

 逆にインドの望み通りに中国が軍事的にガルワン以前の状態に戻った場合、今度は中国がインドに対して弱腰だ、と云うことになる。

 モディ首相も習国家主席も、自国を他国に従属させる結果には抵抗を感じている。何か画期的な解決策が出て来なければ、この問題は妥協の無いゼロサム・ゲームの儘だ。

 この行き詰まりは、金融の多極化と云う共通の目標を加速する上で、両国が緊密に協力する可能性(BRICSの準備通貨計画を含む)を妨げることになる。最終的に成功しないと云う訳ではないが、未解決の国境紛争が両国に疑惑を招く所為で、そのポテンシャルを最大限に発揮する可能性は低いだろう。

 これに応じて、各国はBRICS通貨に依存するのではなく、もっと自国通貨の国際化に重点を置くことが予想される。中国はペトロユアン(石油人民元)構想を優先し、インドは本土と海上貿易ルートに沿ってルピーの普及を試みている。

 SCOに関しては、両国はこれに関連するイヴェントには引き続き参加するだろうが、国境紛争が未解決である限りは、両国に期待出来るのは緊密な協力ではなく、広範な連携だけだ。

 観察者の中には、一方を賞賛し、他方を非難して、性急に判断を下したくなる誘惑に駆られる人も居るかも知れない。だが最適なアプローチは、両国は互いに扱い辛い相違点を何とかしようとしていると云う事実を単に受け入れることだ。

 どちらか一方がそれを望んだ場合、全てが簡単に制御不能に陥るかも知れない。だが両国はこれまでのところ、新たなガルワン事件が起こるのを防ぐことには成功している。この点ではどちらも賞賛に値する(それぞれの立場について観察者がどう評価するにせよ)。

 中印の二国間関係は当面は緊張状態が続く可能性が高く、多国間協力は損なわれるだろう。しかし、それぞれがこの「新常態」に向けて十分に準備を整えている様ではある。
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川流桃桜

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一介の反帝国主義者。
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