ワシントン・ポストのインドの暗殺記事は、米国諜報機関による一撃だ(抄訳)
アンドリュー・コリブコ氏の分析の抄訳。インドのモディ首相を非難する2024/04/19のワシントン・ポストの記事は、米国の支配層が彼をインドの指導者として認めないと云うメッセージを送っている。トランプが政権に復帰して両国関係を修復させない限り、印米関係の将来は暗いものになるだろう。
WaPo’s Indian Assassination Article Is A Shot Across The Bow By American Intelligence Agencies
激化する対インド情報戦
2024/04/19、ワシントン・ポスト(WaPo)は「アメリカ本土での暗殺計画がモディのインドの暗い側面を明らかにする」と云う詳細な記事を掲載し、印米関係が近年最大の危機を迎えていることに注目を集めた。
2023年11月、米司法省は、匿名のインド高官が米国の二重国籍を持つ分離主義者(インドからはテロリストに指定されている)を米国本土で暗殺しようと共謀した、と主張したが、インドはこの疑惑を激しく否定した。これ以降、印米関係は著しく悪化の一途を辿っている。
WaPoの報道内容が真実かどうかはこの際どうでも良い(人権や法の支配等に対する関心はその時々の政治的都合によって出たり引っ込んだりするので、WaPoが二心無く真実を明らかにしたかっただけなどとは考えるべきではない)。米国の常設官僚制機構(所謂「ディープ・ステート」)はWaPoにリークするのが大好きなので、この記事は米国の支配層がインドに対して情報攻撃を加えたものだと見るべきだ。重要なのは、これが伝えているメッセージだ。
中でも最も重要なのは、インドの元対外諜報長官が国家安全保障担当大統領補佐官の承認とモディ首相の黙認の下に、この暗殺任務を認可したと云うものだ。インド政府が米国の領土内で暗殺を実行しようとした、と云うメッセージは大変にスキャンダラスなものだ。
またWaPoが匿名のインド当局者と話をしたと主張したこともスキャンダラスだ。これは「インド政府内部に裏切り者が居る」と示唆することで内部の分裂を煽り、治安機関の誠実さを疑わせるのが目的だ。
そして、モディ首相政権下の8年間でインドは民主主義国家から独裁国家に変容し、国外で反体制派を暗殺しまくっていると云う物語が広められている。
インドが米国に狙われる理由
重要なのは、この記事が出されたのはインドで選挙が進行している最中であり、それによって有権者の認識を操作している可能性が有ることだ。
そこには、「ディープ・ステート」がインドに送っている最も重要なメッセージが隠されている。
モディ首相は再選される可能性が高いが、米国支配層は最早彼をインドの指導者として認めないと云うシグナルを送る為に、インドの民主化プロセスに干渉し続けている。ロシアへの非難・制裁を拒否し、AUKUS+の中国封じ込めに加担しなかったモディの「罪」は、彼等にとっては許し難いものだった。モディはインドを米国の「ジュニア・パートナー」として従属させることを拒んだのだ。
またイデオロギー的には現在米国を支配しているリベラル・グローバリスト達は保守ナショナリストであるモディを毛嫌いしており、だからメディアを使って彼は「ファシスト」だと恐怖を煽り、選挙の最中に地域の分断を作り出そうとしている。
他方、米国の保守ナショナリストの一部(福音派)もまた、モディが内戦で荒廃して治安の悪くなっているミャンマーとの国境にフェンスを作ろうとしていることは「反キリスト教的」であると云うプロパガンダを吹き込まれている。これは恐らくモディの3期目政権に対して計画されているであろう新たな制裁圧力に関して、超党派の支持を作り出すことを狙ったものだろう。
印米中関係の今後は不透明
印米中3ヵ国の関係は現在以下の様になっている。
・印米関係は悪化している。
・印中関係も悪化している。
・これらに比べると中米関係は嵐の前の小康状態を保っており、比較的管理可能だ。
この状況を前に、一部のインド人は、中米がインドを犠牲にして「新常態」に向けた協定を交渉しているのではないかと疑っている。
1998年の核実験を受けて米国がインドに対して制裁を課して以来、米国の意図に対するインドの疑惑は増大して来たにも関わらず、過去四半世紀に亘って印米関係は黄金時代を迎えていた。だが今回米国のディープ・ステートの記事は今まで築いて来た信頼関係を、最後の一滴まで蒸発させた。
このダメージを修復する唯一のチャンスは、トランプが政権に復帰し、過去4年間でインドとの関係を愚行によって台無しにして来たディープ・ステートのリベラル・グローバリスト派閥の粛清を成功させることだ。
だがそもそもトランプが再選を果たせるかすら不明だし、彼の計画している制度改革も成功するかどうか分からない。元パートナーであったインドは新冷戦に於ける「フレネミー(frenemy/友人であると同時に敵でもある存在)」として、米国と激しい競争を繰り広げることになるかも知れない。
WaPo’s Indian Assassination Article Is A Shot Across The Bow By American Intelligence Agencies
激化する対インド情報戦
2024/04/19、ワシントン・ポスト(WaPo)は「アメリカ本土での暗殺計画がモディのインドの暗い側面を明らかにする」と云う詳細な記事を掲載し、印米関係が近年最大の危機を迎えていることに注目を集めた。
2023年11月、米司法省は、匿名のインド高官が米国の二重国籍を持つ分離主義者(インドからはテロリストに指定されている)を米国本土で暗殺しようと共謀した、と主張したが、インドはこの疑惑を激しく否定した。これ以降、印米関係は著しく悪化の一途を辿っている。
WaPoの報道内容が真実かどうかはこの際どうでも良い(人権や法の支配等に対する関心はその時々の政治的都合によって出たり引っ込んだりするので、WaPoが二心無く真実を明らかにしたかっただけなどとは考えるべきではない)。米国の常設官僚制機構(所謂「ディープ・ステート」)はWaPoにリークするのが大好きなので、この記事は米国の支配層がインドに対して情報攻撃を加えたものだと見るべきだ。重要なのは、これが伝えているメッセージだ。
中でも最も重要なのは、インドの元対外諜報長官が国家安全保障担当大統領補佐官の承認とモディ首相の黙認の下に、この暗殺任務を認可したと云うものだ。インド政府が米国の領土内で暗殺を実行しようとした、と云うメッセージは大変にスキャンダラスなものだ。
またWaPoが匿名のインド当局者と話をしたと主張したこともスキャンダラスだ。これは「インド政府内部に裏切り者が居る」と示唆することで内部の分裂を煽り、治安機関の誠実さを疑わせるのが目的だ。
そして、モディ首相政権下の8年間でインドは民主主義国家から独裁国家に変容し、国外で反体制派を暗殺しまくっていると云う物語が広められている。
インドが米国に狙われる理由
重要なのは、この記事が出されたのはインドで選挙が進行している最中であり、それによって有権者の認識を操作している可能性が有ることだ。
そこには、「ディープ・ステート」がインドに送っている最も重要なメッセージが隠されている。
モディ首相は再選される可能性が高いが、米国支配層は最早彼をインドの指導者として認めないと云うシグナルを送る為に、インドの民主化プロセスに干渉し続けている。ロシアへの非難・制裁を拒否し、AUKUS+の中国封じ込めに加担しなかったモディの「罪」は、彼等にとっては許し難いものだった。モディはインドを米国の「ジュニア・パートナー」として従属させることを拒んだのだ。
またイデオロギー的には現在米国を支配しているリベラル・グローバリスト達は保守ナショナリストであるモディを毛嫌いしており、だからメディアを使って彼は「ファシスト」だと恐怖を煽り、選挙の最中に地域の分断を作り出そうとしている。
他方、米国の保守ナショナリストの一部(福音派)もまた、モディが内戦で荒廃して治安の悪くなっているミャンマーとの国境にフェンスを作ろうとしていることは「反キリスト教的」であると云うプロパガンダを吹き込まれている。これは恐らくモディの3期目政権に対して計画されているであろう新たな制裁圧力に関して、超党派の支持を作り出すことを狙ったものだろう。
印米中関係の今後は不透明
印米中3ヵ国の関係は現在以下の様になっている。
・印米関係は悪化している。
・印中関係も悪化している。
・これらに比べると中米関係は嵐の前の小康状態を保っており、比較的管理可能だ。
この状況を前に、一部のインド人は、中米がインドを犠牲にして「新常態」に向けた協定を交渉しているのではないかと疑っている。
1998年の核実験を受けて米国がインドに対して制裁を課して以来、米国の意図に対するインドの疑惑は増大して来たにも関わらず、過去四半世紀に亘って印米関係は黄金時代を迎えていた。だが今回米国のディープ・ステートの記事は今まで築いて来た信頼関係を、最後の一滴まで蒸発させた。
このダメージを修復する唯一のチャンスは、トランプが政権に復帰し、過去4年間でインドとの関係を愚行によって台無しにして来たディープ・ステートのリベラル・グローバリスト派閥の粛清を成功させることだ。
だがそもそもトランプが再選を果たせるかすら不明だし、彼の計画している制度改革も成功するかどうか分からない。元パートナーであったインドは新冷戦に於ける「フレネミー(frenemy/友人であると同時に敵でもある存在)」として、米国と激しい競争を繰り広げることになるかも知れない。
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