ロシアはジブチ、エチオピア、南スーダンの総合的な地経学的ポテンシャルを解き放つことが出来る(抄訳)
アンドリュー・コリブコ氏の分析の抄訳。ロシアと南スーダンの接近は、上手く行けばエチオピアとジブチを巻き込んで、アフリカの角地域に互恵的発展を齎すかも知れない。
Russia Could Unlock Djibouti, Ethiopia, & South Sudan’s Combined Geo-Economic Potential
ロシアと南スーダンの野心的計画
2023/11/11、ロシアのTASS通信は、南スーダンのチョル・トン・マヤイ・ジャン大使のインタビューを掲載した。これは両国の関係についての野心的なヴィジョンを表明している。
このインタビューの1ヶ月前の09/28、南スーダンのサルバ・キール大統領はモスクワを訪問してプーチン大統領と会談している。従って大使のインタビューは、2人の会談について重要な洞察を与えてくれる。
主な要点は以下の通りだ。
・ロシアは史上初めて、南スーダンの全ての天然資源の地図を作成することで合意に達した。
・ロシアはまた製油所や、スーダンではなくエチオピアとジブチを経由して紅海に至る代替パイプラインを建設するかも知れない。
・交渉は進行中であり、予備調査が実施され、或る程度の資金調達が確保されている。
・ロシアの石油投資の可能性は、他の産業への投資にも繋がる可能性が有る。
・ロシアの武器売却や軍事訓練プログラムを巡る交渉も進められている。
・南スーダンは、ロシアが自国に対する制裁を解除する為に安保理で影響力を行使してくれることを期待している。
・南スーダンは西洋からの圧力にも関わらず、独立した外交政策を追求し続ける。
両首脳が会談し、大使がインタビューに応じた背景は、(北)スーダンで進行中の不安定性に関係している。驚くべきことに、これはスーダン港を経由する南スーダンの石油輸出を妨げていないものの、依然としてこのパイプラインにどれ程依存しているかに注目が集まった。
南スーダンは一人当たりGDPとPPP(購買力平価)に関して世界で最も貧しい国だが、これらの資源販売が収入の90%を占めている。従って、南スーダンが最終的に輸出ルートを多角化することを決めた理由は理解出来るものだ。
安全保障と物流上の障害
キール大統領は、史上初めて自国の全ての天然資源の地図を作成することに合意したことで証明されている様に、この点でロシアを自国の優先パートナーに選んだ。
OPEC加盟国である南スーダンはサハラ以南のアフリカで3番目に大きな石油埋蔵量を誇っており、報告に拠れば、その内の約90%は手付かずであると考えられている。
その鉱物埋蔵量も大変なもので、殆どが手付かずであると考えられている。
従って資源関連計画が成功すれば、南スーダンはロシアにとって有益なパートナーとなる。
それを実現する為に乗り越えるべき障害は、安全保障と物流だ。
前者は、南スーダンに対する国連安保理の武器禁輸措置を解除することが必要だ。安保理は05/30に更に1年制裁を延長した。この時ロシアは棄権したが、具体的な経済的利益が約束されている今、ロシアは来年の投票で拒否権を発動するかも知れない。
他方、後者を満足させるにはエチオピアが助けになる。09/26のロシア駐在のエチオピア大使のインタビューに拠ると、エチオピア航空のモスクワ行きを現在の週3便を4便に増やし(貨物を含む)、ロシア車をエチオピアで生産することで合意に達した。貿易関係の拡大により、隣国のエチオピアが南スーダンへのロシアの玄関口となるのは当然だ。南スーダンはロシアがエチオピア経由でジブチに至るパイプラインを建設することを提案しているが、これも同様だ。
ロシアと南スーダンの貿易の手助けをすれば、ジブチの港(港湾使用料は年間推定20億ドル)への依存から脱却して貿易ルートを多角化したいエチオピアにとってもコスト削減になる。
その結果、南スーダンの鉱物輸出は世界市場で更に競争力を持つことになるだろう。それはロシアに、南スーダンやエチオピアの現地工場への投資を促すかも知れない。
エチオピアとジブチの難題
上記の観察から、これら3ヵ国の利益に関する興味深い地戦略的洞察が得られる。
4月に勃発したスーダン紛争は、隣国の中央アフリカ共和国(CAR)へのロシアのアクセスが危うくなるリスクを引き起こすと共に、南スーダンが収入の大部分を頼っている石油パイプラインの脆弱性をも明らかにした。
この後ロシアと南スーダンは、多角化によってスーダンへの依存から脱却する為に、互いを支援出来ることに気付き始めた。ロシアは中央アフリカ共和国へアクセスする為にスーダンではなく南スーダンに頼る一方で、南スーダンはスーダンではなくエチオピアとジブチを経由して紅海に至る代替パイプラインの建設でロシアに頼ると云う訳だ。
だが、この互恵計画が成功するかどうかは明らかに、エチオピアとジブチの出方に懸かっている。ところが偶然にも、エチオピアのアビィ・アハメド首相は、ジブチへの依存から脱却する為の多角化の方法を模索し始めていた。
西洋はエチオピアが隣国エリトリアへの侵攻を計画していると根拠の無い恐怖を煽った。だがエチオピアはきっぱりとこの可能性を否定しているし、紅海へのアクセスを与えてくれる相手には、エチオピアのメガプロジェクト(例えば満水したばかりのグランド・エチオピア・ルネッサンス・ダム/GERD)の大口権益を提供するとすら提案している。
南スーダン大使が明らかにしたパイプライン建設計画を考えに入れると、ジブチがこれを促進する為にエチオピアと港湾協定を結ぶ可能性が以前よりも高まるかも知れない。
08/28、南スーダンはジブチへの石油輸送や、エチオピア経由のパイプライン建設について、交渉を始めた(正確にはこのパイプラインはケニア、ジブチ、エチオピア、スーダンを通る)。だが大使のインタビューは、パイプラインの建設については南スーダンは今やロシアを好ましいパートナーと考えていることを示している。南スーダンは真剣にこの計画に取り組んでおり、現在モスクワとの交渉が行われている。予備調査は既に実施されており、一部の資金も確保されている。
アフリカの角地域の将来の現実的なヴィジョン
ジブチが既にエチオピアの対外貿易の95%の玄関口として機能している(これに関して、中国は一帯一路構想の一環としてジブチ-アディスアベバ鉄道に投資している)ことを念頭に置くと、 ジブチは3国全てと合意に達することが望ましいだろう。
アビィ首相が提案した紅海の港とGERDの大口権益の交換にジブチが同意する場合、両国の関係は南スーダンのパイプライン計画について真剣に議論出来るところまで軌道に戻るだろう。
更に、上で述べた様にロシアは南スーダンの資源産業に投資する準備が出来ているので、この計画を促進することに同意するのと引き換えに、このパイプラインを通じて特別待遇レートで自国の石油をジブチに販売することを検討するかも知れない。
ジブチは毎年約20億ドル相当の石油を輸入しているが、これはエチオピアに請求している港湾使用料と略同額だ。ジブチが石油コストを削減出来れば、エチオピアとの港湾協定から失われた分の収入を補うことが出来るだろう。
更に、ロシアが天然資源全体の地図を完成させた後で南スーダンの鉱物を採掘する権利を取得した場合(これはロシアが2024年の安保理で制裁に拒否権を発動した場合の見返りとして与えられる可能性が有る)、ジブチに有益な共同投資取引を提供出来るだろう。
同様に、南スーダン、エチオピア、ジブチでの資源加工の際の付加価値投資に関しても、同じ様なロシア・ジブチ共同協定が締結される可能性が有る。
ジブチがGERDや恐らく他のエチオピアのメガプロジェクト、或いは新たに民営化された元国有企業でジブチが受け取るかも知れない大口権益と相俟って、提案されている港湾協定の結果として収入が減少したとしても、これらの手段を通じて十分に補うことが出来るだろう。
結論
概ね貧しいジブチは、ロシアが支援する取引を通じて得られるエチオピアと南スーダンの権益によって、間も無く東アフリカ地域の有力投資国に変わるかも知れない。その結果として得られる富は、適切に再分配されれば、国民に湾岸諸国レヴェルの発展を齎す可能性が有る。
この互恵的なシナリオが実現する為には、ジブチやエチオピアはロシアに仲介を要請すべきだろう。それにより、このプロセスの手付かずの部分が開始されるかも知れない。
Russia Could Unlock Djibouti, Ethiopia, & South Sudan’s Combined Geo-Economic Potential
ロシアと南スーダンの野心的計画
2023/11/11、ロシアのTASS通信は、南スーダンのチョル・トン・マヤイ・ジャン大使のインタビューを掲載した。これは両国の関係についての野心的なヴィジョンを表明している。
このインタビューの1ヶ月前の09/28、南スーダンのサルバ・キール大統領はモスクワを訪問してプーチン大統領と会談している。従って大使のインタビューは、2人の会談について重要な洞察を与えてくれる。
主な要点は以下の通りだ。
・ロシアは史上初めて、南スーダンの全ての天然資源の地図を作成することで合意に達した。
・ロシアはまた製油所や、スーダンではなくエチオピアとジブチを経由して紅海に至る代替パイプラインを建設するかも知れない。
・交渉は進行中であり、予備調査が実施され、或る程度の資金調達が確保されている。
・ロシアの石油投資の可能性は、他の産業への投資にも繋がる可能性が有る。
・ロシアの武器売却や軍事訓練プログラムを巡る交渉も進められている。
・南スーダンは、ロシアが自国に対する制裁を解除する為に安保理で影響力を行使してくれることを期待している。
・南スーダンは西洋からの圧力にも関わらず、独立した外交政策を追求し続ける。
両首脳が会談し、大使がインタビューに応じた背景は、(北)スーダンで進行中の不安定性に関係している。驚くべきことに、これはスーダン港を経由する南スーダンの石油輸出を妨げていないものの、依然としてこのパイプラインにどれ程依存しているかに注目が集まった。
南スーダンは一人当たりGDPとPPP(購買力平価)に関して世界で最も貧しい国だが、これらの資源販売が収入の90%を占めている。従って、南スーダンが最終的に輸出ルートを多角化することを決めた理由は理解出来るものだ。
安全保障と物流上の障害
キール大統領は、史上初めて自国の全ての天然資源の地図を作成することに合意したことで証明されている様に、この点でロシアを自国の優先パートナーに選んだ。
OPEC加盟国である南スーダンはサハラ以南のアフリカで3番目に大きな石油埋蔵量を誇っており、報告に拠れば、その内の約90%は手付かずであると考えられている。
その鉱物埋蔵量も大変なもので、殆どが手付かずであると考えられている。
従って資源関連計画が成功すれば、南スーダンはロシアにとって有益なパートナーとなる。
それを実現する為に乗り越えるべき障害は、安全保障と物流だ。
前者は、南スーダンに対する国連安保理の武器禁輸措置を解除することが必要だ。安保理は05/30に更に1年制裁を延長した。この時ロシアは棄権したが、具体的な経済的利益が約束されている今、ロシアは来年の投票で拒否権を発動するかも知れない。
他方、後者を満足させるにはエチオピアが助けになる。09/26のロシア駐在のエチオピア大使のインタビューに拠ると、エチオピア航空のモスクワ行きを現在の週3便を4便に増やし(貨物を含む)、ロシア車をエチオピアで生産することで合意に達した。貿易関係の拡大により、隣国のエチオピアが南スーダンへのロシアの玄関口となるのは当然だ。南スーダンはロシアがエチオピア経由でジブチに至るパイプラインを建設することを提案しているが、これも同様だ。
ロシアと南スーダンの貿易の手助けをすれば、ジブチの港(港湾使用料は年間推定20億ドル)への依存から脱却して貿易ルートを多角化したいエチオピアにとってもコスト削減になる。
その結果、南スーダンの鉱物輸出は世界市場で更に競争力を持つことになるだろう。それはロシアに、南スーダンやエチオピアの現地工場への投資を促すかも知れない。
エチオピアとジブチの難題
上記の観察から、これら3ヵ国の利益に関する興味深い地戦略的洞察が得られる。
4月に勃発したスーダン紛争は、隣国の中央アフリカ共和国(CAR)へのロシアのアクセスが危うくなるリスクを引き起こすと共に、南スーダンが収入の大部分を頼っている石油パイプラインの脆弱性をも明らかにした。
この後ロシアと南スーダンは、多角化によってスーダンへの依存から脱却する為に、互いを支援出来ることに気付き始めた。ロシアは中央アフリカ共和国へアクセスする為にスーダンではなく南スーダンに頼る一方で、南スーダンはスーダンではなくエチオピアとジブチを経由して紅海に至る代替パイプラインの建設でロシアに頼ると云う訳だ。
だが、この互恵計画が成功するかどうかは明らかに、エチオピアとジブチの出方に懸かっている。ところが偶然にも、エチオピアのアビィ・アハメド首相は、ジブチへの依存から脱却する為の多角化の方法を模索し始めていた。
西洋はエチオピアが隣国エリトリアへの侵攻を計画していると根拠の無い恐怖を煽った。だがエチオピアはきっぱりとこの可能性を否定しているし、紅海へのアクセスを与えてくれる相手には、エチオピアのメガプロジェクト(例えば満水したばかりのグランド・エチオピア・ルネッサンス・ダム/GERD)の大口権益を提供するとすら提案している。
南スーダン大使が明らかにしたパイプライン建設計画を考えに入れると、ジブチがこれを促進する為にエチオピアと港湾協定を結ぶ可能性が以前よりも高まるかも知れない。
08/28、南スーダンはジブチへの石油輸送や、エチオピア経由のパイプライン建設について、交渉を始めた(正確にはこのパイプラインはケニア、ジブチ、エチオピア、スーダンを通る)。だが大使のインタビューは、パイプラインの建設については南スーダンは今やロシアを好ましいパートナーと考えていることを示している。南スーダンは真剣にこの計画に取り組んでおり、現在モスクワとの交渉が行われている。予備調査は既に実施されており、一部の資金も確保されている。
アフリカの角地域の将来の現実的なヴィジョン
ジブチが既にエチオピアの対外貿易の95%の玄関口として機能している(これに関して、中国は一帯一路構想の一環としてジブチ-アディスアベバ鉄道に投資している)ことを念頭に置くと、 ジブチは3国全てと合意に達することが望ましいだろう。
アビィ首相が提案した紅海の港とGERDの大口権益の交換にジブチが同意する場合、両国の関係は南スーダンのパイプライン計画について真剣に議論出来るところまで軌道に戻るだろう。
更に、上で述べた様にロシアは南スーダンの資源産業に投資する準備が出来ているので、この計画を促進することに同意するのと引き換えに、このパイプラインを通じて特別待遇レートで自国の石油をジブチに販売することを検討するかも知れない。
ジブチは毎年約20億ドル相当の石油を輸入しているが、これはエチオピアに請求している港湾使用料と略同額だ。ジブチが石油コストを削減出来れば、エチオピアとの港湾協定から失われた分の収入を補うことが出来るだろう。
更に、ロシアが天然資源全体の地図を完成させた後で南スーダンの鉱物を採掘する権利を取得した場合(これはロシアが2024年の安保理で制裁に拒否権を発動した場合の見返りとして与えられる可能性が有る)、ジブチに有益な共同投資取引を提供出来るだろう。
同様に、南スーダン、エチオピア、ジブチでの資源加工の際の付加価値投資に関しても、同じ様なロシア・ジブチ共同協定が締結される可能性が有る。
ジブチがGERDや恐らく他のエチオピアのメガプロジェクト、或いは新たに民営化された元国有企業でジブチが受け取るかも知れない大口権益と相俟って、提案されている港湾協定の結果として収入が減少したとしても、これらの手段を通じて十分に補うことが出来るだろう。
結論
概ね貧しいジブチは、ロシアが支援する取引を通じて得られるエチオピアと南スーダンの権益によって、間も無く東アフリカ地域の有力投資国に変わるかも知れない。その結果として得られる富は、適切に再分配されれば、国民に湾岸諸国レヴェルの発展を齎す可能性が有る。
この互恵的なシナリオが実現する為には、ジブチやエチオピアはロシアに仲介を要請すべきだろう。それにより、このプロセスの手付かずの部分が開始されるかも知れない。
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