エニグモ社の雑誌通販サイト「コルシカ」についてはあれこれ疑問に思っていたのだが、調べてみるとちょうどいい記事があった。
「コルシカ」――歴史に残るかわからないけど、記憶には残りましたね!
こちらに私が抱いたのと概ね同じような疑問が連ねられている。著作権など出版社との関係については同じような記事を多く見たように思うが、それ以外の部分。
と思っていたら、上記記事の続きがあった。
エニグモ社でコルシカのこと聞いてきました
あくまでコルシカ側の言い分ではあるにせよ、疑問に思っていた部分はだいたいどう考えられていたか解った。スッキリしたという意味で、すごくいい記事だと思う。
で、何を気にしていたかというと「仕入れ」と「在庫」の部分。
コルシカ側の言い分だと
・最初にまとまった数を取り次ぎより仕入れ。仕入れ分がはけたら売り切れにして再入荷はしない
・入荷した本は買い切りで返本しない。売れ残りや売れたが発想されなかった本はエニグモ負担で廃棄する。廃棄証明書を出版社に対して発行するようにしていきたい。
特に返本については謎だったので(普通に考えればブツが手元に残ろうが売れてしまえば返本はできないだろう)、買い切りにしたというのは納得がいく。
他にも「ビューワーで見られるのが12ヶ月、マイフォルダにクリッピングすれば見られるのは36ヶ月」とか「ブツの発送希望者は購入後30日以内に申し込むこと」という当たりはやや念頭に起きたい。この期限などは撤廃の可能性も否定されていない。
以下、エニグモ側が虚偽を述べてないという前提で、それでも残った気になる部分や疑問点を書いてみる。
そもそもコルシカが中断を余儀なくされたのは、出版社に無断で「本を買うとデータをビューワで見られる」というのがサービスに含まれていた点。著作権的にはアウトなようだが、上記記事によると
・顧問弁護士と事前に相談はしていない
・既存の書店と同じく、出版社とは取次ぎを解して交渉する気でいた(取次ぎとは話した)
ということらしい。
個別の出版社と交渉するのではなく、先にサービス開始して一網打尽とまではいかないものの、少しでも多くの出版社を一度で交渉の席につかせるのが目論見なんじゃないかと思っていたのだが、エニグモ側の話では「既存書店と同じような振る舞い」をした結果、出版社との事前の個別交渉をしなかったということらしい。
他にも上記インタビューでは「自らを既存書店と同位置」に位置づけての振る舞い、というスタンスが散見される。
まあ実際、「本を買うとデータをビューワで見られる」という点がなければコルシカはベタな「雑誌専門のネットショップ」だ。取次ぎから本を仕入れて、それを人に売る。物理的な本の「仕入れ」と「在庫」がある点で、パピレスみたいな電子書籍販売とは大きく違う。
デジタルデータの閲覧権を売るわけではないのに「ビューワーで見られるのが12ヶ月、マイフォルダにクリッピングすれば見られるのは36ヶ月」「ブツの発送希望者は購入後30日以内に申し込むこと」というのは微妙だが、雑誌は分野によるがだいたいバックナンバーなんてそうそう売れないし、ブツの発送希望受付に期限がないと、そのためだけに「必要かどうか判らない」ブツが倉庫で売ることもママならないまま「在庫」として計上され続けるので仕方ないのだろう。
とはいえ、「ブツとしての本を売ってる体裁なのに、1ヶ月以内に発送申請しない場合は36ヶ月で買ったものが読めなくなる」という「それって事実上デジタルデータの閲覧権を売ってるってことちゃうん?」なんてツッコミが入りそうな微妙な感じではある。「通常の売価は送料込み。基本的に買った雑誌は発送されるが、不要な人は1ヶ月以内に申請すること。その際、送料分は返金される」ならまだ体裁と整合する気がするが。
それはそれとして。じゃあ出版社(や他の著作権者)との関係が諸々クリアになってコルシカが晴れてサービスを再開したとして、儲かるんだろうか?
【コスト関連】
コルシカの本の売価は書店と同じで発送の場合は実費程度がプラスされる。ということは、現状だと仕入れ値と売価の差額だけが収入になる。雑誌の仕入れ値は定価の6割~7割くらいなので、460円の雑誌なら売上げは138円~184円となる。1000冊仕入れた雑誌が完売しても138,000円~184,000円と、たいして儲からない。
勢いたくさん売る必要があるのだが、そのほとんどのブツが廃棄されるなら、全体の入荷数が増えれば増えるほど廃棄代(と証明書も発行するならその発行手数料)、在庫を抱える場合はその倉庫代などが必要になる。
入荷分がすべて売れればいいが、売れ残った場合にいつまで在庫として販売を続けるかという問題もある。次号が出たら廃棄、だと普通の書店と同じで「最新号しか買えない」というラインアップになる。とはいえ、返本できないので在庫として塩漬けにするにも限度がある。どこかで見極めが必要だろう。
というわけで、当然ながら「売れ筋の雑誌は多く」「売れない雑誌は少なく」というように、ごくごく普通の「仕入れの見極め」が必要になる。あんまりにも売れない雑誌は取り扱い数を最小にするか、中止することになるだろう。結局、続けていけば通常の大型書店の雑誌コーナーと大差ない商品構成と入荷比率になるのではないか。
【需要関連】
一方で雑誌専門であり続ける場合、競合としては書店だけでなく「コンビニ」「キオスク」も含まれる。というか、ネット通販で雑誌が欲しい人って「そういう場所に行けない」「マイナーな雑誌で取り寄せが必要」「バックナンバーが欲しい」ということだろう。それに加えてコルシカは「ブツを手元に置けない。置きたくない」という人がターゲットになる。
しかし「行けば買えるが、コンビニにもキオスクにも本屋にも行けない」人というのはそう多くないし、「マイナーな雑誌で取り寄せが必要」という人にしても「仕入れの見極め」をやっているとコルシカでさえ扱わなくなる可能性があるし、入荷してもすぐ売り切れるとかで定期購読の方がマシになったりしないだろうか。バックナンバー需要は絶対数が限られるし、コルシカとてそうそういつまでも売れ残った雑誌のバックナンバーを売っててくれるとは思いにくい。
「ブツを手元に置けない。置きたくない」という人にとっては重宝だろうが、最長36ヶ月で読めなくなるくらいなら普通に書店などで買って読み終わったら、とか翌月には、とかで捨てるのとどうなんだろう、大差ない気もする。
そんなこんなで、コルシカは
・通常の書店のように店舗費用が不要な代わりに、システム運用費、廃棄費、倉庫管理費が必要
・需要としては微妙。ロングテールも狙いにくい
→販売業者としてネット通販である利点が薄い
・そもそも雑誌販売は利益が少ない
という問題があるように思う。エニグモはこの辺のプラスとマイナスでプラスの方が大きいと判断したんだろう。ということはそれなりの根拠があるのだろうが、傍目で一見するとそう上手くいくとも思いにくい。
というわけで大騒ぎしたわりに、このままだといざスタートしたら残念な収支になるんじゃないかという気がする。素人考えだが。書店業とかに詳しい人の予想も知りたいところ。
「コルシカ」――歴史に残るかわからないけど、記憶には残りましたね!
こちらに私が抱いたのと概ね同じような疑問が連ねられている。著作権など出版社との関係については同じような記事を多く見たように思うが、それ以外の部分。
と思っていたら、上記記事の続きがあった。
エニグモ社でコルシカのこと聞いてきました
あくまでコルシカ側の言い分ではあるにせよ、疑問に思っていた部分はだいたいどう考えられていたか解った。スッキリしたという意味で、すごくいい記事だと思う。
で、何を気にしていたかというと「仕入れ」と「在庫」の部分。
コルシカ側の言い分だと
・最初にまとまった数を取り次ぎより仕入れ。仕入れ分がはけたら売り切れにして再入荷はしない
・入荷した本は買い切りで返本しない。売れ残りや売れたが発想されなかった本はエニグモ負担で廃棄する。廃棄証明書を出版社に対して発行するようにしていきたい。
特に返本については謎だったので(普通に考えればブツが手元に残ろうが売れてしまえば返本はできないだろう)、買い切りにしたというのは納得がいく。
他にも「ビューワーで見られるのが12ヶ月、マイフォルダにクリッピングすれば見られるのは36ヶ月」とか「ブツの発送希望者は購入後30日以内に申し込むこと」という当たりはやや念頭に起きたい。この期限などは撤廃の可能性も否定されていない。
以下、エニグモ側が虚偽を述べてないという前提で、それでも残った気になる部分や疑問点を書いてみる。
そもそもコルシカが中断を余儀なくされたのは、出版社に無断で「本を買うとデータをビューワで見られる」というのがサービスに含まれていた点。著作権的にはアウトなようだが、上記記事によると
・顧問弁護士と事前に相談はしていない
・既存の書店と同じく、出版社とは取次ぎを解して交渉する気でいた(取次ぎとは話した)
ということらしい。
個別の出版社と交渉するのではなく、先にサービス開始して一網打尽とまではいかないものの、少しでも多くの出版社を一度で交渉の席につかせるのが目論見なんじゃないかと思っていたのだが、エニグモ側の話では「既存書店と同じような振る舞い」をした結果、出版社との事前の個別交渉をしなかったということらしい。
他にも上記インタビューでは「自らを既存書店と同位置」に位置づけての振る舞い、というスタンスが散見される。
まあ実際、「本を買うとデータをビューワで見られる」という点がなければコルシカはベタな「雑誌専門のネットショップ」だ。取次ぎから本を仕入れて、それを人に売る。物理的な本の「仕入れ」と「在庫」がある点で、パピレスみたいな電子書籍販売とは大きく違う。
デジタルデータの閲覧権を売るわけではないのに「ビューワーで見られるのが12ヶ月、マイフォルダにクリッピングすれば見られるのは36ヶ月」「ブツの発送希望者は購入後30日以内に申し込むこと」というのは微妙だが、雑誌は分野によるがだいたいバックナンバーなんてそうそう売れないし、ブツの発送希望受付に期限がないと、そのためだけに「必要かどうか判らない」ブツが倉庫で売ることもママならないまま「在庫」として計上され続けるので仕方ないのだろう。
とはいえ、「ブツとしての本を売ってる体裁なのに、1ヶ月以内に発送申請しない場合は36ヶ月で買ったものが読めなくなる」という「それって事実上デジタルデータの閲覧権を売ってるってことちゃうん?」なんてツッコミが入りそうな微妙な感じではある。「通常の売価は送料込み。基本的に買った雑誌は発送されるが、不要な人は1ヶ月以内に申請すること。その際、送料分は返金される」ならまだ体裁と整合する気がするが。
それはそれとして。じゃあ出版社(や他の著作権者)との関係が諸々クリアになってコルシカが晴れてサービスを再開したとして、儲かるんだろうか?
【コスト関連】
コルシカの本の売価は書店と同じで発送の場合は実費程度がプラスされる。ということは、現状だと仕入れ値と売価の差額だけが収入になる。雑誌の仕入れ値は定価の6割~7割くらいなので、460円の雑誌なら売上げは138円~184円となる。1000冊仕入れた雑誌が完売しても138,000円~184,000円と、たいして儲からない。
勢いたくさん売る必要があるのだが、そのほとんどのブツが廃棄されるなら、全体の入荷数が増えれば増えるほど廃棄代(と証明書も発行するならその発行手数料)、在庫を抱える場合はその倉庫代などが必要になる。
入荷分がすべて売れればいいが、売れ残った場合にいつまで在庫として販売を続けるかという問題もある。次号が出たら廃棄、だと普通の書店と同じで「最新号しか買えない」というラインアップになる。とはいえ、返本できないので在庫として塩漬けにするにも限度がある。どこかで見極めが必要だろう。
というわけで、当然ながら「売れ筋の雑誌は多く」「売れない雑誌は少なく」というように、ごくごく普通の「仕入れの見極め」が必要になる。あんまりにも売れない雑誌は取り扱い数を最小にするか、中止することになるだろう。結局、続けていけば通常の大型書店の雑誌コーナーと大差ない商品構成と入荷比率になるのではないか。
【需要関連】
一方で雑誌専門であり続ける場合、競合としては書店だけでなく「コンビニ」「キオスク」も含まれる。というか、ネット通販で雑誌が欲しい人って「そういう場所に行けない」「マイナーな雑誌で取り寄せが必要」「バックナンバーが欲しい」ということだろう。それに加えてコルシカは「ブツを手元に置けない。置きたくない」という人がターゲットになる。
しかし「行けば買えるが、コンビニにもキオスクにも本屋にも行けない」人というのはそう多くないし、「マイナーな雑誌で取り寄せが必要」という人にしても「仕入れの見極め」をやっているとコルシカでさえ扱わなくなる可能性があるし、入荷してもすぐ売り切れるとかで定期購読の方がマシになったりしないだろうか。バックナンバー需要は絶対数が限られるし、コルシカとてそうそういつまでも売れ残った雑誌のバックナンバーを売っててくれるとは思いにくい。
「ブツを手元に置けない。置きたくない」という人にとっては重宝だろうが、最長36ヶ月で読めなくなるくらいなら普通に書店などで買って読み終わったら、とか翌月には、とかで捨てるのとどうなんだろう、大差ない気もする。
そんなこんなで、コルシカは
・通常の書店のように店舗費用が不要な代わりに、システム運用費、廃棄費、倉庫管理費が必要
・需要としては微妙。ロングテールも狙いにくい
→販売業者としてネット通販である利点が薄い
・そもそも雑誌販売は利益が少ない
という問題があるように思う。エニグモはこの辺のプラスとマイナスでプラスの方が大きいと判断したんだろう。ということはそれなりの根拠があるのだろうが、傍目で一見するとそう上手くいくとも思いにくい。
というわけで大騒ぎしたわりに、このままだといざスタートしたら残念な収支になるんじゃないかという気がする。素人考えだが。書店業とかに詳しい人の予想も知りたいところ。
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