“大人の発達障害”と決め付ける社会で起きた原発事故

NHKクローズアップ現代「“大人の発達障害”個性を生かせる職場とは?」

“大人の発達障害”。脳機能の発達に偏りがあり、例えば「人の気持ちを察することが苦手」などの傾向がある。しかし、中には、集中力や記憶力に優れているなどの特性も見られる。そのため大人になっても自覚なく働いている人がほとんどだ。かつては“少し変わっている”とされるだけで問題なく職場に溶け込んでいたこうした人たちが、今、孤立し、うつ病になるケースが増えている。背景にあるのは、成果主義の導入などでゆとりを失い、不寛容になった職場環境。

放送では“大人の発達障害”の特徴として「言ったことを文字通りそのまま理解してしまう」「空気読めない」などが挙げられ、こういう人達をコミュニケーション不全としている。
しかし、職場の「空気読めない」などというもののほとんどは実は組織の権力関係に対する鈍感さ、センサーの未発達によるものだろう。他にも、もったいぶった態度というのも、おおむね優位者から劣位者への態度で、権力関係の所産によるコミュニケーション法だ。本当は分かっていない癖に知ったかぶりして済ませられるのも優位者の特権だ。正直にものを考える人であればあるほどそうした権力関係の所産によるコミュニケーションが苦手だ。
どこの組織でも多かれ少なかれ猿山的なボス、ナンバー1、ナンバー2・・・という暗黙の序列が存在する。「言ったことを文字通りそのまま理解してしまう」というのも、実は職場の権力関係に無頓着なことが大きい。例えば放送にあったように上司が部下に命ずる場合、地位的に優位にある上司はほぼ無意識に言うことを省略して聞き手にはどうにでも取れることを言ってしまう。同じ上司がさらにその上の上司に報告する場合、同じように曖昧な言い方をするだろうか。文字通り粗相なきよう念には念を入れて報告する筈だ。後で上司に誤解されて窮地に立つのは本人だからだ。同じことを説明するにしても職場内権力関係で相手が自分より優位か劣位かで説明の仕方が随分異なったものになる。また上司の思い違い、思い込みは反論されずにそのまま「正しい」と見なされがちだが、部下の「正しい意見」はそのまま検証されずに部下の思い違いと判断される確率が高い。
つまるところ、「言ったことを文字通りそのまま理解してしまう」と思ってしまうのは権力の優位性の所産であることが多い。そう思っている本人は己自身の上から目線な態度には逆に恐ろしく鈍感だ。翻って、企業が就活で体育会系の人を重宝するのは何も体力があるとかではなく、権力関係に敏感なセンサーを学生時代から訓練していたからだろう。
番組では「普通」と「“大人の発達障害”」に分けて、「ひどいね」と言ったことと反するような表情の顔を見せて脳がどう反応するか違いを示している。このような報道の仕方はあたかも“大人の発達障害”が脳の生理学的レベルで障害があるかのような偏見を助長しかねない。
では、権力関係ばかり見て物事を判断する人間は“大人の発達障害”ではないのか? 例えば原発事故で露呈された原子力村のあたふたぶりは、普段から権力関係的思考ばかりしているから目の前に重大事故が起きていても正常な判断を下せていなかったではないか。正に空気読み過ぎてばかりいるから空気を放射能汚染させてしまった。
実はいざという時に物事を正確に実行して正確に対処するには、「言ったことを文字通りそのまま理解してしまう」というベーシックなコミュニケーション能力が一番大事だ。あんな緊急事態に「お前、そんなことも理解できんのか」じゃ、ますます混乱するだけだ。
こういう空気読めない人々を“大人の発達障害”と決め付けるのなら、原子力村住民や空気読んだポジショントーク以外、素直に正直に考えるというベーシックな思考が退化してしまった霞が関あたりの人々こそ“大人の発達障害”と呼ぶべきだろう。
しかし、どちら側を“大人の発達障害”と呼ぶかということすら権力関係に依存しているのだから覆ることは絶望的に不可能だろう。
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