2017年08月

2017年08月19日

今回ご紹介するのはこの本(詩集)です。
この本は昭和20年代~平成8年までの中学・高校の国語教科書から詩、漢詩、訳詩、短歌、和歌、俳句を厳選して掲載したものです。

新聞コラムや、マンガ・アニメなどを含む現代の諸々の芸術作品にもたびたび引用されたりリスペクトされたりしている詩歌が満載ですので、“大人の教養”を高めるのにも、“美しい日本語”を学ぶのにも役立ちます。

振り返ってみれば自分は、国語の教科書を“勉強の道具”として見たことが、あまりありませんでした。
気がつけば活字中毒だった自分にとって国語の教科書は、様々な作家さんの様々な種類の文章を集めた“アンソロジー”でした。
なので、4月などのかなり早い段階で(解説以外の)ほぼ全てを読み尽くし、さらには自分のものだけでは飽き足りず、兄弟の教科書まで読んでいたほどです。
そんな自分にとってこの本は、自分の学んでいない教科書の詩歌まで網羅した夢のような一冊なのです。

有名ではあるものの実際には読んだことのなかった智恵子抄の「あどけない話」や、新海誠監督の「雲のむこう、約束の場所(※)」(の予告映像)で気になっていた宮沢賢治さんの「永訣の朝」など、この本により全文読むことができ、非常に満足しました。

それにその他の作品も、教科書に採用されているものだけあって名作が多く、普通に読むのはもちろん、音読しても楽しめます。

そして、非常に沢山の詩人・歌人が載っていますので、今まで知らなかった新たなお気に入り詩人・歌人を“発掘”するのにも役立ちます。

また、この本には面白く便利な特徴が一つあります。
それは「うろおぼえ索引」が付いていることです。
 
詩のタイトルや作者が思い出せなくても、印象に残っている有名フレーズからでも詩が探せるのです。
(もちろん、題名や作者から探せる索引も付いています。)

国語の教科書に載っていた詩や俳句、和歌や漢詩にうっとりした経験のある方、学生時代を思い出してノスタルジーに浸りたい方、昔は何とも思わず読み流した詩の思わぬ“深さ”を再発見して感動したい方などは、ぜひ読んでみてはいかがでしょうか。

ちなみに自分がこの本で新たに出会い、お気に入りとなった詩の一つに長田弘さんの「世界は一冊の本」があります。

出典は1991年元旦の朝日新聞で「本を読もう」と繰り返し訴えている詩なのですが、それがただ単に「活字離れの時代だから、もっと若者に本を読んで欲しい」という内容ではなく、この世の森羅万象全てが“本”であり、それを「もっと読もう」と言っていること――この世のあらゆる事象に目を向け、自分の頭を使って考えることで、そこに刻まれた目には見えない言葉、それによってつづられた、一つとして同じものはない物語を読み取っていこう、と訴えている――そこに、とても感銘を受けました。
 


(※)「雲のむこう、約束の場所」とは新海誠監督による劇場アニメーション作品です。

劇場アニメーション「雲のむこう、約束の場所」 [Blu-ray]
吉岡秀隆
コミックス・ウェーブ・フィルム
2008-04-18

 

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今回ご紹介するのは、こちらの絵本です。

ヤンときいろいブルンル
やすい すえこ
フレーベル館
1986-05






これは自分が小さい頃、一番のお気に入りだった絵本です。
と言っても、家にあったわけではなく、図書館にあった絵本で、期限が来たら返さなくてはいけないのが哀しくてたまらなかった一冊です。

面倒くさがる母を引っ張って図書館に通い、何度も何度も借りて読むほどに執着した絵本でした。

何がそんなに気に入っていたのかと言うと、まずは黒井健さんによる、ホワホワした子猫の手ざわりまで伝わってきそうな、やわらかであたたかい絵のタッチです。

「ごんぎつね(※)」や「手ぶくろを買いに(※2)」などで既にご存知の方もいらっしゃるでしょうが、黒井健さんは動物の絵を可愛らしく描くのがとてつもなく上手な方です。

しかもただ可愛いだけでなく、ぼんやりと輪郭の霞んだ淡い絵には、どこか神秘的な雰囲気まで漂っているように感じられます。

しかも、美しく神秘的なだけでもなく、ハッとさせる場面では読み手も思わずハッとするような絵を、切ない場面では読んでいるこちらまでつられて切なくなってしまうような絵を描かれる方です。

この絵本でも、黄色い車ブルンルは、擬人化されているわけでも顔が付いているわけでもない普通の車なのですが、哀しい場面では、まるで涙を流しているように見え、読み手を切なくさせます。

この絵本は、楽しくハッピーな絵本というわけではありません。

むしろ世の中のシビアさや、それに振り回される切なさが描かれています。
優しかったはずの女の子でさえ心変わりをし、そのことに幼い自分はショックを受けたことを覚えています。

でも、世の中がどんなにシビアで思うようにいかなくても、その中でも変わらない一途な友情、自分の想いを貫く強さも、この絵本には描かれているのです。

この絵本の中で自分が特に好きなのは、最後のページ、大人の猫になったヤンが逆光の中、黒いシルエットで描かれている場面です。
 
日の光でぼんやり金色の輝いたその姿は、何だかただの猫ではなく神秘的な力を備えた“何か”のように力強く、美しく見え、最初に見た時に感受性を鷲づかみにされたのです。

幼い頃には結局買ってもらえなかったこの絵本、社会人となった今はAmazonで普通に買えて、今は本棚の中、宝物として大切にしまわれています。



(※)
 
(※2)

 

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2017年08月13日


今回ご紹介するのはこちらの本です。






小学生向けの児童文学として出版された本で、映画化もされています。

広島の原爆を扱った“物語”なのですが、一番の特徴は、原爆を扱った作品でありながら、原爆投下後の悲惨な状況はほとんど描かれていないため、そういった描写が苦手な方でも読める、ということです。

(そういう意味では、昨年からロングランを続けている映画「この世界の片隅に(※)」(およびその原作)と共通する部分があるかも知れません。)

ただ、恐いです。

背筋をゾクゾクさせるようなホラー的、あるいはサスペンス的な“恐さ”があります。

挿絵もまた、物語が内包する“恐さ”をさらに煽り立てるような独特な雰囲気を持った絵で、小学生当時の自分は「恐い、恐い」と肝だめし的緊張感を味わいながらも、ページをめくる手を止められなかったのをよく覚えています。

物語は原爆から十数年経った夏の広島を、主人公である少年とその妹(そしてその母)が親戚の家を訪ねて行くところから始まります。

夏休み、見知らぬ土地を“探検”する少年が様々な発見と出逢いを通し、その土地で過去に起きた悲劇を知っていく、という物語なのです。

夏休み、親戚の家、見知らぬ土地の冒険というシチュエーションが、小学生だった自分にとってかなり“身近”で親近感があり、さらに、夏特有のじっとりした暑さや空気感が非常に克明に描かれているものですから、まるで「主人公=自分」のような感覚で物語の中に没入していけたのを覚えています。

そして、少年が知る“悲劇”の描き方も、陰惨だったり残酷というのとは違い、ただひたすらに「切ない」のです。

それは「戦争」という想像だに及ばない大きな悲劇と言うよりも、もっと身近な、抗い難い運命に翻弄される人生の悲哀に似ていて、それゆえにリアリティーをもって胸に迫ってくるのです。

この物語は、ある登場人物の運命が、その後どうなるか分からない、という所で終わります。

読み終わった後、何とも言えない切なさとモヤモヤが残ります。

でも、だからこそこの物語は未だに自分の心に残り続けているのだと思います。

自分は小学一年生の時「ひろしまのピカ(※2)」を読んで衝撃を受けて以来、小学生の頃の読書テーマを「戦争児童文学」として、様々な本を読み漁ってきましたが、その中でどれか一冊を選べ、と言われたらこの本を選びます。

戦争を扱っていない他の物語をひっくるめても「夏(夏休み)に読む一冊」と言われれば、この本を選びます。

それほどに印象深く「心に刺さる」一冊なのです。

(単行本の他、青い鳥文庫版もあります。)
  ↓




※「この世界の片隅に」は、こうの史代さん作のマンガおよび、そのマンガを原作として作られた映画です。

昭和19年に広島・呉に嫁ぎ、大切なものを失いながらも前を向いて生きていく一人の女性の物語です。

この世界の片隅に [Blu-ray]
のん
バンダイビジュアル
2017-09-15



 
(※2)「ひろしまのピカ」は原爆投下直後の広島の様子を描いた丸木俊さん作の絵本です。


 

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今回ご紹介するのは荻原規子さん作の日本古代のような世界を舞台にしたファンタジー小説

「空色勾玉」「白鳥異伝」「薄紅天女」の3作からなる、いわゆる「勾玉三部作」です。


空色勾玉
荻原 規子
徳間書店
1996-07-01


白鳥異伝
荻原 規子
徳間書店
1996-07-01


薄紅天女
荻原 規子
徳間書店
1996-08-01






世の中に「ファンタジー小説」というものは数多くありますが、その中で「和風ファンタジー」の割合は、そう多くはありません。

さらにその「和風ファンタジー」も時代で見れば平安時代(以降)が主で、古代を扱ったファンタジーというものは意外と少ないのです。

(古代になると「和風ファンタジー」というより「倭風ファンタジー」の方がしっくり来る気もしますが、そんなジャンルはたぶん存在しないので「和風ファンタジー」で通します。)

個人的には日本の古代な魅力的な八百万の神々アリ、まだ謎が多く残された時代であるがゆえのロマンがたくさんアリで、かなり魅力的な時代だと思うのですが……。

まぁ、ともかくそんな日本の古代を舞台にした和風ファンタジー小説の中でも群を抜いて面白いのが、この「勾玉三部作」なのです。

この作品は初めは現ベネッセである福武書店から児童文学として出版されたもので、ボリューム(文章量)はかなりのものですが、児童文学であるがゆえにとても読みやすい物語になっています。

しかしながら読んでいてドキドキ・ハラハラするサスペンス性、予想を裏切る意外なストーリー展開は大人、それもミステリー好きな大人でも充分楽しめるものです。

さらにそこに日本神話ベースのファンタジー要素が加わることで、物語に神秘的な深淵さをプラスしているのです。 三部作は世界観や勾玉というキー・アイテムは共通しているものの、時代が異なる独立した3つの物語になっていますので、それぞれ単独でお読みいただいても充分楽しめます。

(三部作通して読んでいただくと、さらに“深く”楽しめますが。)

神名などはオリジナルのものになっていますが、日本神話ベースですので、古事記・日本書紀がお好きな方なら思わずニヤリとしてしまうような神様・キャラクターも出て来ます。

また、そうでない方でも、日本の古代に思いを馳せられる貴重なファンタジー作品ですので、興味をお持ちの方はぜひ読んでみてください。

夏休みの読書にも最適です!

ちなみに管理人が始めてネット上に発表した小説(「花咲く夜に君の名を呼ぶ」)も日本の古代と日本神話(風土記含む。←と言うより常陸国風土記がベース)をモチーフにした和風ファンタジーですが、気づけば勾玉三部作とは全く違う出来になっています。

(悪い意味ではありませんが…。)


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はじめまして。 津籠 睦月と申します。
  

このブログでは、管理人・津籠がこれまで読んできた好きなモノ、使っている猫用品などについてご紹介しつつ、感想をフリーダムに語っていく予定です。
  

本などは、なるべくネタバレしない方向で語っていくつもりですが、少ない情報からでも結末が推理できてしまうカンの良い方には完全に「ネタバレ無し」と保証はできません。ご注意およびご了承ください。
  

あくまで個人の感想ですので、管理人と趣味や感性、価値観等の違う方には「ちょっと違うんじゃ?」ということもあるかと思いますが、その辺りはご容赦いただければ、と思います。
  

特に管理人は他人から天然と言われることの多い、独特な感性を持っているようですので、注目するポイントや見方が多数派の方々から見れば「ズレている」ことも結構あるかと思いますが、そこはガラパゴス諸島で独自の進化を遂げた生物を見るような目ででも見ていただければ、と思います。
  

ちなみに管理人は、ジャンル問わず気になったモノには何でも手を出してみるタイプです。
  

読書については純文学にラノベ、ファンタジー、ミステリー、歴史書、自己啓発本、健康本と何でもアリの乱読派ですし、iPodに入っている音楽の種類も、クラシックにJ-POP、演歌にアニソン、ヒーリング・ミュージックと何でもアリですので、このブログもかなりカオスなことになっていくと思いますが、どうぞよろしくお願いします。
  

ちなみに管理人はこことは別にオリジナルのネット小説を発表するファンタジー小説サイト「言ノ葉ノ森」を運営中です。
  

興味をお持ちの方はそちらも是非、よろしくお願いします。

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