ファンタジー

2022年03月12日

少女小説」とは、どんなジャンルなのか…どんな変遷を辿ってきたのか…、それを知るために役立つのが、この本です。
 
コバルト文庫で辿る少女小説変遷史
嵯峨 景子
彩流社
2016-12-28

  
タイトルに「コバルト文庫」と、特定のレーベルが入り込んでしまっていますが…
 
「コバルト文庫」が「中心」というだけであって、それ以外の文庫にも、ちゃんと触れています
 
それどころか、コバルト文庫以前の「ジュニア小説」や「少女小説前史」についても触れられています。
 
ラノベBLボカロ小説についても触れられています。)
 
扱っているのが少女小説とは言え、「研究書」のような趣の本ですので、字は細かく、だいぶ内容が厚いです。
 
「ざっと知りたい」「ライトに知りたい」という方向けではなく、かなりガッツリ傾向分析や研究をしたい方向けだと思います。
 
ただし、それゆえにガッツリ学びたい派の方にとっては「1家に1冊置いておきたい」ような本になっています。
 
何せ、解説のみならず、様々な「資料」が付属しているのです。
 
コバルト文庫と他の文庫の年間出版点数(刊行点数)の比較グラフですとか、コバルト文庫のみならず、他のレーベルの新人賞の受賞作一覧ですとか、コバルト文庫の歴史が一目で分かるイラスト入りの「年表」ですとか…。
 
本文に関しても、情報ソースがかなり細かく記されていますので「もっと詳しく知りたい」方に重宝すると思います(参考文献については、参考にした情報の掲載ページまで記載されています)。
 
(その参考文献を実際に入手できるかどうかは別問題でしょうけど…。特に小説雑誌のバックナンバーなどは…。)
 
また、ただ「人気作品の傾向移り変わり」のみならず、「読者の声反応」も取り上げてくれているので、より「深く」少女小説の変遷を知ることができます。
 
読んでいて興味深かったのは「熱狂的ブームにも衰退はある」こと、「流行の後には『揺り戻し』がある」ということ。
 
そして、こうしたティーンズ向けレーベルの読者は「作家よりもシリーズに付く」傾向がある、ということです。
 
初版刊行が2016年のため、「最新の傾向(特に、昨今のネット発小説の隆盛)」については、さすがに語られていないのですが…
 
「姫嫁」ジャンルの成長など、現在の恋愛ファンタジーの流行(異世界か中世ファンタジー風世界が舞台で、姫や令嬢が主人公の恋愛もの)にも通じる傾向が読み取れたりと、勉強になることはかなり多いです。
 
ちなみに管理人本人も、コバルト文庫は結構読んだことがあります。
 
中学の学級文庫に少しあったのと、地元図書館のヤングアダルトコーナーにコバルト文庫が数多く取り揃えられていたので、同じく豊富に取り揃えられていた講談社X文庫や角川スニーカー文庫、富士見ファンタジア文庫などと一緒に読み漁っていました。
 
たぶん、リアルタイムの新刊などではなく、少し古めなシリーズだったのですが…(ファンタジー小説全盛期くらい?)
 
コバルト文庫が「少女向け」レーベルだということにさえ気づけないくらい、男主人公もガッツリ出てきたり、内容も恋愛中心なものばかりではなく、ミステリあり、SFあり、冒険あり、現代のサイキックものもありだったりして、「多様性(バラエティー)があって面白い」と思っていました。
 
(ちなみに十二国記シリーズロードス島戦記シリーズも、同じ棚に並んでいました。)


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mtsugomori at 17:59

2021年12月08日

西洋ファンタジーと言えば「魔法」、そして魔法と言えば「魔女」や「魔法使い」ですが…

日本人にとって「魔女」や「魔法」は、イマイチ馴染みが無く、物語の中に描かれたものにより「なんとなくフワッとしたイメージを知る」のがやっとなのではないでしょうか?
 
この本は、そんな「魔女」の暮らしを1年12ヶ月のスケジュールに沿って教えてくれます。 


 
ファンタジー好きな一部の方々は既にご存知であろう「ヴァルプルギスの夜ワルプルギスの夜)」など、「魔女の行事」についてはもちろんですが…
 
その他にも、ヨーロッパで古くから霊薬・信仰の対象として親しまれてきた「ハーブ薬草)」についてや、西洋の神話伝説言い伝え等々も、易しい言葉で簡潔に説明されています。
 
さらには「魔女のレシピ」なるスィーツのレシピや、「魔女の手仕事」なる小物や雑貨の作り方も、イラスト入りで載っていて楽しめます。
 
普通の紀行本やガイドブックには載っていない「ヨーロッパの素朴な民俗文化」「西洋の『田舎』の暮らし」を知ることのできる、ほんわかした雑学本です。
 
一気に読み進めても良いですし、季節や月ごとに、その季節や月の項目を読んでみても楽しいのではないかと思います。



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mtsugomori at 21:30

2019年10月07日

今回ご紹介するのは、こちらのマンガです。


 
このマンガの特徴は、何と言ってもその“絵”です。
 
まるで古いヨーロッパ細密画のような、びっくりするほど緻密で繊細な線で描き込まれた人物や背景、そして魔法効果の“絵”です。
 
連載作品(月刊誌)とは思えない絵の細かさにも驚愕しますが、世界観を彩る背景ファッションなどの独特なデザイン・センスにも唸らされます。
 
さらには、さりげない構図、人物のポージングが、いちいち格好良くキマっているのです。
 
それはまるで、古いメルヘン童話挿絵集アール・ヌーヴォーの画家さんの画集でも見ているような気分です。
 
前作「エニデヴィ(※)」の頃から、何気ない1コマ1コマがまるでポスター・デザインのように格好良いと感じていましたが、今作は「魔法ファンタジー」という世界観と絵の雰囲気が見事にハマっていて、とてつもない相乗効果を生んでいます。
  
石の一つ一つまで丁寧に描かれた石畳の道、西洋絵画から抜け出してきたかのようなドラゴン空に浮かぶ“山脈”等々…絵を見ているだけで物語の世界に引き込まれてしまいます。
 
また、魔法の設定が細かく魅力的に描写されていて「主人公たちと一緒に魔法のルールを学んでいけば本当に魔法が使えるようになるのではないか」と思わせてくれるリアリティーがあります。
 
ストーリーの根本が主人公の女の子たちの成長物語であるところも王道で良いですし、何となく、ほっとするような安心感があります。
 
…とは言いつつ、ほっこりするだけの物語ではなく、怪しげな敵(?)が暗躍していたり、主人公が魔法の道に進むきっかけが相当な大事件ですので、ハラハラ・ドキドキ、ナゾに満ちた展開もしっかりあるのですが。
 
ちなみにこのマンガ、日本で書店員さんが選ぶ「おすすめコミック」の第1位に選ばれている(2018年)他、フランスやスペインでも様々な賞を受賞していますが、ヨーロッパで評価されているというのは個人的に納得です。
 
絵や世界観から受けるイメージが「西洋ファンタジーど真ん中!」という感じですので。


(※)エニデヴィ

エニデヴィ1 (ビームコミックス)
白浜鴎
エンターブレイン
2013-06-15

 
天使女子と悪魔女子が地上を巻き込んで大暴れするコメディです。


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mtsugomori at 21:08

2019年09月08日

小野不由美さんの描く異世界ファンタジーの傑作「十二国記」シリーズの最新刊が10月12日に2巻同時発売するようです! 


少し前に「年内に新刊が出るらしい」という情報は得ていたのですが、これまでの空白期間が長かったので、正直、本当に出るのか半信半疑でしたが…
 
Amazonさんで予約できる状態になっていたので(さらには表紙写真もUPされていたので)、どうやら新刊が出ることは確定のようです!
 
…ただ気になるのは「1巻」「2巻」というナンバリング…
 
「上下巻」ですら無いということは、この2巻だけでは終わらずに、まだまだ続きがあるということなのでしょうか…。
 
まぁ、続きが出るかどうかすら分からなかった頃に比べたら、新刊が出るというだけでも充分に有難い話ですが。
 
なにせ、(短編集を除く)前巻が出版されたのが2001年ですから…。
 

 
その後、講談社X文庫ホワイトハートから新潮文庫さんに移り、新装版が出たり、短編集が出たりはしましたが、続きは出ないまま… 


   ↑
(その短編集が出た時にも「12年ぶりのオリジナル短編集」と帯に大きく書かれていたものでした…。)
 
自分がこのシリーズを知ったのは高校時代に図書館で借りて、だったので(その後ハマって全巻買い揃えましたが。)、最初に出版された講談社ホワイトハート版からリアルタイムで追って来られた方々に比べたら待っていた期間は短いと思いますが、それでも「長かったなぁ」という感慨があります。
 
(ホワイトハート版の第1巻「月の影 影の海(上)」の初版が出たのが1992年)
 


 
もちろん既に新刊2冊予約済みですので、来月の発売日をワクワクしながら待っていたいと思います。
 
(ちなみに今(~9/30)Amazonさんはキャンペーン中なので、2冊以上同時購入(予約含む)の場合はクーポンコード入力で何%かポイント還元があります。(還元率は何冊買うかで変わってきます。)Amazonさんで購入予定の方は先にキャンペーンページをチェックしておくことをオススメします。)

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mtsugomori at 12:11

2018年07月20日

今回ご紹介するのは、管理人が小学生の頃に大好きだったファンタジー児童文学です。
   ↓
 
 
初版が1975年と古い物語ではあるのですが、実はこの話、一度ジブリ・アニメの新作映画候補として名前が挙がったこともあるそうです。
 
結局この物語がそのままジブリ映画になることはありませんでしたが、その時代わりに作られたのが、ベルリン国際映画祭で金熊賞(グランプリ)を獲り、今なお破られぬアニメ映画の興行収入記録を打ち立てた「千と千尋の神隠し」でした。
 
(その辺りの詳細はジブリの教科書「千と千尋の神隠し」に書いてあります。)
   ↓
この2つの物語、比べてみると、いろいろと“似ている”部分があります。
 
小学生の女の子が不思議な町に入り込むところ、カラフルで変わった町並みと、彼女を待ち構えている意地悪なおばあさん、そして、一人では何もできなさそうだった少女が、町で働き自分の頭で考えて様々なことをこなしていくうちに“成長”していくストーリー……。
 
(もちろん「千と千尋の神隠し」には宮崎駿監督の独特の世界観や、ハクとの淡い恋(?)、カオナシとの攻防など、「霧のむこうのふしぎな町」には無い要素もいくつもありますので、全くの別物になってはいるのですが。)
 
この「霧のむこうのふしぎな町」には派手なアクション・シーンがあるわけでもなければ、胸キュンのラブ・ロマンスがあるわけでもありません。
 
ただ主人公の女の子が町のお店で夏休みの間“お手伝い”をしていくという、いわばそれだけの話です。
 
(ただ、そのお店が魔法関連のお店だったり、不思議な人物が訪ねて来たりと、いろいろ変わっているのですが。)
 
ただ、小学生の頃の自分はむしろ「そこが良い」と思っていた記憶があります。
 
この物語は現実ではあり得ないようなファンタジー要素をふんだんに含みながらも、どこか現実との“地続き感”があるのです。
 
物語冒頭の町(霧の谷)への辿り着き方にしてもそうです。
 
最初に駅がどうの、夜行列車がどうのとリアルな交通手段の話が出て来たり、東京・仙台・静岡など現実の地名がぽんぽん出て来たり、途中までは、実在する土地へ現実的な方法で向かっていく、というような体で話が進んでいきます。
 
ひょっとすると自分でも、ひょっこり霧の谷へ辿り着けるのではないか――そんなリアリティー親近感が持てる構成になっているのです。
 
それと、夏休みという“特別な期間”に、親の庇護の下を離れ自分だけの力で一日一日を過ごしていくという“未知へのチャレンジ”、“ちょっとした背伸び体験”が、子どもの冒険心自立心を絶妙にくすぐってくるのです。
 
けれど、それより何より小学生当時の自分がうらやましかったのは、それだけ濃厚な体験をしながら、霧の谷の外では時間がまだ数時間ほどしか経っていないという時間の流れの差です。
 
夏休みがいつもの年より1、2日長いというだけでも嬉しく思うのに、もっと多くの日数を“余分”に過ごせるなんて、最高ではありませんか。
 
そんなわけで、この物語、小学生当時は「いいなー、うらやましいなー、自分もここへ行きたいなー」という気持ちで読んでいました。
 
でも、実際に霧の谷へ行くことはできなくても、物語を通して主人公の少女・リナの体験したことを自分も“疑似体験”することで、自分もリナと同じように、ちょっとだけ成長できていたのではないか――そんな気もします。
 
子どもの頃の読書体験というものは、自我や人間性を育てる上でとても大切なものだと元々思っていますが、とりわけ夏休みに読んだ本というのは、また格別に心の中に強く残っていたりするものです。
 
現実世界で霧の谷を見つけることはできませんでしたが、あの小学生の夏休みに、この本を見つけることができただけでも、自分の子ども時代は幸せでした。
 
この物語に限らず、本の中には現実世界では味わうことのできない“特別な夏休み”が数多くあります。
 
「読書離れ・本離れ」が叫ばれる今の時代ですが、できれば一人でも多くの人に、そんな“特別な夏休み”を過ごせるような――そしてそれが自分の人生の糧となるような“大切な一冊”と出会って欲しいな……などと思う、今日この頃です。

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