2017年08月19日

子猫と車の一途な友情にホロリと来る、癒やし絵本。


今回ご紹介するのは、こちらの絵本です。

ヤンときいろいブルンル
やすい すえこ
フレーベル館
1986-05






これは自分が小さい頃、一番のお気に入りだった絵本です。
と言っても、家にあったわけではなく、図書館にあった絵本で、期限が来たら返さなくてはいけないのが哀しくてたまらなかった一冊です。

面倒くさがる母を引っ張って図書館に通い、何度も何度も借りて読むほどに執着した絵本でした。

何がそんなに気に入っていたのかと言うと、まずは黒井健さんによる、ホワホワした子猫の手ざわりまで伝わってきそうな、やわらかであたたかい絵のタッチです。

「ごんぎつね(※)」や「手ぶくろを買いに(※2)」などで既にご存知の方もいらっしゃるでしょうが、黒井健さんは動物の絵を可愛らしく描くのがとてつもなく上手な方です。

しかもただ可愛いだけでなく、ぼんやりと輪郭の霞んだ淡い絵には、どこか神秘的な雰囲気まで漂っているように感じられます。

しかも、美しく神秘的なだけでもなく、ハッとさせる場面では読み手も思わずハッとするような絵を、切ない場面では読んでいるこちらまでつられて切なくなってしまうような絵を描かれる方です。

この絵本でも、黄色い車ブルンルは、擬人化されているわけでも顔が付いているわけでもない普通の車なのですが、哀しい場面では、まるで涙を流しているように見え、読み手を切なくさせます。

この絵本は、楽しくハッピーな絵本というわけではありません。

むしろ世の中のシビアさや、それに振り回される切なさが描かれています。
優しかったはずの女の子でさえ心変わりをし、そのことに幼い自分はショックを受けたことを覚えています。

でも、世の中がどんなにシビアで思うようにいかなくても、その中でも変わらない一途な友情、自分の想いを貫く強さも、この絵本には描かれているのです。

この絵本の中で自分が特に好きなのは、最後のページ、大人の猫になったヤンが逆光の中、黒いシルエットで描かれている場面です。
 
日の光でぼんやり金色の輝いたその姿は、何だかただの猫ではなく神秘的な力を備えた“何か”のように力強く、美しく見え、最初に見た時に感受性を鷲づかみにされたのです。

幼い頃には結局買ってもらえなかったこの絵本、社会人となった今はAmazonで普通に買えて、今は本棚の中、宝物として大切にしまわれています。



(※)
 
(※2)

 

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