ブック・レビュー
2024年03月29日
創作者の皆さん、「ネタ帳」って作っていますか?
既に具体的な作品が浮かんでいる時の「設定ノート」ではなく、もっとぼんやりした「こういうの、後々使えるんじゃないか?」というネタを書き溜めた、狭い意味での「ネタ帳」の方です。
自分は文字で書き込むだけでなく、スクラップブック的に記事を切り貼りしたり、もはや「ネタ帳」どころでなく「ネタ書棚」的な感じで「役立ちそうな本」を買い溜めたりしているのですが…
実は自分、中学生くらいの頃から既に故事成語が好きでした。
故事成語とは、中国版の「ことわざ」のようなものに、その言葉の成り立ちとなった故事(昔の出来事)を添えたものです。
それがなぜ、創作者の役に立つのかと言うと…
ズバリ、故事成語は古代中国の「深イイ話」「おもしろ展開」の宝庫だからです。
「物語を創る」ためには「あらすじ」や「プロット」だけでは足りません。
場面と場面をつなぐために「展開」が必要になります。
たとえば、おとぎ話の『シンデレラ』を例にとっても、「ある所に継母と義姉にいじめられている可哀想な女の子がいました」から急に「王子様と結ばれて幸せになりました。めでたしめでたし」には飛べませんよね?
そこには、シンデレラが「どうやって」王子様と結ばれるに至ったのかという「展開」が必要になるのです。
しかし初心者にはこの「展開」がなかなか思いつきません。
ここでどうしても筆が進まず、書くのをやめてしまう方も多いのではないでしょうか?
どうしたら物語を上手く展開させられるようになるのか――答えは「1つでも多くの『展開パターン』を知ること」です。
上のシンデレラの例で言うなら「強力な『味方』が現れて、ヒロインに協力してくれる」という展開がありますよね?
展開をそのまんま使ってしまえば「パクリ」ですが、たとえば「味方」を「魔法使い」ではなく「仕立屋の主人」にして「ヒロインにドレスを貸してくれる」などのアレンジをすれば、オリジナルの物語を展開していくことができるのです。
アレンジの元となる「展開」を多く知れば知るほど、展開のアイディアは湧きやすくなります。
そして「故事成語」は「展開」の宝庫。
しかも「小説」ではなく、1つ1つが短い「エピソード」なので、コスパ良く沢山の展開が学べます。
その上、故事成語になっているのは古代中国の「逸話」。
ただ「展開パターン」を学べるだけでなく、ハッとさせられるような人生の教訓や、誰にでも起こり得る「運命の悪戯」、思いがけない雑学など、あらゆるジャンルの「教養」が学べるのです。
ちなみに中国と言えば「三国志」ですが、故事成語には「三国志」のエピソードも結構入っています。
現代でもファンの多い「三国志」の逸話を手軽に学べるというだけでも、価値があるのではないでしょうか。
ちなみに「故事成語辞典」は様々な出版社さんから出ているのですが、この本を選んだのは値段が安かったからです
(他の故事成語辞典との比較はしていません。)
kindle(電子書籍)版もあったのですが(そして買った当時はkindle版の方が安かったのですが)、暇な時間・ふと思い立った時にパラパラめくって少しずつ読むには紙の本の方が手軽で良いので紙の本で買っています。
mtsugomori at 22:19
2023年09月16日
日本で美術展が開催されたものの、コロナ禍で行くのを諦め、哀しい思いをしたものがいくつかあるのですが…
行けなかったのが哀し過ぎて、思わず本だけ買ってしまったのが、フランソワ・ポンポン展でした。
フランソワ・ポンポンさんは19世紀のフランスの彫刻家なのですが…
まず、名前を聞いただけで「かわゆっ!」となりませんか?
さらには、この方の作る彫刻がまた「名は体を表す」ならぬ「名は作品を表す」といった感じで、とにかくカワイイのです。
デフォルメされ、シンプルなフォルムで表現された動物たちは、まさに「ポンポンさんの動物彫刻」という感じで、まるっと、ころっとしています。
100年前に作られたとはとても思えないほど、現代的なセンスを感じます。
このポンポンさん、30代の頃は「考える人」で有名なロダンの工房で働いたこともあります(工房長をつとめたこともあるそうです)。
動物彫刻家として有名な彼ですが、動物彫刻に転向したのは50代になってから。
人物彫刻を行っていた若い頃はなかなか認められず、他の作家の「下彫り」などをして生計を立てていました。
(国内外問わず芸術家を調べてみると、50を過ぎてから芽が出る方って、結構多いんですよね。)
50を過ぎての作風が、この細部の表現を限りなく削ぎ落したシンプルなフォルム(しかもカワイイ)というのがスゴいな…と、個人的に感動します。
本は展覧会用の図録として作られたのか、掲載されている作品数は非常に少ないです。
詩人として有名な谷川俊太郎さんが、彫刻写真に文章を添えているのですが、それも数は少ないです。
ポンポンさんの略年譜や生前の言葉が載っているとはいえ、ページ数などを考えると、なかなかお高い本なのですが…
フランソワ・ポンポンさんと、その作品だけでも、もっと多くの方に知ってもらえると良いな…と思っています。
mtsugomori at 21:58
2023年08月13日
毎年8月には「戦争」に関する本を1冊紹介していますが…
原爆を「物語」として描いた本は数多くありますが…
これは「物語」ではなく、原爆の多角的な「知識」を伝えるために描かれた、子ども向けの「科学絵本」なのです。
那須さんは広島市の出身で、3歳の時に爆心地から3kmの自宅で被爆していたのです。
「子ども向け」の本だからと言って、侮ってはいけません。
この本では原爆の仕組みや、原爆が落とされることになった経緯、原爆搭載機エノラ・ゲイの当日の飛行記録、放射線が人体に与える影響etc…、専門的な知識を交えながらも子どもにも伝わるよう、詳細な図解とともに描いています。
(今年の映画で話題になった「オッペンハイマー」さんの名も出て来ますし、放射性物質の蓄積しやすい臓器や放射性物質の半減期まで書かれています。)
むしろ「子ども向け」ということで、ほとんどの漢字にルビが振ってありますし、絵本ということで図が多用されていますので、大人にとっても分かりやすいのではないかと思われます。
中には文字が細か過ぎて、全てを読むには辛いページもあるのですが…
(戦後の世界情勢や反核運動の年表は、だいぶ細かく複雑です。つまりはその分「詳細」な資料になっているということなのですが。)
この本は、ただ「知識」に終始しているというわけでもありません。
広島という町がたどってきた戦前・戦中・戦後の歴史も、克明な絵とともに描かれています。
綺麗で住みやすかった町が、だんだんと戦争の色に染まっていき、防火帯を作るために建物が壊され…
「その日」には、閃光を浴び、爆風に吹き飛ばされ、炎に巻かれて地獄と化した…その様子が「空から眺めた風景」のように描かれているのです。
原爆の日の光景は、紛れもなく「地獄絵図」ですが、人間が豆粒大の小ささで描かれているせいか、「ひろしまのピカ」ほどには生々しくありません。
(それでも、トラウマになる方はなるかも知れませんが…。)
個人的に胸に迫ったのは、原爆後の広島を、教え子を探して尋ね回った教師の詠んだ歌です。
死者名簿に教え子の名前を見つけると、もはや哀しみも忘れてほっと息をついてしまう…それほどまでに、そこは過酷な有様だったのだと、想像も及ばないその地獄に、震えが来ます。
この絵本の絵を手がけた西村繁男さんは、広島の出身ではありません。
ですが、広島の原爆に並々ならぬ思いを抱き、広島の町並みを絵で再現するために、1年近く広島に住み、資料や証言者と向き合って作業を行っていたそうです。
なかなか気軽に手に取れるような種類の本ではないかも知れませんが…
「広島の原爆」が「どういうものだったのか」――物語ではなく実態として知りたい方には、ぜひ読んでいただきたい1冊です。
mtsugomori at 10:42
2023年04月12日
最近知って、注目している絵本作家さんにjunaidaさんという方がいるのですが…
この絵本はそのjunaidaさんの作品の1つです。
この絵本には、文章が一切ありません。
しかし、それゆえに読み手の想像力で、無限の物語を読み解くことができます。
タイトルが示している通り、この絵本には「道」があります。
無数の道が、交差する様は、さながら迷路のようです。
(実際、迷路のように道をたどって遊ぶこともできます。)
そして道は、ページをまたいで次のページへと続いています。
そしてページをめくるたびに、全く違う「世界(街)」が現れるのです。
道を覆う街、あるいは世界は、ページごとに異なります。
本の街、滝の街、雪山の街、楽器の街、宇宙空間の街…。
子どもの頃に、身近な小物を別の何かに見立てて遊んだように、この絵本の街には様々な「見立て」があります。
とてもファンタジックで素敵な「見立て」で、この本を読了後に、現実世界でその小物を見かけると、今までと違った目で見られるほどです。
そして、街はその1つ1つが、とても細かく、緻密に描き込まれているのです。
街の中には「人」や「いきもの」の姿も数多くあります。
ただ描かれているだけでなく、遊んでいたり、人物同士が何かを話していたりと、物語を感じさせる形で描かれています。
細々とした街の中の、豆粒のような人々の、そんな1つ1つの「物語」を想像するだけでも楽しめます。
そして、この絵本にはもう1つの楽しみ方があります。
ページの中には必ず、男の子か女の子かのどちらかの主人公の姿が描かれています。
ですが、それも他の人々と同じく豆粒のようなサイズで、まるで「ウォーリーをさがせ!」のように、主人公探しを楽しめるのです。
「はっきりした物語が無いと楽しめない」という方には向かない絵本かも知れませんが…
「緻密な絵が大好き」「自分で物語を想像するのが好き」な方には「大好物」なのではないかと。
mtsugomori at 15:40
2023年03月19日
前々から気になっていて、キャンペーンを機に思いきって買ってみたこの本(絵本は値段がお高いので、毎度購入に悩みます。特にネット通販だとギャンブル性が高いので)…
個人的には「大当たり」でした。
久々に「これは良い買い物だった…」としみじみ感動できました。
この絵本は、ストーリーを楽しむと言うより、絵を見て、想像して、その「答え合わせ」を楽しむものです。
(そして「想像した答え」をも超える「組み合わせ結果」にビックリ・ワクワクするものです。)
基本的な構成は「左側のページの何か」と「右側のページの何か」を組み合わせ(「のせのせ」)して、「せーの」で次のページをめくり「どんな変化があったのか」を楽しむ形になっています。
(さらに表紙では透明なカバーで「のせのせ」が楽しめるようになっています。)
ただ、その「組み合わせ」が、一筋縄ではいかない「絵本ならでは」の、魔法じみた奇想天外な「組み合わせ」なのです。
また、ただ「組み合わせ」を楽しむだけでなく、その「組み合わせ」によってストーリーに変化があるのも、楽しいポイントです。
絵と絵の「組み合わせ」を楽しむだけなら、ストーリーは無くても良いくらいなところですが、この絵本には一本のストーリーの「流れ」があります。
(表紙裏からして既にストーリーが始まっています。)
登場人物たちにも皆「つながり」があり、「組み合わせ」による「変化」にも「意味」があります。
(中には「それでいいの!?」という「変化」もあるのですが。牛さん…。)
そして絵本を最初から最後まで通して見ると、朝起きて支度をして、おでかけして、帰ってきて、眠りに就く…という「一日」の物語になっていることに気づくのです。
絵本というものは、ただ単にストーリーを追ったり、絵を楽しんだりするだけのものではなく、読むことを通して「想像力」を育むことができたり、「発想力」や「様々な視点」を学べるものだと思います。
そしてこの絵本は、まさにそんな「イマジネーション」を育ててくれる気がするのです。
mtsugomori at 11:34