2017年08月13日
恐さの後に切なさが残る。戦争児童文学の中で一番心に残る“夏休みの一冊”
今回ご紹介するのはこちらの本です。
小学生向けの児童文学として出版された本で、映画化もされています。
広島の原爆を扱った“物語”なのですが、一番の特徴は、原爆を扱った作品でありながら、原爆投下後の悲惨な状況はほとんど描かれていないため、そういった描写が苦手な方でも読める、ということです。
(そういう意味では、昨年からロングランを続けている映画「この世界の片隅に(※)」(およびその原作)と共通する部分があるかも知れません。)
ただ、恐いです。
背筋をゾクゾクさせるようなホラー的、あるいはサスペンス的な“恐さ”があります。
挿絵もまた、物語が内包する“恐さ”をさらに煽り立てるような独特な雰囲気を持った絵で、小学生当時の自分は「恐い、恐い」と肝だめし的緊張感を味わいながらも、ページをめくる手を止められなかったのをよく覚えています。
物語は原爆から十数年経った夏の広島を、主人公である少年とその妹(そしてその母)が親戚の家を訪ねて行くところから始まります。
夏休み、見知らぬ土地を“探検”する少年が様々な発見と出逢いを通し、その土地で過去に起きた悲劇を知っていく、という物語なのです。
夏休み、親戚の家、見知らぬ土地の冒険というシチュエーションが、小学生だった自分にとってかなり“身近”で親近感があり、さらに、夏特有のじっとりした暑さや空気感が非常に克明に描かれているものですから、まるで「主人公=自分」のような感覚で物語の中に没入していけたのを覚えています。
そして、少年が知る“悲劇”の描き方も、陰惨だったり残酷というのとは違い、ただひたすらに「切ない」のです。
それは「戦争」という想像だに及ばない大きな悲劇と言うよりも、もっと身近な、抗い難い運命に翻弄される人生の悲哀に似ていて、それゆえにリアリティーをもって胸に迫ってくるのです。
この物語は、ある登場人物の運命が、その後どうなるか分からない、という所で終わります。
読み終わった後、何とも言えない切なさとモヤモヤが残ります。
でも、だからこそこの物語は未だに自分の心に残り続けているのだと思います。
自分は小学一年生の時「ひろしまのピカ(※2)」を読んで衝撃を受けて以来、小学生の頃の読書テーマを「戦争児童文学」として、様々な本を読み漁ってきましたが、その中でどれか一冊を選べ、と言われたらこの本を選びます。
戦争を扱っていない他の物語をひっくるめても「夏(夏休み)に読む一冊」と言われれば、この本を選びます。
それほどに印象深く「心に刺さる」一冊なのです。
(単行本の他、青い鳥文庫版もあります。)
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※「この世界の片隅に」は、こうの史代さん作のマンガおよび、そのマンガを原作として作られた映画です。
昭和19年に広島・呉に嫁ぎ、大切なものを失いながらも前を向いて生きていく一人の女性の物語です。
(※2)「ひろしまのピカ」は原爆投下直後の広島の様子を描いた丸木俊さん作の絵本です。(単行本の他、青い鳥文庫版もあります。)
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※「この世界の片隅に」は、こうの史代さん作のマンガおよび、そのマンガを原作として作られた映画です。
昭和19年に広島・呉に嫁ぎ、大切なものを失いながらも前を向いて生きていく一人の女性の物語です。