小説
2021年09月05日
個人的に、大学受験で「古文有りの国語」を受験科目にするなら「源氏物語は読んでおくべき」だと思っています。
なぜなら高校生の間に受ける模試、センター試験、各大学の入試のいずれかで、必ずと言って良いほど出題される作品だからです。
実際自分も、模試や、とある大学の入試などで、何度か源氏物語の問題に出会いました。
もちろん、教科書にも取り上げられないようなマイナーな説話集や日記からの出題もそれなりにありますが、確率的なことを考えれば、源氏物語の方がずっと当たる確率は高いのではないかと思います。
そんな中で個人的に「源氏物語を学ぶのに最も役立った」と思っているのが、こちらです。
↓
あの源氏物語が、現代語の小説として、分かりやすく、かつライト過ぎない品格のある文章で訳されています。
(源氏物語の現代語訳は、他にも様々な方がされているのですが、田辺聖子さん版を選んだのは、単純に文章の好みです。訳については、各自、最も“自分好み”なものを選べば良いかと思います。)
「ストーリーを学ぶならマンガの方が分かりやすくていいじゃないか」「『○分で学べる源氏物語』みたいなダイジェスト版でいいじゃないか」と思われる方もいらっしゃるかも知れませんが…
それでは大雑把なストーリーを押さえることはできても「点を獲る」役には立たない気がするのです。
(ストーリーを「全く知らない」よりはマシかと思いますが、「1点でも多く点を獲りたい」という方には合わない気がします。)
まずマンガだと、絵がメインになっているため、いざテストの場で問題を解こうとする時、マンガの場面を頭の中で「文章に変換する」作業が必要になってきます。
マンガから内容を正確に読み取れているなら問題は無いのでしょうが…もし「誤解」しているなら、ここで「変換ミス」が起きてしまいます。
また、文章ならそれなりの文字数を使って描写されているものも、絵にしてしまえば1コマで済んでしまったり、背景として描かれるだけだったりして「目立たず、印象に残らない」ということもあります。
ダイジェスト版の場合は、テストに出てくるような細かな描写が「はしょられて」しまっていることがあります。
テスト対策には、全体の大まかなストーリーの流れより、各場面の情景や登場人物の動きの方が重要なので(この場面で、この人物は何をしているのか、何を思っているのか、といったことが問われます)、ダイジェストでは「足りない」のです。
ダイジェストになっていない「小説」としての源氏物語を、一度通して読んでおけば、テストで出題された時「このシーン、何となく覚えているな…」「確か、この人はこういうことをしてたんじゃなかったかな?」ということになるのです。
(何となくでも中身を「覚えて」いなければ駄目なので、ただ「読んだ」だけで終わってしまったら意味が無いかと思いますが…。)
それに、言葉もだいぶ現代と違う「原文」に比べ、現代語訳の小説はグッと読みやすいです。
しかも単なる「訳」ではなく、小説になっていることで、登場人物の心情や雰囲気を、だいぶ掴みやすくなるのです。
ただ、小説という形になっている分、全部を読み通すにはそれなりの時間がかかります。
読書ペースは人それぞれですが、読むのが速くない方が、受験ギリギリのタイミングで源氏物語を「通しで」読むのは、かなりキツいかと思われます。
なので、長期休暇や高校1~2年の間にちょこちょこ時間を見て少しずつ読み進めていくなど、余裕を持って取り組むことをオススメします。
自分の場合は小説版で通して読んだ後、定期的にダイジェスト版を読み、内容を「思い出す」「反芻する」ということをやっていました。
↓
↓
(田辺聖子さんの文章による「ダイジェスト版」です。絵がかなり多めですが、ちょっと怖くてエロティックな感じの絵が多いので、その辺の好みはあるかも知れません。あと、絵が絵だけに、親に中身を見られるとちょっと気まずい感じです。)
(「通し」で読むと、それなりに時間がかかるので。ダイジェスト版を「記憶のトリガー」として使い、過去に読んだ内容を頭の中に蘇らせるのです。)
続きを読む
mtsugomori at 11:17
2020年10月16日
個人的な「面白い本の探し方まとめ」の第2弾です。
第1弾はこちら→<関連記事:おもしろい本(小説)の探し方1>
第1弾にも書きましたが、あくまで個人の経験によるものですので、全ての人に当てはまるとは限りません。
予めその辺りをご了承の上、参考程度にお読みください。
第1弾はこちら→<関連記事:おもしろい本(小説)の探し方1>
第1弾にも書きましたが、あくまで個人の経験によるものですので、全ての人に当てはまるとは限りません。
予めその辺りをご了承の上、参考程度にお読みください。
-
本文(内容)以外の情報に踊らされない
- 当然のことですが、出版社は本を売りたいものです。
- なので「この本は面白そうだ」と思わせるために様々な情報を出してきます。
- 発行部数、ランキング順位、ネット小説の書籍化ならPV数、帯の派手なキャッチコピー、読者の声、有名作家の推薦文(○○先生大絶賛!なども…)、文学賞の受賞歴等々…。
- しかし、第1弾にも書いた通り「自分とは趣味も好みも違う他人が『おもしろい』と言ったからと言って、それが自分にとっても『おもしろい』とは限らない」のです。
- 本当に「自分にとって面白い」本を探したいなら、そういった宣伝のための情報で判断するより、本の内容(あらすじ)を吟味したり、本文ページをパラパラめくって自分に合っていそうかどうか、ざっと「試し読み」することをオススメします。
- もっとも「流行りの本が読みたい」「流行っている本を読むのが面白い」という方もいますので、そういう方にはそういった数値や宣伝文で判断するやり方も合っているのかも知れません。
- たまに「気まぐれ」を起こす
- 第1弾で「自分の趣味・嗜好を把握して、それに合った本を探す」ということを挙げましたが、自分の場合はそれにプラスして「たまには気まぐれを起こして読んだことのないジャンルに挑戦する」ということをしています。
- どんなに好きな食べ物でも、ずっと同じものばかり食べていれば飽きてしまうように、同じようなジャンルのものばかり読んで「新鮮味」を感じられなくなってきたなら、思いきって新しいジャンルに手を出してみるのです。
- 時には「失敗」もあるかも知れませんが、思いがけない「新しい扉」が開けることもあります。
- 自分の場合は「これは合わないかも」という先入観をなるべく持たないようにして、なるべく様々なジャンルに手を出してみます。
- …そのせいで本棚の中身がだいぶカオスなことになってしまっているのですが…。
- (同じくこのブックレビューも既にだいぶカオスなことになっている気がします…。)
<関連記事→読書を楽しみ尽くすコツは、フラットな姿勢で向き合うこと/帯のアオリ文は両刃の剣…?>
<過去記事・本のタイトル別索引>
mtsugomori at 10:21
2020年01月12日
自分は、ホラーやスプラッタが苦手です。
(TVドラマの手術シーンですら目を背けるタイプです。)
なのにミステリーは読む(しかも結構好き)のですが…
そんな自分が新作を見かけるたびに「買おうかどうしようか」本気で迷う作家が乙一さんです。
ミステリーとしての構成や伏線の張り方は恐ろしく好みなのです。
特に、何げない描写の中に伏線を仕込んでくるあたりがゾクゾクします。
ただ…内容に結構ホラーな感じのものが多く、そこが苦手なのです。
しかし、時にはそんなホラー要素の一切無い「ほのぼの」だったり「ハートウォーミング」だったり、時に「切ない」作品があったりするのです。
殺人事件やサスペンス要素が無い分、そういうミステリーが好きな方には物足りないかも分かりませんが、自分はどちらかと言うと、そういう「怖い場面無し」の小説の方が好きです。
内容が「ほのぼの」でも伏線の回収が見事な点は変わりませんし。
それと、この作家さん、他のミステリー作家さんと比べて全体的な文章ボリュームが少ないあたり「よくこんな短い小説にまとめられるなぁ」と驚嘆します。
自分が乙一さんの作品を読み始めた頃は、自身の創作活動で長編癖に悩まされていたので余計に…。
実は、そういうテクニック(伏線の張り方や短い小説にまとめる技術)、結構、自分の創作にも参考にさせていただいていたりします。
かなり勉強になって、ありがたいです。
(乙一さんに限らず、様々な作家さんの作品からテクニックを学ばせていただいていますが、伏線の張り巡らし方では特に。)
mtsugomori at 11:23
2019年03月10日
高校生の頃、習っていたピアノの先生に「本が好きならこれをあげる」と言われ、中古の文庫本を50冊以上譲られたことがあります。
そのうちの約半分は赤川次郎さんのミステリ小説だったのですが、次(か、次の次くらいに)に大きな割合を占めていたのが新井素子さんの本でした。
当時、かなりの活字中毒だった自分は、それが自分の好みに合いそうかどうかなど考えず、とにかく貪るようにもらった本を読みまくりました。
(後で考えれば、そうやって「本来の自分なら手を伸ばさなかったであろう本」にも手を出してきた結果、自分の世界がより広がったように思います。)
正直、新井素子さんの作品に対して最初に感じたものは、「生々しさ」や「グロテスクさ」といったものでした。
設定的には「世界が終る前に、ひとめ恋人に会いに行く」ものだったり、恋愛が絡んだものも多くロマンティックなのですが、何だかそこに時々グロテスクさが漂うのです。
しかもそれが「いかにも創られたグロさ・恐さ」と言うより、人間が本来的に持つ“闇”を暴かれているような、生々しいグロテスクさであり、恐さなのです。
しかも、そんな風に途中途中でグロテスクさを見せておきながらも、やっぱり結末はどこかロマンティックというか、切なさ・儚さが漂っていたりするのです。
さらには多くの作品がSF的な要素を持っていたり、哲学的な「問い」のようなものを孕んでいたりして、多感な思春期の頃の自分は、結構な影響を受けたように思います。
自分が特に好きだったのは「グリーン・レクイエム」と「今はもういないあたしへ…」という本の中に収録された「ネプチューン」という短編(中編?)小説です。
それと、女性小説家と男性編集者の結婚→新婚生活を描いた、自伝的要素を含んだ(?)ドタバタ小説も、その他の一連の作品とは全く雰囲気が違って面白かったです。
自分が高校生の頃にもらった中古の本ですので、出版年月はだいぶ古いことになっているかも知れませんが、SF的要素や現代社会に対する様々な示唆を含んだ本が多いので、今読んでも面白いと思います。
特に、星新一さんのショートショートのような、ちょっと皮肉を含んだ感じの小説が好きな方なら(そしてグロテスクな描写が大丈夫な方なら)楽しんでいただけるのではないかと思います。
(そう言えば、星新一さんの本も、このピアノの先生からもらったような…。)
続きを読む
mtsugomori at 12:29
2017年08月13日
今回ご紹介するのは荻原規子さん作の日本の古代のような世界を舞台にしたファンタジー小説。
「空色勾玉」「白鳥異伝」「薄紅天女」の3作からなる、いわゆる「勾玉三部作」です。
世の中に「ファンタジー小説」というものは数多くありますが、その中で「和風ファンタジー」の割合は、そう多くはありません。
さらにその「和風ファンタジー」も時代で見れば平安時代(以降)が主で、古代を扱ったファンタジーというものは意外と少ないのです。
(古代になると「和風ファンタジー」というより「倭風ファンタジー」の方がしっくり来る気もしますが、そんなジャンルはたぶん存在しないので「和風ファンタジー」で通します。)
個人的には日本の古代な魅力的な八百万の神々アリ、まだ謎が多く残された時代であるがゆえのロマンがたくさんアリで、かなり魅力的な時代だと思うのですが……。
まぁ、ともかくそんな日本の古代を舞台にした和風ファンタジー小説の中でも群を抜いて面白いのが、この「勾玉三部作」なのです。
この作品は初めは現ベネッセである福武書店から児童文学として出版されたもので、ボリューム(文章量)はかなりのものですが、児童文学であるがゆえにとても読みやすい物語になっています。
しかしながら読んでいてドキドキ・ハラハラするサスペンス性、予想を裏切る意外なストーリー展開は大人、それもミステリー好きな大人でも充分楽しめるものです。
さらにそこに日本神話ベースのファンタジー要素が加わることで、物語に神秘的な深淵さをプラスしているのです。 三部作は世界観や勾玉というキー・アイテムは共通しているものの、時代が異なる独立した3つの物語になっていますので、それぞれ単独でお読みいただいても充分楽しめます。
(三部作通して読んでいただくと、さらに“深く”楽しめますが。)
神名などはオリジナルのものになっていますが、日本神話ベースですので、古事記・日本書紀がお好きな方なら思わずニヤリとしてしまうような神様・キャラクターも出て来ます。
また、そうでない方でも、日本の古代に思いを馳せられる貴重なファンタジー作品ですので、興味をお持ちの方はぜひ読んでみてください。
夏休みの読書にも最適です!
ちなみに管理人が始めてネット上に発表した小説(「花咲く夜に君の名を呼ぶ」)も日本の古代と日本神話(風土記含む。←と言うより常陸国風土記がベース)をモチーフにした和風ファンタジーですが、気づけば勾玉三部作とは全く違う出来になっています。
(悪い意味ではありませんが…。)
続きを読む
mtsugomori at 14:55