2025-12-24

阿波弁と関西弁はどう違うのか:方言によってアイデンティティ崩壊

背景

私の出身地関西地方とある府県だが、幼少期に転出して地元が同じ人とも共通話題などないので「〇〇府/県」出身ですと胸を張っては言えない。

徳島での生活が長いから「徳島出身だろ」と他所の人からは言われても、実際には首都圏育ちで最も長く過ごしたのもそこだから私の第一言語標準語であって、徳島標準語を受け入れてくれない。少なくとも「地元人間」とは見なされていない。「将来徳島に戻ってくるか」という衰退都市にありふれた話題において、自分がいると決まって気まずそうにされる。

現在関西在住である自分関西弁もマスターしている、と自認している。徳島関西弁を身につけ、現在居住する関西での生活に完全に順応している、と思っている。

来年から首都圏に戻るんだけど、戻ったら戻ったで「地元人間が帰ってきた」という扱いになるほど首都圏地元って感じはないし……なんかもうざっくりと「関西出身」ということにさせてくれないか?どの府県だとか厳密にせずにざっくり「関西から来ましたよ」という気持ち首都圏生活したらアイデンティティの置き場所はうまくいかいか

そのためには、現代関西弁と阿波弁の差異を明らかにして、「徳島関西である」ということを証明しなければならない。そうじゃなければ、私のアイデンティティはどうなるの!?

[:contents]

イントネーションについて

Wikipediaによると「四国方言に属するが、四国方言の中では近畿方言の影響を最も多く受けた方言である。」らしい。県内全域が京阪アクセント統一されているのは中四国では珍しい。香川、ついで愛媛アクセント中国地方の影響が大きいように思う。これが最も重要だ。イントネーション関西弁と同じなのだ

徳島東部高知県中部東部アクセントは、近畿中央部のものより古い時代京都アクセントに近い。」ともいう。全体的に阿波弁は現代大阪が直面している「標準語化」をそれほど経験していない。「古い」というのは方言圏論にも整合的で理に適う。古い時代京阪から来訪した方言が、辺境はいまだに残っているのだ。もっと鮮明にいうなら、阿波弁は現代関西弁よりも「厳密な」京阪式といったほうがいいかもしれない。東京アクセントへの忌避近畿圏より強い。文の一部であっても東京アクセントが溢れることを嫌う。

文法について

ほぼ同じなので差異を挙げる。

語尾

語尾は「じゃ/だ/や」の3種類がある。「じゃ」は若者は言わない。「だ」の登場頻度が近畿圏よりは多いが基本的には「や」で関西弁と共通だ。

「中でも未然形、推量は「ダロ」が優勢」らしい。確かに「だ」は「だろ」の形で特に使われやすい。京阪アクセントで語尾が「だろ」になる文はいかに徳島らしい。

「「ヤロ」は沿岸部のごく一部地域だけであったが、近年は、鳴板地域徳島市をはじめとした沿岸部を中心に「ヤロ」が優勢である。」とのこと。近畿同化している側面が否定できない。

「じょ」という女性言葉の語尾も存在する。使う人は使う。現在では男女差は明確ではないと思う。男性も一部使うが、これは遊戯的な使用だろうか。

否定

動詞否定は「〜ん/へん」だ。「 〜ん」の頻度が大阪よりかなり高い。兵庫と比べてもやや高い。「へん」の頻度が近年高くなっているとしたら、近畿同化である

「「動詞未然形+れん/られん」は禁止を表す。「あそばれん」は「遊んではいけない」」これは四国の他県にはあるが近畿にはない。

音便

「五段動詞連用形は、「て」「た」「とる」の前で音便形を取る。」ことによって「言った」「洗った」が「言うた」「あろおた」「あろた」のようになる。これは関西弁と共通。やや古い関西弁で観測できる。

山間部の高齢者を中心に「「さいた」(差した)のようなイ音便が用いられ」ることもあるらしいが、現在徳島市内にはない。これは相当に古い京都弁と共通

「「あそおだ」(遊んだ)「のおだ・ぬうだ」(飲んだ)のようなバ行・マ行ウ音便がまれに聞かれる。」らしいが聞いたことはない。近畿を含め、他県にもない。

現在進行・現在完了アスペクト

連用形 + とる・とお」で現在完了または現在進行、「連用形 + よる・よお」で現在進行を表す。「しとる」「しとお」「しよる」「しよお」などである。「とる」「とお」は兵庫県と共通滋賀三重とも共通。まさに辺境に残る関西である。「よる」も古い関西弁。「よお」は県内では現代でも使われているが近畿ではもう聞かない。

「とる」に関していえば瀬戸内地域に限らず広く西日本で使われていて、一応関東にもある。広すぎて起源が同一かは不明

接続助詞

「逆接の接続助詞には「〜けんど」が多く用いられる」らしいが、実際には「けんど」は残ってはいものの、近畿同化して「やけど」も優勢である

「「〜から」という理由・原因は「〜けん」である。これが関西弁との最大の違いだ。これさえ出さなければ関西圏で生活しても違和感はない。私は首都圏から徳島転入であったから、「〜けん」まではそもそも吸収していない。ふつうに言いにくいと思う。まあ中四国九州など広く西日本共通だ。

また、古い関西弁と共通の指示語「ほう」「ほれ」「ほな」(「そう」「それ」「それでは」)と重なって「ほなけん」「ほなけんど」「ほなけんな」が文頭で使われるのが特異的。「ほやけん」に変化するのは近畿同化か。徳島市外では「き」「さかい」も用いられるそうだが、「き」は高知イメージ。「〜さかい」は古い関西である

過去否定

「「行かなかった」は「行かざった/行かなんだ」」で表されるらしい。「行かざった」は聞かない。「行かなんだ」は県内では現役。過去否定を「なんだ」で表すのは古い関西弁と共通だ。

不可能

北部で「よお〜せん」、南部で「ええ〜せん」の言い方がある。」という。「ええ〜せん」は市内では聞かない。「よお〜せん」は古い関西弁と共通だ。関西で「よお〜せん」といえば、遠慮など心理的抵抗から不可能を表すイメージだが、徳島でもニュアンスは同じだろうか。

「で」の特異性

助詞「え」「で」(ときどき「でか」)を文末に付して疑問文を強調する用法関西弁にはあまりない独自のものとして多用される。「何しよんで?」など。関西弁の念押しの「で」が下降イントネーションであるのに対しこちらは尻上がり(しばしば伸ばされる)である独自用法だが和歌山や南大阪とはある程度親和的であり、そこまでの違和感はないように思われる。もちろん近畿と同じく、念押しの「で」もよく用いられる。

「〜だろう」「〜ではないか」の意味の「で」もある。「あかんでぇ」は「ダメだろう」「ダメじゃないか」という決して深刻ではない軽い咎め禁止の「あかんで」と同じく下降アクセントだが、発音は明確に区別されている。この差は禁止を「あかんでぇ」と伸ばしても埋まらない。咎めの「あかんでぇ」は「でぇ」の途中に下降が入る。

さて、この「で」は疑問文の「で」から来ているのか、あるいは語彙の章で取り扱う「あかんでないで」(ダメじゃないか)の一つ目の「で」から来ているのか。なお、「あかんでないで」の末尾の「で」は疑問文強調の「で」である。おそらく前者だろう。

三重滋賀では順接の接続助詞として「で」が使用されることも多い。「で」は日本語最大の多義語ではないだろうか。

その他

おもしろくない→おもしろおない/おもっしょおない のような形容詞の変化がある。「おもしろおない」は古い関西弁と共通だがあまり使われない。「おもっしょおない」あるいは短縮されて「おもっしょない」は独自のものであり、かなり現役。肯定文でも「おもっしょい」が阿波弁のアイコニックな代表例として存在

仮定形は「書きゃあ」「起きりゃ(あ)」のようになる」らしいがこれはもはや残っておらず、近畿同化して「書いたら」「起きたら」である

助詞「よ」「よお」による「〜したんよ」のような用法大阪よりは多用されているイメージ

「終助詞「が」を用いる。軽い詠嘆・感動を表す。」と書いてあったがそんなのは現在の市内にはない。残っているとしたら高知だろう。

「疑問・反語の終助詞は、「か」「かい」「かいな」「かえ」などを用いる。」というのは関西弁と共通だ。「時計めげとんかいな。」など。「めげる」は「壊れる」

「終助詞「わ」は感動・強調などを表す。(例)あれが大鳴門橋やわ。」→ふつう関西弁。

あと関西弁の「〜やねん」が県内ではあまり使われない。

語彙について

「いける」(大丈夫)は関西弁と共通語彙だが、頻度は近畿より高い

か(ん)まん【構ん】 …構わない 

近畿ではもう古いだろうが、県内では若者こそ低頻度だがそこまで陳腐化しているわけではない。

かく …持ち上げる。運ぶ

神輿山車しか言わないだろう。

じゃらじゃらする …いい加減にしている。ふざけている。

→相当古い関西弁だが、県内では完全に現役。親が子に言うような教育場面の語彙だから継承されやすいのでは。

しんだい …だるい

せこい …しんどい身体的な倦怠感を表現する)。食べ過ぎて苦しい時にも使う。

→「せこい」は他地域で通じない。

〜ちゅう …〜という。

現代関西弁と同じ。

つっかけ …ぞうり。

→広く四国近畿共通

〜でないで …〜ではないか。(例:あるでないで→あるじゃないか

→あまり聞かないが、疑問文の文末「で」による協調は多用される。「〜でないか」なら言う。

はさ(か)る …挟まる。

→「はさかる」は今も使われる。西日本では珍しい。

ほんに【本に】 …本当に、本真に。

→相当古い関西弁だが、県内ももう使われない。

わや …だめなこと。むちゃくちゃな様。

四国他県のほうが使われる。

終わりに:徳島県人が関西で、あるいは首都圏関西出身者として生き残るには

言語には南大阪和歌山淡路島徳島というグラデーションがある。兵庫和歌山、南大阪三重など近畿辺境というのは、少しずつ違いはあるがなんとなく「大阪弁とは違う」を共有している。「辺境関西弁」にアイデンティティを投じさえすれば、矛盾自己矛盾も抱えずに済むのだ。なにより、エセではないということだ。ディープであればいいじゃないかリアルに聞こえるし、リアルである

参考

阿波弁 出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

Wikipediaには方言文法として書かれているので便利。

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