勇気の出る名言集

過去に読んだ本で勇気を与えられた言葉のアンソロジーです。

2022年01月

大和俗訓

  • 楽しみは人の心に生れつきたる天機にして、本自らこれあり。されども、私欲あれば、耳目口體の欲にそこなはれ、喜怒哀懼の情におほはれて、この楽を失ふ。君子は情慾にやぶられずして、常にこの楽を失はず。いかなる患難の事にあひても、この自然自有の樂を改めず。又、風花雪月の外境にふるれば、心の内にある本然の樂、外物と相和して彌々楽しむ。是れ外物を以て、はじめて樂とするにはあらず。外物来りて本然の樂をたくするなり。天地の道、陰陽の化、四時のめぐりはつねに和氣あり。是れ天地のなり。….人の心に、もとより楽あることをしるべし。もし欲にひかれて、この樂をうしなふは、天地の道にそむけり。いかなる横逆にあひ、不幸にあふとも、常に此の巣を失ふべからず。
  • 心は天君にて身の主なり。つねに楽しましむべし、くるしむべからず。わが身貧にして、或は不意の禍ありとも、これ天命なれば、うれふべからず、樂をうしなふべからず。又、人のわれにあしきをば、忍びてゆるすべし、うれふべからず。かくの如くすれば、心のくるしみなく樂多し。
  • 心にあるじなければ、事をつとむる時、はや過ぎてさわがしく、又おそ過ぎて怠りとなり、或は事に先だちてあやまち、或は事におくれてまにあはず。主あれば心つねに定まりて、遅速なくよきほどゆゑ、あやまちすくなし。
  • 利は天地より生じて、天下の人にあたへ養ひ給ふ理なれば、天下の公物なり。われ一人の私のものにすべからず。人とともに、同じく利を得れば、人々各々その所を得て害なし。身に私して我一人利を得んとすれば、争出来て、かえつて我が身の害となる。義を行ひて自ら来る利は、真の利なり。わが益となる。むさぼり求むる利は、真の利にあらず。必ず身の禍となる。是れ利を求むるには非ず、害を求むるなり。
  • 樂をしる人は天をうらみず、人をとがめず、世に求めなくして、その分をやすんず。樂をしらざるものは、是に反す。
     人倫にまじはり、萬事を行ふに心平かに、氣和してしづかなるべし。しづかならざれば、氣さわがしくあらあらしくして、道理明らかならず、道を行ふことかたし。故に、まづ心氣ををさめ、和平にして静かなるべし。
  • 心氣和平にして人をとがめず、わが身にかへり求め、己をせむれば、身をさまりて多し。この工夫甚だ益あり。常にこれを以てわが心ををさむべし。もしこの工夫をわすれば、必ず道をうしなひ樂をうしなふ。古語に曰く、「君子は己にもとむ小人は人に求む。」といへり。
     心のうつはものせばき人は、わが智ひとつを用ひて、萬ずの事に通ずとおもひ、人の智を用ひず。古語に、「自ら用ふれば小なり。」といへり。わが智ひとつをたのみて、人の智を用ひざれば、世間の萬事わが一人にてしりがたししらざること多ければ、小智といふべし。心のうつはものひろき人は、わが一人の智を用ひず、ひろく人にとひきき、そのよきをとり用ふる故、もろ人の知を合わせてわが智とす。是れ大知とすべし。凡そ、人は各々得たる所あり。なれたるところあり。十人には十人の知あり。百人には百人の知あり。各々その人の長ぜる所を取り用ふべし。さばかり才ある人も、天下古今もろもろのこと、われ一人の知にてはしりがたし。一人の智は限りあり、衆人の智はきはまりなしといへり。
  • 人の法を行ひて、天命をまつべし。善を行ひて福来るは、常の理なれども、もし禍あるは是れ亦天命の變なればうれふべからず。およそ、人天命をしりて命にまかせ、うれひなき工夫をなすべし。天命をしらざれば、命のさだまりありて福の求めがたく、禍の去りがたきことをしらず。利につき害をさけんとし、人にへつらひ神にへつらふは見ぐるし。愚なるといふべし。
  • 「言は心の聲なり。」と古人いへり。人の心の内にあること、ことばによりて外にいづ。一言みだりに殺すれば、駟馬も追いがたし。よきこともあしきことも、皆口よりいづ。口をつつしめば、あやまちすくなく、耻辱なくわざわひはなし。故に、人の身のつつしみは、口をつつしむを第一のつとめとす。言おほければ、口のあやまち多く、人ににくまれ、わざわひおこる。つつしみて多くいふべからず。殊に人をそしるは莫大の悪事なり。いましめて、人の非をいふべからず。
     易に、「心をやすんじて後かたる。」といへり。人に物いはんと思はば、先ずわが心をやすくしづかに、思案していひ出すべし。かくのごとくせば、言のあやまちとがめすくなかるべし。
  • 古語に、「病は口より入り、禍は口よりいづ。」といへり。ことばをつつしんで、みだりに口より出さざればわざわひはなし。飲食をつつしみてみだりに口に入れざれば病なし。病と災との出でくることは、天より降るにあらず、皆口よりおこると古人いへり。口の出し入れ、つつしむべし。
  • 人のあしきことは、わが心の中にしりわきまへて、口には出すべからず。人をそしり、人を言ひおとすこと、不仁の甚だしきなり。その上、わが身において、つゆばかりも益なし。
  • わが善をばかくして、みづからほむべからず。人の善をばあらはして、ほむべし。わがあやまりをばかざるべからず。あらはして改むべし。人のあやまちをばあらはすべからず、おほひかくすべし。

大和俗訓

  • 人の心の内は、常に恭敬和樂なるべし。恭敬はつつしみうやまふなり。恭敬ならざれば、心ほしいままにして、あしきかたにながれ、禮の本たたず。和樂はやすらぎたのしむるなり。和樂ならざれば、心うれひくるしみ、道理にしたがはずして、禮のもとたたず。此の二は、車の両輪・鳥の両翼のごとし。ならび行はれて、そむかざるべし。いかなるあしき俗人に交はるとも、ながれて恭敬をうしなふべからず。いかなる不幸なることにあふとも、心をくるしめて、和樂を失ふべからず。禮經に、「禮樂はしばらくも身をはなるべからず。」といへり。
     富貴をきはむといふとも、人欲だにあらば、そのねがひつくることなくて、貧賤にしてすくなきにおとるべし。道義の楽は、位なくして貴く、緑なくして富めり。其の楽しみはきはまりなし。いかんなれば、内に樂ありて外にねがひなければなり。
  • わが身の飲食色欲財利などの慾にかつには、たとへば、強敵に對して、我が十分のちからをつくして、ふせぎ戦ふが如くすべし。かくのごとくせざれば、私慾にかちがたし。是れ欲にかつ良法なり。もしすこしもよわげなければ、欲にかちがたく、つひに欲からてふせぎがたし。人欲は人のため大敵なり。ゆだんすべからず、いかにもしてかつべし。
  • 君子は、人をせむる心つねにすくなく、おのれをせむる心常に多し。人をうらみにくむ心常にすくなく、人をゆるし堪忍する心つねに多し。小人はこのうらなり。この故に、君子の心は、常にたひらかにして樂多し。小人の心は、常にけはけはしくして憂おほし。
  • 萬づの事、つらつら思案して、後のあやまりなく、悔なからんことをはかるべし。思案なくして、いかりと慾をさらざれば、後のわざはいとなる。是れ智者のしわざにあらず。事を思案せずして、かるがるしく行へば、必ずあやまりあり、後悔あり。もし急なることあらば、ことさらよく思案して、詳かに行ふべし。かくの如くでば、後のあやまりなかるべし。いそぎて心さわがしく、しづかならざれば、思案なくして、必ずあやまりあり、悔あり。
  • 人の身のわざはひあること、多くは私欲よりおこる。私欲はほしいままにさざれば、わざわひなし。凡そ、人のわざわひは、思はざる不幸にして、天よりたまたまくだるはまれなり。もしあれども、事によってのがれやすし。私欲を行ひ、つみをおかして、みづからなせるわざはひは、天よりくだる禍より多くしてのがれがたし。それわが身を利せんとすれば、必ず人に妨あり。
     人を妨げたるむくひは、必ず天のせめ身にむくいて、わざはひは来る。凡そ、とがをおかして、公につみせらるるは、目に見えて明らかなり。天のせめは目に見えずして、いつとなくくだれるゆゑ、人しらず、其のわざわひは来れば、只不意にふり来るやうに思ふは、ひがことなり。
  • 利を求むれば必ず害あり。福を求むれば必ず禍あり。故に、韓詩外傳に曰く、「利は害の本、福は禍の先とす。」求めざるに自然に福来るはよし。われより求むべからず。我より求めたる福は、必ず禍となる。只わが身をつつしみ、分をやすんじ、わが職分をつとめて、天命にまかすべし。利と財利のみにあらず、一切わが身のために便よきことは皆利なり。我が為に便よきことをはからば、皆人に害あり。故に、わが利は人の害なり、人の害は又わが害となる。たとへば、たまきのはしなくして、めぐりて又かへるが如し。よくこの理をしりて、理をむさぼるべからず。
  • 子曰く、「人之己ヲ知ラザルヲ患ヘズ、人ヲ知ラザルヲ患フ也。」人のわれをしらざるは、人のおろかなるなり。わがとがにはあらず。うれひとすべからず。人の善悪をしらざるは、わがおろかなるなり。みづからはづべし。又、我がよきことを、人にしられんと求むるは小人の心なり。いやしむべし。
  • 人のあやまちをそしり、不善あるをはなはだしくせめはづかしむべからず。必ず人のうらみとなる。とがある人をうちたたきて、一旦心に快くすといへども、その人もし堪忍せずしてむくいれば、大なるわざはひとなる。いかりをおさへて、後のわざはひをよくかんがへわが心に十分快きを求むべからず。いやしき下部にしても、この心づかひ有るべし。
  • 慾すくなくして、わが身の足ることをしるしたものは、分限をやすんじて、貧にしても楽しむ。たのしむ者は、常にあきたる。慾多くして足ることをしらざるものは、富貴にしても、分限をしらずしてあきたらず。あきたらざる者は、たのしむことをしらずして、外に求めてやまず。つひにわざわひとなること又多し。
  • 人生この日の再び得がたきことをしりて、時々その事をつとめておこたらず、日々この生を楽しみてうれへず、よくつとめ、よくたのしむ人は、一日を以て一月とし、一年を以て十年とし、十年を以て百年とす。つとめてたのしみを以て身を終る。智者のしわざ、かくのごとし。勤とのたのしみをしらざる人はたとひ百歳の長壽をたもつとも、常に怠りて、一生の間、何のなし出せる善事なし。是れつとめざればなり。常にうれひくるしみ多し。是れ楽しまざればなり。かくのごとくなれば、人となれるかひなし。いけるばかり思ひ出にす。生を得たりといひがたし。飲食馨色を楽しむといへども、欲多く、節なくしてかへりて身をそこなひ、たのしみいまだつきざる内に、憂はやく来る。愚者のしわざかくのごとし禮記に、「君子は道を得ることをたのしみ、小人は欲を得ることを楽しむ。道を以て欲を制すれば、たのしみて迷はず。欲を以て道を失へば、迷ひて楽しまず。」といへり。君子は常にたのしみて日をおくり、小人は常にうれひて日をおくる。老衰の身は、殊に餘日すくなければ、一日を以て一月とし、一月を以て一年とする工夫をなすべし。一日一時も楽しまずして、あだに時日をおくるは愚かなりといふべし。

大和俗訓

  • 學問は智恵をひらく道なれば、廣く聞き多く見て義理に通じ、我が心に智恵のおのづからひらくるを待つべし。聡明をたのみ、我が才智を先だて用ふべからず。人の才智をおさへずして、人の善言を取りもちふべし。位たかく年たける人、或は才學の名のある人も、其の位と年と才とにほこるべからず。只、人にへりくだりて尋ねとふは、知者のますます智をます道なり。
  • 一生をはかなくおはらんこと、いとおろかなりといふべし。今年の今日再び得がたきことを思ひて、かりにもいたづらに時をわたるべからず。是れ一生の間心を用ふべきことなり。古人も「常にしておかず、つねに行ひてやまざる者には及びがたし。」といへり。
  • いとまをしまざれば、君子は身ををさめ、家をととのふる事あたはず。
  • 己ををさめ人ををさむる道をまなぶは、大いなる學問なれば大學といふ。明徳を明らかにするはおのれを治むるなり。民をあらたにするは人ををさむるなり。至善にとどまるは、明徳をあきらかにし、民をあらたにするに、皆至極の善にいたりてとどまるべしとなり。故に、明徳新民の外に、至善にとどまる道あるにはあらず。右の三綱領は大學の大要なり。
  • 格物とは、萬事萬物の道理にきはめいたるをいひ、致知とは、わが心の知をきはめて、明らかにするなり。格物の次第は、まづ五常五倫の道、身を治め家をととのふるちかきことよりして、次第を以て、やうやく國天下ををさむる理にきはめ至る。是れ格物なり。かくのごとく、萬事萬物につきて理をきわむれば、わが心の知おのづから明らかになる。是れ致知なり。故に、格物の外に致知の工夫なし。是れ大學のつとめのはじめなり。その次は誠意にあり。意とは心のはじめておこる所の苗なり。心の體はしづかにして、善悪いまだあらはれず、その初めてうごく時、善も悪もあらはる。意のおこる時に、このむと悪むとの二つあり。悪むとはきらふなり。この時善をこのみ悪をきらふこと、真實にしていつはりなきを誠意といふ。
  • 學問の要二あり。いまだしらざる時は知らんことを求め、既にしられば行ふべし。知られざれば行ひがたし。行はざればしらざるに同じく、無用の事となりぬ。ここを以て、學問の道は、只、知と行との二にあり。又、萬巻の書をよんでも、道をしらず行はざればよまざるに同じ。これ道に志なければなりここを以て、大學の道、まず格物致知して事物の理をきはめ、わが知をひらき、さて知れる所の善をこのみ悪をきらふ心實にして、知れる所を行ふ。是れ誠意なり知ることいたらざれば、萬事の善悪わきまえがたし。意誠ならざれば、善をなし悪をさること、實ならずして道行はれず。この二は、大學の道の要にして、知行の工夫なり。
  • 學問はただわが身のあやまりをあらため、善にうつりて、身をおさむる工夫を専ーにすべし。書をひろくよみ、古今天下のことに通ずとも、もし我が身のあやまちをあらためず、善を行わずばいたづらごとなり。しかれば、學間はまづ志を立て、身に行ふを第一とすべし書をよむは、これ第二義なり。
  • 此の道理の天下にある處は、まづ吾が心を本とす。
  • 上代よりこのかた、誠は日々におとろへ、かざりは日々にさかんなり。おごりは彌々まさり、倹約は彌々すたる。質朴をばいやしみ、華美をばほむ。今の世に道を行けば、いつはりかざりをやめて、古風に立ちかへり、すなほにして、真實なるをたつとびつとむべし。真實なれば、人も感じてしたがひやすし。時俗にうつり行くべからず。
  • 人の我にして無禮横逆あり、又、事不順ありて、わが心にかなはざることあらば、是れすなはち、善心をおこし私欲をこらふる學問のつとめ、徳のすすむ所なりと思ひ、人の不順なるを堪忍し、わが身をかへりみ、心をせめおさて、いかりをこらし、欲をふせぎ、善にうつり、過を改むべし。かやうのわが心術をつとむべき折節を、あだに思ひて、いたづらにすごすべからず。かく心にかなはざる所を、よくこらへつとめてこそ、わが心の徳も學問もすすむべき理なりかかることにあらざれば、心をきめ、欲をしのぶ工夫すすまず。
  • 劉行簡に曰く、「天下の事下人心に合ひ、上天意に合ひ、中大道に合ふ惟一言あり。曰く、公のみ。」公とは私なくをいふ。私とは、ひたすらわが身を利せんことをこのみて、人のためをかへりみざるをいふ。是れ人我をへだつるなり。公とは人我のへだてなく、我と人とともに同じくかへりみざるをい。公にして私なければ道理にかなひ、天意にかなひ人心にかなふ。故に、その心の誠おのづからあらはれて、人のほまれもよろこびもあつく、人のうたがひにくむことなく、もとめずして天道のめぐみも人の愛敬もこれあり。又、一言にして上天意にそむき、下人心にちがひ、中大道にかなはざることあり。私の一字なり。たとひ、天下に聞ゆるほどの善事を行ふとも、心に私あらば、まことの道にあらず。凡そ、私を行ひて、たとひ一旦利を得て、わざわひなくとも、天のいかり、人のうらみにくみ、身にむくいて、かならずわざわひにあひ、身はづかしめられ、名をけがす。天道はまことにおそるべきかな。
  • 人の心の内、道徳の至りてたふとく、至りてたのしむべき理あり。君子はこれをしりて、たふとびたのしみて外に求めず。小人はこれをしらず。徳をそこなひ道を失ひて、これをたふとびたのしまず、ただ俗樂のいやしきわざのみをたのしみとし、利欲をもっぱらとし、長くうれひくるしみてたのしみを失ふ。人となるものはこの楽をしるを貴しとす。是をしらずんば人となれるかひなかるべし。この楽をしらんとならば、まことの學問をよくつとめて、其の理をしるべし。

大和俗訓

  • 人の性は本善なれども、凡そ人は氣質と人欲に妨げられて善を失ふ。氣質とは生まれつきをいふ。人欲とは人の身の耳目口體に好むことのよき程に過ぐるをいふ。生まれつきあしければ、人欲行はれやすし。さればすべて人たる者は、古のひじりのをしえを學んで、人となれる道をしり、氣質のあしきくせを改め、人欲の妨げを去りて、本性の善にかへるべし。是れ學問の道なり。故に、いにしへの聖人、をしえを立て、天下の人に學ばしめ給ふは、人の性皆善なる故、學んで善にかへる道あればなり。
  • 志を立つることは大にして高くすべし。小にしてひきければ、小成に安んじて成就しがたし。天下第一等の人とならんと平生志すべし。世俗と同じく、いやしくひきくすべからず。かく志をたてて、日々月々につとめ行はば、久しくその功つもりて、必ず人にまさるべし。上をまなべば中にいたり、中をまなべば下にいたる。下を學べば功をなさず。又、心は小にしてひきくすべし。人にへりくだり、日用常行のひきあしもとより行ふべし。心大なれば、おごりてつつしみなく、細行をつとめず。高ければ人にたかぶちて謙徳を失ふ。
  • 篤く行ふとは、すでにまなびとひ、思ひわきまへて、その道理をしらば、即ち吾が身の其のしれる道理をあつく行ふべし。行ふことあつからざれば道たちがたし。篤く行ふの道は、ことばを忠信にしていつはりなく、行をつつしみてあやまちをすくなくす。人の身のわざ多けれど、言と行との二にはいでず。故に、言をまつことにし、行をつつしめば、身をさまる。又、心のおこる處の用七あり。喜怒哀樂愛悪慾なり。人の身のわざはこの七よりおこる。是をつつしみて、過不及なくして道理にかなふべし。中につきて、七情の内、いかりと慾との二、尤もわが心を害し、身をそこなひ人をそこなふものなる故に、いかりをこらしやめ、慾をふさぎ去りて、其のはじめにおこる處のきざしにかつべし。又、善にうつりて、我が善より猶よき事あらば、おのれが善をすてて、まされる方にしたがふべし。身に過あらばはやく改むばしわが身に執着して、改むるにはばかるべからず。又、人われにしたがはざる事あらば、人をせめずしてわが身をかへりみとがむべし。是れ皆あつく行ふ道なり。學び問ふにあらざれば道明らかならず。思ひ辨ふるにあらざれば、道をわが心に得がたし。篤く行ふにあらざれば知りても實なし。右五のものは中庸にしるせる所、學の工夫なり。程子も「この五のものを一をかけば學にあらず」といへり。
  • 常に我が身をかへりみ、又、人のいさめをききて、わが不善なると、我があやまちとをしりて、善にうつりあやまちをあらたむべし。知ありて、忠直にして、我が過を正す良友を求めて、交りしたしみて、いさめをききをしへをもとむべし。學問は我が身のあしきをあらためて、よきにうつる道なれば、我を知ありとし、我をよしと思はば、學ぶとも益なくしてかへりて邪氣を長ずべし。人聖人にあらず、なんぞ事ごとに善をつくさんや。自ら是とし、自ら足れりとすべからず。聖人すら學問をこのみて、自ら是とし給はず。今の凡夫、いかでかあやまちなかるべき。
  • 凡そ、致知の法は、五常五倫の道をしるを以て先とし、家をととのいて民をさむるにいたるべし。次に、萬事萬物の道理をもしりきはむべし。天地の内にあらゆる萬事萬物は、皆我が心の分内のことなれば、その理をしらずんばあるべからず。天下の理をきはめしるの道は、本とちかきとを先とし、末と遠とを後にして、前後緩急の次第を失ふべからず。
  • 末世の凡夫わづかなる智恵才能にほこるは甚だおろかなりといふべし。尚書にも、「その善にほこれば其の善をうしなひ、その能にほこればその能を失ふ。」といへり。わが身にほこれば、みづから是として吾に過悪あることを知らざる故に、過を改め善にうつることあたはず。悪日々に長じ、善日々に消えぬ。しかれば、たとひ聖人と同じく居て、朝夕をしへうくとも益なかるべし。つとめて書をよみ學問すとも、其の身に益なきのみにあらず、却つて邪氣をまし、才能にほこりて害あり。ここを以て、矜は天下の悪徳の由、古人のいましめ明らかなり。學問する者、まづ第一これをいましむべし。文盲なる人のことばに、學問すれば人品あしくなる。益なくして害ありといふは、世上にかやらの人あるを見て、そのくひぜを守り、その上、その人もとより學問をきらふ故に、妄りにかくいふなるべし。もし己が身ををさめんために實にまなばば、なんぞ益なからんや。害なからんことはいふに及ばず。
  • 理をきはむる事をしるも、一重に物を思ふべからず。うらのはまゆふの百重なることを思ひて、幾重にも理をきわむべし。心あさき人は一重をしりて、はやことはり至極して、この上なしと思ふははかなきことなり。今日一重をさて、明日又一重をさり、日々かくのごとくすべし。皮をつくして肉を見、肉をつくして骨を見、骨をつくして髄を見るべし。凡そ、理をきわむる學問は、心あらくかろき人は、なしうべからず。心くはしく静かにすべし。
  • 孔子の曰く、「古之學者為己、今學者為人。」為己とは、我が身を修めん為にする實學なり。為人とは、人に知られんがためにする名利の學なり。學問の本意は、己が身をさめんためなれば、人の知ると知られざるとにかかはらず、たとへば、食する者のわが飢をやめ、身を養はんためにするがごとし。只、わが腹にみちなんことをのみ思ひて、さらに我が食したるを人にしらせんと願ふ心なし。學問はただ我が身ををさめんがためにすべし。聊かも人にしられん為にすべからず。

大和俗訓

  • 常に天地につかへ奉るを以て人の道とす。天地につかへ奉る道はいかんぞや。およそ人は、天地の萬物をうみそだて給ふ御めぐみの心を以て心とす。此の心を名づけて仁といふ。仁は人の心に天より生まれつきたる本性なり。仁の理は人をめぐみ物をあはれむを徳とす。此の仁の徳をたもち失はずして、天地のうみ給へる人倫をあつく愛し、次に鳥獣草木をあはれみて、天地の人と萬物を愛し給ふ御心にしたがひ、天地の御めぐみのちからを助くるを以て、天地につかへ奉る道とす。これすなはち、人の道とする所にして仁なり。仁の理をわかてば仁義となり、仁義をわかてば禮智信となる。五の性をすべて五常といふ。
  • 人と生るるは、きはめてかたきことなれば、わくらはに得がたき人の身を得たることをたのしみてわするべからず。又、人と生れて、人の道をしらで、むなしくこの世を過ぎなんことをうれふべし。この樂と憂との二を、身を終わるまでわするべからず。
     およそ、人となる者は、人の道をしらずんばあるばからず。人の道をしらんとならば、聖人の教をたふとびて、その道を學ぶべし。いかんとなれば、聖人は人の至極なり。天地の道にしたがひて、人の道ををしへ給へる萬世の師なり。後代にのこしおき給ふ四書五経の教は、萬世の鑑なりその道理明らかなること日月の天にかかれるが如く、天下ひろしといへども、てらざる所なし。よくよまん人は、天下の天にかかれるが如く、天下ひろしといへども、てらざる所なし。よくよまん人は、天下の道理をしらんこと、白日の天にかかれるが如く、天下ひろしといへども、てらざる所なし。よくよまん人は、天下の道理をしらんこと、白日に黒白をわかつが如くなるべし。あに是を學ばざるべけんや。しかるに人となる者、人倫の道は天性に生まれつきたれども、その道に志なくして、食にあき、衣をあたたかきに、居所をやすくしたるまでにて、聖人の教を學ばざれば、人の道なくして鳥けだものにちかし。かくの如くなれば、人を生まれたるかひなし。萬物の壺とすべからず。このゆゑに、聖人是をうれひ、賢臣を以て萬民の師として、人倫の道を教へさせ給ふ。是れ人となるものは、必ず道を學ばずんば有るべからざればなり。愚おもへらく、人と生れて學ばざれば生まれざると同じ。まなんでも道をしらざれば學ばざると同じ。道を知りても行はざれば、しらざるに同じ。その故いかんとなれば、人と生まれてまなばざれば、人の道をしらずして、人と生まれたるかひなし。是れ人とうまれて學ばざれば、生れざると同じきなり。學ぶは道をしらんがためなり。もし學ばずんばあるべからず。學ぶ者は必ず道をしらずんばあるべからず。道をしられば必ず行はずんばあるべからず。道をしれば必ずよく行ふ。行はざるはいまだ道をしらざるなり。道をしらんと思はば聖人の教をあふぎ、賢人の説を階梯として、その法に随ふべし。是れ道をしるべき學問のすぢなり。道に志なく、志傳あしく、學術をえらぶをむねとすべし。學術とはまなびやうのすぢをいふ。學のすぢあしければ、一生つとめても道をしらず。一たび迷ひぬれば、よき道に立ちかへりがたし。故に、まづ學術をえらぶべし。
     學問の道は、極めて廣大高妙にして深奥なり。しかれども、其の近き所は、孝弟忠信の日用常行にあり。故に、いかなる愚なる者も、この道をまなびやすく、しりやすく、行ひやすし高遠にしてあやしく異なる道にはあらず。
  • 學問はまづ志を立つるを以て本とす。志とは心のゆく所なり。道を知り行ひて、君子に至らんと思ふ心つねにおこたりなく念々やまざるを、志を立つるといふ。志たたざれば學ぶこと成就せず。故に、古人も「志ある者はその事つひに成る。」といひ、又、「志たつは學の半なり。」といへり。たとえば、弓いる者の的に志し、道ゆく者の宿りに志すがごとし。よろづの事まづ本をつとむべし。志を立つるは學問の本なり。志と立つるは學問の本なり。志を立つるには勇猛なるべし。柔弱にしておこたるべからず。おこたれば、しるしなくしてかはゆかず。道を求むるにせちなる志は、たとへば飢ゑて食を求め、渇きて湯水を求むるが如くなるべし。わづかに悠々としておこたれば、志すたる。只、此の道に心を一すぢにすべし。外物に心をうばはるべからず。「物をべば志をうしなふ。」と、尚書にもいへり。言ふ意は、耳目口體にこのむ所の外、欲に耽り外物をこのみ、或は無益の雑藝を一向にすきこのみて、心をかたぶくるの類は、皆是れ物をもてあそぶなり。かくのごとく、外物に心をうつせば、道を學び君子となる志をうしなふ。萬の外物の翫び、このみ、皆欲をそこなふものなり。程子の曰く、「専一ならざれば直に遂ぐることあたはず。」言ふこころは、一すぢになさざれば行ひとぐること成りがたし。専一とは、たとへば猫の鼠をねらふがごとく、鶏の卵をあたたむるがごとく、他念なかるべし。心あなたこなたにわかるれば、學問道義の志はおとろへすたる。文藝武藝は誠に士たる者の習ふべきことなれば、つとめ學ぶべし。されども、藝は末なり、道義の學は本なり藝をひたすらこのめば、必ず撃の志を立つれば、たとへば西國の人のあづまやへゆかんとおもひ立ちて、日々にゆくに、その間書夜あづまへゆかんと思ふ心は、念々つねにやまず。是れあづまへゆく志たつなり。かくのごとくなれば、つひにこころざす所に行きとどかずといふことなし。道に志すも、赤かくの如くなるべし。
  • 凡そ學をするには、教をうくる基を立て、又、禁戒を守るべし。基とは家をつくる土臺なり。學問する人は謙を以て基とす。謙とはへりくだるなり。我が身にほこらず、人に高ぶらずして、心をむなしくし、人に問ふことをこのみ、わが才をたのまず、師友をうやまひ、我が身に才力ありてもなきが如くしをしえをよくきき、人のいさめを悦び、すでにしれることもしらざるが如くにして、わが知を先だてず、すでによく行ふことも、いまだ行はざるが如く思ひ、人をせめずしてわが身をせむるをへりくだるといふ。是れ學間をつとめ、教をうくる基なり。たとへば、家を作るに、先ず基を立つるが如し。この基あれば、日々に善言をきき、わが過をしりて、知明らかになり、善日日々に長ず。學の進むことはきはまりなし。又禁戒を守るべし。禁戒とは、いましめて行はざるをいふ。學問する人は、まず矜の字を禁戒とす。矜とはほこるとよむ。ほこるとはわが身に自満して、人にへりくだらざるをいふ。いまだしらざるをすでにしわりとし、よからざるをよしとす。もはら我が知を用ひて、人にとはず、人のいさめを用ひず、身をせめずして人をせむ。かくのごとくなれば、惡日々に長ず。初學の人は先ずこの禁戒を守り、又、此の基を立つべし。然らざれば、學んでも益なきのみにあらず、かへつて害あり。是れ書をよみ學問する人の、第一心得べき事なり。
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