「ITを活用した健康管理サービスを展開できているスポーツクラブは弊社だけ」と、コナミスポーツ&ライフの大石利光社長は、IT健康管理システム「e-エグザス」に自信を深める。ゲーム機器開発のノウハウを注ぎ込んだ虎の子だ。「ITを使った経営効率化は、安全・清潔・快適の次」と話すが、「ITでできることはまだまだある」と新サービス開発への意欲は満々だ。
IT健康管理システム「e-エグザス」の仕組みについて教えてください。
e-エグザスを導入しているスポーツクラブに入会すると、最初にICタグが入った電子鍵を渡されます。ロッカーでこの電子鍵をかざすと個人認証され、その人専用のロッカーになります。そして、運動する前にフィットネスマシンにかざすと、ICタグを読みとって誰がマシンを使うのかを特定します。
フィットネスマシンはネットワークに接続されており、サーバーのデータベースを参照します。そこに蓄積されている個人の運動履歴を分析し、スポーツクラブ内の情報端末などで見られるようにするのです。実はスポーツクラブ内だけではなく、家庭の機器とも連動して、生活のあらゆるシーンでの運動履歴をすぐに見られるようにしています。
ある運動をした結果、内臓脂肪や筋肉量がどの程度変化したかを、体組成計が測る。その瞬間だけではなく、時間の経過による変化を見ることが大事です。1カ月にこれだけの運動をした結果、自分の体がこんなに変化した、と分からないとモチベーションを持続できませんから。
内臓脂肪の量が変わったとか、筋肉量が増えたといった情報や、何キロの重りを上げられるようになったという情報を知らせてあげる。“見える化”することで、もうちょっと頑張ろうという気持ちを起こさせるのです。現在、ITを活用したサービスを展開しているスポーツクラブは、全国でも弊社だけだと思います。
運動の継続をITでサポート
ITが競合との差異化のポイントになっているということですか。
撮影:加藤 康 |
その通りです。もともとコナミという会社は、人を感動させたり、楽しませたりするのが得意分野。ITも得意です。そのコナミとスポーツクラブの得意分野を融合させてできたが「e-エグザス」なのです。
自分の健康を意識して、楽しみながら運動を継続させるには、ITがないと難しいものです。特に、毎日メモを付けるのは面倒ですが、それをITが肩代わりしてくれる点は大きいでしょう。
本人にとっても有効なデータですが、実は弊社にとってもものすごい宝の山になる。例えば、ネットワーク化されていないフィットネスマシンは、どのくらい使われたかはおおよその見当でしか分かりませんが、e-エグザスのマシンは稼働時間や稼働率を正確にカウントできます。すると、マシンが壊れる前にメンテナンスができるし、顧客の動線から有効活用されているかどうかも分かります。しかも、その情報は社長である私の机の上パソコンから全部見ることができるのです。
フィットネスマシンの中には、さまざまなコンテンツが入っています。ホノルルマラソンのコースをランニングマシンの画面に映すこともできます。そのマシンで走っている人も特定できますから、どういう属性の人がホノルルマラソンを選んでいるかということも分かります。そうした情報の蓄積を、次のコンテンツ開発に生かせます。顧客のニーズに合わせたソフト開発ができるようになるのです
ITベンダーに丸投げはしない
フィットネスマシンからシステムまで自社開発なのですか。
フィットネスマシンは、ゼロから開発しました。こうしたネットワーク機能を持ったマシンは世の中にありませんでした。ないから作ったのです。あれば買っていますよ(笑)。
コナミの代表取締役兼会長の上月景正は、「これからの経営にはITが不可欠」という思いを持っており、旧ピープルをコナミグループに吸収したときにも、「今のままのフィットネスマシンでは勝てない。ITを使って何かできないか」と考えていました。私はコナミのアミューズメント部門に在籍中から、e-エグザスの構想を練り始めていたのですが、その後、旧コナミスポーツライフ(フィットネス機器開発会社)に異動し、e-エグザスに正式に取り組んだのです。コナミからハードウエア開発者やプログラマ、デザイナなどを異動させて作り始めました。
コナミは社内業務にもITを積極的に活用しているのですか。
そうです。コナミはさまざまなシステムをいち早く導入してきました。コナミ社内のIT活用は、システム部門が中心で推進しており、e-エグザスのチームとの交流もあります。コナミグループの持っているノウハウは皆で共通して使っています。当然、e-エグザスなどの開発会議にも入ってもらいます。グループ内にITの専門家がいるわけですから、業務委託してシステムを作ってもらったりしています。ホールディングス制になって、やりやすくなったと思います。事業会社同士がうまく補完し合えますから。
コナミスポーツ&ライフ単独でシステム開発をやってしまうかというと、それはありません。コナミグループのITの考え方ややり方を含めて、どうやって補完していくかという打ち合わせはしょっちゅうしています。
データベースを置いているデータセンターは、コナミが運営しているものだから、その部分の費用は支払います。施設を借りてはいますが、サーバーのメンテナンスなどはコナミスポーツ&ライフの担当者が行っています。全部が自前でやっているというわけではありませんが、少なくとも司令塔としては自社でコントロールしています。
逆に、ITベンダーに丸投げにしてしまうことは絶対にしません。うちの命ですもの、会員のデータベースは。ノウハウは自社に残さないと、企業は成長しません。ちゃんと目利きができる人を作らないとダメだと思います。顧客の声を聞いて、実際に機器を開発するためには、そうした目利きできる人が現場とつながっていないと無理でしょう。
>>後編
(聞き手は,桔梗原 富夫=日経コンピュータ編集長,取材日:2007年7月20日)
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