豊富な実績のある「未踏事業」を拡大し
未来の「イノベーションの担い手」を育成

5年、10年後に花開く
地方の若手人材を
発掘・育成する

左より菊池龍佑氏、大森翔平氏

経済産業省が主導して立ち上げた「未踏事業」は20年以上にわたって継続されている。デジタルイノベーションを創出する突出した才能を育てる事業だが、その狙いに違わず、2000人以上の修了生はスタートアップや大学などで活躍している。その実績は高く評価されており、事業の拡大につながった。2023年度に「AKATSUKIプロジェクト」がスタート。地方の若手人材を発掘・育成する事業は2年間続いており、3年目に入ることが決まった。

未踏事業とAKATSUKIプロジェクト

――2023年度にスタートした「AKATSUKIプロジェクト(以下、AKATSUKI)」について、概要を教えてください。

菊池 AKATSUKIは地方の若者を対象とした人材の発掘・育成プログラムを支援する事業です。北海道から沖縄まで全国各地から応募があり、2023年度に26件、24年度に23件のプログラムが審査の上、補助事業として選ばれました。これらプログラムを実施する補助事業者は地元企業、大学やNPOなどの組織が中心になることもあります。各地域では5~30人程度の若者を集めて育成に取り組み、全体では数百人の若者がAKATSUKIにチャレンジしています。

経済産業省
商務情報政策局
情報技術利用促進課(ITイノベーション課)
課長補佐
菊池龍佑

菊池龍佑氏

――AKATSUKIが生まれた背景についてうかがいます。

菊池 政府は2022年に「スタートアップ育成5か年計画」を決定し、その一環として、「未踏事業」の拡大が決まりました。2000年度に開始された未踏事業は20年以上続く「老舗政策」で、デジタルイノベーションを創出する突出した人材の発掘・育成を目的としています。未踏修了生は約2000人に上り、うち400人以上がスタートアップ経営者として、およそ500人が全国の大学や研究機関などで活躍しています。著名な学者や起業家も少なくありません。ただ、未踏の応募者は首都圏に集中しているという課題がありました。まだまだ首都圏と地方との間に情報格差や教育格差が存在するため、その打ち手としてAKATSUKIにつながりました。

――未踏事業参加者が頂上を目指すとすれば、いずれ頂上に立ちたいと思っている若手のすそ野を広げることがAKATSUKIの狙いですか。

菊池 その通りです。実際、AKATSUKIに参加した方で未踏事業に採択された事例があります。AKATSUKIのすべての参加者に同じことを求めているわけではありませんが、修了後も高い目標を持って、様々なことに挑戦してもらいたいと思っています。

地元プレイヤーとともにどのような座組をつくるか

――地方の若者にとって、AKATSUKIは得難いチャレンジの機会ですね。

菊池 未踏事業の統括プロジェクトマネージャ、竹内郁雄先生(東京大学名誉教授)の言葉を私たちは心に刻んでいます。「才能に地域差はない」。環境やきっかけ次第で花開く才能は多いはずです。AKATSUKIを体験した若い人たちが、自分自身に「未踏スピリット」を埋め込んでくれるとうれしいですね。

――どのような若者に、AKATSUKIに参加してほしいと思いますか。

菊池 「自分のアイデアを形にしたい」、「地域課題を解決したい」といった意欲を持つ若者に参加してもらいたいですね。実際、これまでの2年、そうした人材がAKATSUKIに集まっています。他の人が思いつかないようなユニークなアイデアを持つ人材をプロジェクトマネージャやメンターなどが寄ってたかって真剣にそのアイデアの実現に向けてサポートするのが未踏です。未踏では専門家のサポートの他にクリエータに対して支援金を提供するため、それだけに応募者も多く競争は激しい。「未踏はハードルが高い」と感じる人には、まずAKATSUKIへの参加をお勧めします。AKATSUKIの参加者のやりたいことに、各補助事業者とプロジェクトマネージャ、メンターなどのプロフェッショナルが寄り添い、出る杭をぐんぐん伸ばしてくれる貴重な体験になると思います。

菊池龍佑氏

“「アイデアを形にしたい」という熱い思いを持った若者にAKATSUKIに参加してもらいたい”

――AKATSUKIの現場を担う補助事業者について、地域的な傾向はありますか。

菊池 未踏の修了生が全国各地におり、AKATSUKIにも多くの未踏関係者に御協力いただいています。例えば北海道と福岡県では多くの未踏修了生が参画して未踏に準拠したプログラムを実施しているケースがあります。その他、地域課題を取り扱うもの、海外研修などの越境体験から自身のやりたいことを追求するものなど、地域ごとに多種多様なプログラムが実施されています。大事なのは、単なるピッチコンテストやプログラミングコンテストと差別化し、クリエータのアイデアを実装するための機会をどれだけ提供できるか、ということを考えています。

大森翔平氏

経済産業省
商務情報政策局
情報技術利用促進課
課長補佐
大森翔平

大森 例えば、愛媛県では伊予銀行が中心になり、造船会社など地元の有力企業とも連携してプロジェクトを立ち上げました。自治体とも連携しています。どのような座組をつくるかは、事業を成功させる上で重要なポイントだと思います。

2025年度、3年目もAKATSUKIを実施する

――AKATSUKIの事業を進める上で、課題を感じることはありますか。

大森 特に地方では、未踏事業やAKATSUKIへの認知がまだ十分ではないと感じます。地域の自治体や企業、若者の間でもっとプロジェクトへの理解が深まれば、より活発な動きにつながると期待しています。

菊池 2023年度にスタートしたAKATSUKIは2025年度も実施します。未踏の大きな裾野づくりを持続的に機能するためには、人材の発掘育成だけでなく地域の定着、自走するための仕組みづくりが重要なので、地域に寄り添っていただいている地方経済産業局や自治体の方々ともさらに連携していきたいと思っています。

――2025年2月10日に、AKATSUKIカンファレンスを開催予定と聞いています。

大森 カンファレンスは、AKATSUKIの最終成果報告会を兼ねています。全国の20以上の補助事業者が一堂に会するのは容易ではありませんが、カンファレンスはその貴重な機会です。補助事業者が1年間の取り組みを発表し、情報を交換することで、人材育成のノウハウをさらに磨くことができます。これをきっかけに、今後も長く交流を続ける人たちもいるはずです。

大森翔平氏

“AKATSUKIカンファレンスは貴重な情報交換の場。人材育成のノウハウも磨けるはず”

菊池 その他、Webサイトを通じた情報発信も行っています。AKATSUKIプロジェクトは特設ページを用意しており、各地域の補助事業者の活動内容が紹介されています。特設ページ内のAKATSUKIブログをご覧いただくと、各地域の合宿や発表会の様子、参加しているクリエータのプロジェクトの詳細などを知ることができ、事業者間で他の補助事業者のアイデアを参考に取り組みを工夫していただければと思っています。

――最後に、AKATSUKIに関心を寄せる企業や大学などの人たちにメッセージをお願いします。

大森 特に地方では、若者がデジタルやテクノロジーに触れる環境が十分整っていないケースが多い。このような環境を少しでも改善するため、様々な地域にAKATSUKIの活動を広げていきたいと考えています。人材育成の経験が薄い事業者であっても、プロジェクトを進める中でノウハウがたまりますし、若者の反応を見て刺激を受けることもあるでしょう。全国の多くの事業者に、AKATSUKIへの参画を検討してもらいたいですね。

左より大森翔平氏、菊池龍佑氏

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