渡邊曉雄の指揮で聞くシベリウスの交響曲第5番
作曲者 : SIBELIUS, Jean 1865-1957 フィンランド
曲名  : 交響曲 第5番 変ホ長調 Op.82 (1914-15/1916,1919改訂)
演奏者 : 渡邊曉雄指揮 日本フィルハーモニー交響楽団
CD番号 : FM東京/TFMC-0012

斎藤秀雄と同じシリーズからで、こちらは1974年7月17日東京文化会館録音(第66回定期演奏会)というもの。もちろん、旧日フィルとの全集、そしてデジタル録音の新録音も持っているが、これは何種類かあるライブの中でも出色の出来映えと思われる一枚。
この時期の日フィル、新日フィルを聞き比べると明らかに日フィルの方がよくまとまっている。オーボエは客員としてバート・ギャスマンが座っていた最後の演奏会だそうで、アンコールでは彼がソロをとる「トゥオネラの白鳥」が渡邊曉雄のギャスマンの紹介とともに演奏されている。
しかし、なんという音楽的な五番だろう!!「シベリウスの彼岸へののどかな旅」と私は解釈しているこの作品、パストラルな雰囲気の背後に恐ろしい深淵が口をあけているような凄さがある。それでいてどこまでの明るさを失わない…。
第1版(これは4楽章あった…)から3楽章へと大きく変更しただけでなく、第1版の「暗さ」がずいぶんオブラートに包まれた結果、こういう形に落ち着いている。それは死を美化し、そのまま冷たい世界をただようがごとき第6番とは対照的ですらある。
だから第1楽章がいきなり途切れるように終わり、第2楽章の天国的な響きが続くのではと私は勝手に思っている。シベリウス様、私の勝手な解釈をどうぞお許し下さいませ…。
シベリウスの作品の中でもあまりモード技法に頼らず、それでいて自分の音の世界を作り上げた充実した傑作中の傑作。だから渡邊曉雄の演奏は実に納得感がある。天国のような美しさの第2楽章が次第にせわしなく盛り上がり、次の次元へと旅を続け、ふと気がつくと同じところに立っている…。そんな面白さが、シベリウスの音楽にあるような気がしてくる。
終楽章のテーマは宮崎アニメの「千と千尋の神隠し」のフィナーレで使われていたメロディーにそっくり。もちろんシベリウスさんの方が先…。アニメを見た時は驚いたけれど、映画の主題にとても合っているように思え、久石譲さん、やるなぁ…と思った。盗作だとか非難するような事は愚かである。どちらも良い作品だからだ。
あまりこの曲に親しんでいないという方なら、他にも色々と良い演奏があるので、そちらからでも良い。録音がやはり1970年代半ばのテープで録ったライブ録音なので、ヒス・ノイズはしっかりのっているので…。でも演奏だけで言えばトップクラスの素晴らしさだ。当日、会場で聞いた人たちの興奮も当然だろう。
写真はアインジーデルンの修道院のカテドラル。まだ寒い時期。今から五年前のちょうど今頃に行った時の写真である。中では中世から人々の信仰を一身に受けてきた黒いマリアが出迎えてくれる。
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追記 : 宏さんのご指摘のようにこれ日フィルではなく都響の間違いです。オケはまぎれもなく都響です。私の書き間違いです。(2010年5月30日12:48)
by Schweizer_Musik | 2010-03-06 09:02 | CD試聴記
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