【追悼】ジェーン・グドール博士が91歳で死去、類人猿研究に革命

チンパンジー研究の第一人者、自然保護活動にささげた人生、「人間を再定義した女性」

2025.10.04
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著名な霊長類学者であるジェーン・グドール氏は、野生のチンパンジーの生活を数十年にわたって研究し、人間に最も近い知的な類人猿に対する私たちの理解を根本から変えた。(PHOTOGRAPH BY VICTORIA WILL, INVISION/AP)
著名な霊長類学者であるジェーン・グドール氏は、野生のチンパンジーの生活を数十年にわたって研究し、人間に最も近い知的な類人猿に対する私たちの理解を根本から変えた。(PHOTOGRAPH BY VICTORIA WILL, INVISION/AP)

 2025年10月1日、ジェーン・グドール研究所は、その創設者で国連平和大使でもあるジェーン・グドール博士が91歳で死去したと発表した。グドール氏は霊長類学者で、動物行動学者で、自然保護活動家で、動物福祉の擁護者で、教育者でもあった。

「ジェーン・グドール博士はこの世界に多くの光をもたらし、ひとりの人間にどれだけすばらしいことができるのかを美しく示してくれました」とナショナル ジオグラフィック協会のジル・ティーフェンターラーCEOは語る。「ジェーンは非凡な科学者、自然保護活動家、人道主義者、教育者、指導者であり、そして何より希望の擁護者でした」

「60年以上にわたりナショナル ジオグラフィック・コミュニティーの大切なメンバーであったジェーンは、人間と自然との関係を一変させ、私たちの人間性まで変化させました。私たちは、彼女から学び、彼女と信念を共有できたことに感謝し、彼女の光を受け継いでゆく所存です」

 グドール氏は初期のフィールドワークでタンザニアのゴンベ・ストリーム猟獣保護区(現在のゴンベ国立公園)のチンパンジーを観察し、人間と類人猿に共通する多くの社会的・感情的な行動を明らかにした。グドール氏の伝記を執筆したデール・ピーターソン氏は、彼女は「人間を再定義した女性」だったと記している。

ナショジオ協会が行ったなかでおそらく最高の支援

 グドール氏がナショナル ジオグラフィック協会の目にとまったのは1961年のことだった。彼女の指導者で、協会の支援を受けていた古人類学者のルイス・リーキーが、ケニア、ナイロビのコリンドン博物館の助手をゴンベに派遣してチンパンジーの観察をさせているので支援してほしいと協会に持ちかけたのだ。(参考記事:「人類学をみんなに広めたルイス・リーキーの大発見」

 科学者や探検家への助成を決定する協会の研究探検委員会は、グドール氏の研究費として1400ドル(当時の為替レートで約50万円)を承認したが、リーキーは彼女が研究結果をまとめる間の生活費としてさらに400ポンド(当時の為替レートで約40万円)を要求し、委員会はこれに難色を示した。

 委員たちは警戒したのだ。グドール氏は痩せていて、いかにもか弱そうだった。科学教育は受けておらず、学位も持っていない。そんな女性が、東アフリカの未開の地で、激しい天候や、捕食動物や、毒ヘビや、マラリア蚊に1人で耐えてチンパンジーの行動を研究することなどできるのだろうか?

 そこでリーキーは切り札を出した。グドール氏は、チンパンジーが草の葉や小枝を使って道具を作り、蟻塚に突っ込んでシロアリを「釣る」行動を記録したと打ち明けたのだ。当時は、道具を作って使うのは人間だけだと考えられていた。

ギャラリー:ジェーン・グドール博士の稀有な生涯と多大な功績 写真15点(写真クリックでギャラリーページへ)
ギャラリー:ジェーン・グドール博士の稀有な生涯と多大な功績 写真15点(写真クリックでギャラリーページへ)
ゴンベのキャンプの窓で遊ぶ「フリント」を見つめるグドール氏。フリントは「フロー」の息子だ。(PHOTOGRAPH BY HUGO VAN LAWICK, NAT GEO IMAGE COLLECTION)

 グドール氏の研究に興味を持った委員会は追加資金を承認し、彼女の研究を後押しした。これはおそらく協会が行った支援の中で最高のものだった。「ナショナル ジオグラフィック」誌やテレビでの報道は、ジェーン・グドール氏を世界で最も有名な女性科学者にした。

 とはいえ報道では、「美女はサルの観察に夢中」「フェイ・レイ(訳注:映画『キング・コング』の主演女優)、私がうらやましい?」といった、グドール氏を侮辱するような見出しが躍っていた。協会会長のメルビル・ベル・グロブナーでさえ、彼女を「サルの研究をしている金髪の英国娘」と呼んでいた。(参考記事:「炎の変革者メルビル・ベル・グロブナー」

 しかし彼女は、人からどう見られようと一向に気にしなかった。研究に有利になるなら、それで良いと思っていた。人々は女性が脅威になるとは感じず、手を貸してくれることが多かったからだ。「私は(ナショナル)ジオグラフィックのカバーガールでした」と彼女は皮肉混じりに言っている。(参考記事:「“類人猿ガールズ”誕生秘話」

次ページ:「私はここに来るべくして来た」

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