傘をひらいて、空を

伝聞と嘘とほんとうの話。

2016-08-01から1ヶ月間の記事一覧

僕のために泣いてくれ

ねえ、マキノさんは、唐突な恋って知っている?つまり、相手のことをよく知らないのに、風景から浮かび上がるように誰かを見つけてしまうようなこと。そうしてその人がわたしの手を取ってくれるようなこと。 私もそれなりの年月を生きているから、うん、そう…

幸福に帰る

重いでしょう、と彼女が言う。重いねと私はこたえる。ごめんねと彼女が言う。誰かに聞いてほしくて。ひとりじゃ受け止められなくて。 こういう会話は何度目だろう、と私は思う。何十回もしたと思う。私は、人の話を聞くのが好きだ。何を聞いてもおもしろがっ…

「尊い犠牲」候補の反乱

わたしはその映画、気が進まないな。評判がいいのは知ってるけどね、うん、できがいい悪いじゃなくて、おもしろいおもしろくないじゃなくて、わたし、なんていうか、パニックものの映画、観たくないの、あんまり。怖いんじゃなくて、えっと、怖いのかな、怖…

JR恵比寿駅23時36分の狼煙

どうしてこんなところにいるんだろう。そう思う。自分も、向かいの人も。どうしてもこうしても、仕事上の必要がない相手を食事しようと言って呼び出したんだから、当たり前に適当なものを食ってるんだけど、お食事をしませんかという誘い文句の目的が食い物…

わたしたちの不合理な取っ手

エスプレッソを考えたイタリア人は偉いですね。偉いですよね、こんなに美味しいんだものね。でもこのカップは最悪、あきらかに持ちにくい、とくに、取っ手の穴、圧倒的に、意味がない。たしかに、指は入らないですね。そう、指が入らないんだから、耳たぶみ…