傘をひらいて、空を

伝聞と嘘とほんとうの話。

2012-08-01から1ヶ月間の記事一覧

氷の海の帆船

ひとりで暇をつぶせないやつは僕の友だちじゃないと彼は言う。教養ある人をあなたは好むと私はパラフレーズする。彼が首をかしげるので私は親切に教えてあげる。教養とはひとりで暇をつぶす技術だと言った作家がいたんだよ。お酒が好きで好きで酔っぱらって…

彼女のかわいい女の子

この子こんな顔して仕事はえぐいんですよ。上司が言い上司の上司が笑い彼女もにっこりと笑う。どいつもこいつも顔に言及しないと私の仕事の話ができないみたいだと彼女は思う。顔で仕事をしているとでもいうみたいに。私の顔、眉の薄い目の丸い栗鼠めいた顔…

彼のやさしい男の子

見合いみたいだと彼は思う。見合いになんか行ったことはないし、目の前にいるのは親くらいの年齢の男だけれど。けれどもこの男は僕の釣書を見ているし、交わされるのは表面的な、そのくせえらく計算高い、だから総じて効率的な、そういう会話だ。 彼は彼の上…

彼女の負債と有罪

私たちは空想上の通帳をあいだにはさんで難しい顔をしていた。空想上のでないものをテーブルの上に置くことはなんだかできなかった。安全のためというより違和感のために、私たちはそれができないのだった。にぎやかな駅の前にはほとんど必ずあるようなチェ…