傘をひらいて、空を

伝聞と嘘とほんとうの話。

2014-04-01から1ヶ月間の記事一覧

王子さまとお姫さまの犯行

死体みたいだ。寝ぼけた頭でそう思ってそれから、めがねのせいだ、と気づく。めがねをかけてまっすぐ上を向いて目を閉じているから死体。男の死体。カーテンの隙間から光は漏れていない。まだまだ夜だ。そう思ってまた眠る。隣の死体はもちろんほんとうには…

ヴァイオレント・ケア

ごめんなさいねえとおばさんが言う。うちの子がいまだにお世話になって。私は首を横に振る。美味しいものが口のなかにあるので話すことができない。大学生の時分、おばさんの子の家庭教師をして、毎週ごはんを食べさせてもらった。その代わりといってはなん…

「優雅な生活が最高の復讐である」

久しぶりにおばさんの家に行くことになった。おばさんというのは叔母さんではなくて、伯母さんでもなくて、赤の他人だ。十代の終わり、ファミリーレストランでアルバイトをしていて、それで知りあった。私は皿を運び、彼女は皿を洗っていた。おばさんの家は…

三角形の地獄

そういえば最近とてもいい文章を読んだんだ。へえ、なあに、私は文章が好きだよ。知ってる、でもあれは槙野、あんまり好きじゃあないと思うな、達者だとは言うんだろうけど、たぶん読んでる、ほらあの、マンガ家を脅迫した犯人の陳述。あれかあ、読んだよも…

弱者の服毒

泣いてごめんね、と彼女は言った。不愉快にさせてごめんね。自分の声が遠いところから聞こえた。頭蓋の中で反射しているはずの声が遠くから聞こえている気がするのだ。涙は止まり、声は平板になり、視界から立体感がうしなわれて、からだに当たる衣類の布が…