傘をひらいて、空を

伝聞と嘘とほんとうの話。

2011-07-01から1ヶ月間の記事一覧

僕は忙しくない

久しぶりに彼が参加するというので楽しみにしていた。その会合は仕事がらみで成立した集まりではあるけれど、参加者の年齢が近くて直接的な利害関係が薄いので、行って話すとなんとなく元気になる。 彼はずいぶんと多忙な職場にいて、子どもが生まれて一年く…

二重写しの視界

彼のあいさつを聞いて、堂々としている、と私は思った。とても、堂々としている、このひとはまるで、失敗したことがないみたいだ。 彼はずいぶんと名のある企業から、若いうちに裁量を与えられたくて転職してきたというのだった。いかにもさわやかな様子だ…

彼らの報酬

被災地入りの前日、夕食をともにした友人にそのことを話すと、友人は頬杖をついて彼女をじろじろ眺めまわし、それから、いいなあ、私も被災地、見たいなあ、と言った。 彼女は喉に上がってきたなにかをごくりと飲みくだし、なるべく平静な声をつくって、いい…

情熱の延命措置

なんだかデートみたいですねと私は言い、デートじゃいけませんかと彼は言った。私は彼と彼の背後にいる、物理的な背後ではなく観念としての背後にいる彼女を見た。彼女は私の古い友人であり、彼は彼女の恋人で、もう四年近く一緒にいるのだった。彼らはとも…