傘をひらいて、空を

伝聞と嘘とほんとうの話。

2014-11-01から1ヶ月間の記事一覧

私たちのまぼろしの正しさ

私は目の前の友だちを見る。彼女が疲れていることを私は知っている。無料で文字や音声のやりとりができる世界にあって相変わらず対面で人と会うのは、その身体の状態をわかちあうことができるからだ。目で見えるものにかぎっても大量のチャンネルがある。表…

サイレント・モンスター

まとわりついて話しかけた。立ちはだかって行く手をふさいだ。かっとなって怒鳴りつけた。泣きわめいた。腕をつかんで揺さぶった。相手の顔がすこしゆがんだ。アテンション、と彼女は思った。いまこの人は、私を見た。私に注意を向けた。それをひどく嬉しく…

薄暗い偶像

なんとなく会いたくなくって、それらしい人物がいないと少しほっとした。そのくせ今から来やしないかと淡く期待した。何年かに一度その会合に参加するたび、彼女は同じ心持ちになった。反芻、と思った。その人はいつも、いなかった。その人の今の顔だって知…

烙印の取り扱い

出産した友だちと半年ぶりに会うことが決まる。難産だったと聞いていて、けれどももうすっかり元気だと本人からのメッセージのには書かれている。だいじょうぶかなと私は思い、それから、本人に任せようと思う。彼女に家にいてもらって私がそこを訪れてお粥…