傘をひらいて、空を

伝聞と嘘とほんとうの話。

2014-03-01から1ヶ月間の記事一覧

弱者の毒薬

男の人が泣くのを見たのははじめてだったから、少し驚いたけれども、いやではなかった。かわいそうで心が痛んだけれども、自分に心を許して甘えてくれるのは少しうれしかった。落ち着くまで頭を撫でてあげるのが好きだった。そんなにしょっちゅうではなくて…

だいじょうぶオールド・ボーイ

ごはん行きましょう。なるべく明るい声で私は言う。性根が陰鬱なのを隠して明朗にふるまおうとするとばかっぽくなるなあと思う。職場での私は常時そんなふうだ。他人にはなるべく当たり障りのない印象を持ってもらいたいと思う。みんなそう考えてほがらかな…

腫瘍を引きずり出す

文章は上手くなくて良い。上手いなら幸いだけれども、特別に上手くなくても書きたければ書いていいのだし、書くのはたのしい。それだからみんな作文するといいですよ。そういう主旨でものを書くワークショップがあった。あった、というのは文字通り主催が他…

“ 傷害雲雀、殺人ちゆりっぷ ”

ご足労いただきましてと目の前の男は言った。彼の訪れた小さな会社の社長だということだった。紙のような、と彼は思った。スーツも皮膚もどこか乾いた、今朝出してきて夜には捨てるもののような感じがした。お時間いただきましてと彼は返した。下げた頭から…