傘をひらいて、空を

伝聞と嘘とほんとうの話。

2012-11-01から1ヶ月間の記事一覧

幽霊と住む

彼はそのとき高校三年生で、近くの薬科大学を受験するつもりでいた。親戚が市内で小さい薬局をやっていて、僕が資格とったらこの店をおくれよと言ったら、ああやるよと言われたのだ。それに薬科大は家から近い。 薬剤師になろうと思ったのは理数系だったのと…

幽霊を書く

それにしてもあれはほんとうにいい話だったねえと私は言った。それはよかったと彼はこたえた。彼は私にとてもよい話をし、私はそれを自分のブログに書いた。それから、あれは嘘だよと彼は言った。そのほかのもろもろも嘘だよ。 私が何度かまたたきすると、嘘…

あなたの不潔な感情

私たちのメールには赤青黄色の信号がついている。文頭あるいは末尾に。たいていは青だ。本題から一行あけた数文字の信号。たとえば「槙野です。新米おいしい」「羽鳥です。明日から大阪」。OK、私たちは無事に生きている。私たちのやりとりは月に一度か二度…

辻斬りガールと無害でお利口な大人

マキノさんなんでしばらく予約取れなかったのと彼女は言う。予約という物言いが可笑しくて私はすこし笑う。受けたといいたげな顔で彼女は目をぴかぴかさせている。週末の半分は仕事で残り半分に数少ない親しい人たちとの予定をぎゅうぎゅうに詰めこんでいた…