日本人にとっておいしい食材としてなじみの深い水生甲殻類は、陸上を支配する兄弟分、昆虫と同じ節足動物の仲間だ。とはいえ普段目にする口にする、カニやロブスター、そしてエビなどは幅広く多種多様な甲殻類のうちのほんの一部でしかない。他にも多種多様な水棲甲殻類たちが、地球の水環境のほぼ全域、氷に支配された北極から危険極まりない毒の泉といったあらゆる場所で、捕食者や掃除屋、寄生生物として暮らしているのだ。
10.キクイムシ
海に住む生物の食べ物が”木”だなんて妙な気がするが、海には木を食糧にする海洋生物にとって十分なほどの木材が流出している。等脚類(ダンゴムシなど)の仲間であるキクイムシもその一例で、水に浸かった木だけを食べるように進化したのだ。彼らは”キクイムシ”というあだ名の通り、船を台無しにする。その小さな”海のシロアリ”達は”フナクイムシ”とほぼ同じぐらい有害だ。
9.カクレガニ
人間に寄生する虫に”ケジラミ”というのがいるが、水中にも寄生するカニの仲間がいる。小さくて柔らかく、繊細な甲羅を持つこのカニはカクレガニ科に属していて、アサリや牡蠣などの二枚貝、ホヤやナマコのほか数種類の生物の体の隙間に潜り込んで暮らし、宿主と食べ物を分かち合う。
ちなみにカクレガニは、アサリと一緒にうっかり蒸されて料理の中に入ってたりするが食べられる。立派な食材で、きちんと収穫されてカクレガニ料理として珍重されたりもする。
8.ワレカラ(スケルトン・シュリンプ)
彼らはワレカラ科に属する小さな海の捕食者で、その薄く透き通った姿から”スケルトン・シュリンプ”とよばれている。ワレカラはその鉤爪付きの脚で、珊瑚や海綿、海藻など色々なものの表面に自分の体をしっかりと固定する。そして横たわって獲物を待ち伏せする。またワレカラの仲間には、若干の誇張があるものの広く世間に知れ渡った”カマキリの交尾”に似た行動をする種もいる。その雌は交尾が終わると雄に毒を注入して彼らを食べてしまうのだ。
7.フジツボ類 ドジマ
フジツボ類(蔓脚類)はチャールズ・ダーウィンの推論によって初めて分類され、さらに”軟体動物”とみなされていたが、実際は甲殻類に属する。フジツボ類は動き回ることをやめて固着性を手に入れ、プランクトンを食べる暮らしをしているのだが、彼らの仲間には移動性の形態に復帰した種が少なくとも1つ存在する。なんとドジマ(Buoy Barnacle)はうまく付着できる場所が見当たらない場合、自らスポンジ状の”浮き”を分泌することができるという唯一の蔓脚類なのだ。その様子は外骨格でできた軍艦のようで、海流に乗って漂う感じだ。
6.ムカデエビ類
長く節がある体とかい(櫂)状の脚がたくさんついたムカデエビ類の外見は、まさに泳ぐムカデだ。しかも彼らは毒を分泌すると推測されている大きな一対の”牙”まで持っている。彼らは地下で海水とつながる洞窟の奥深くに生息するとされ、捕まえにくいので研究も容易ではない。ムカデエビ類は世界中に分布していることから、かつてはどこにでもいる生物だったが、数百万年前に進化競争によって暗い洞窟などに追いやられたのではないか、と考えられている。
5.クジラシラミ
クジラシラミは彼らは哺乳類の上で一生を過ごす節足動物として広く知られている。彼らはクジラや小型のイルカの表面のひだや傷跡、そしてフジツボなどにしがみつく。そう聞くとちょっと不快な感じがするが、小さな生物たちは死んだ皮膚や藻類などを食べるだけで、宿主に危害を与えたりはしない。それどころか彼らはセミクジラ属の最大の特徴にさえなっている。つまりクジラの表面にある独特な白いまだら模様は、その大きな体にしがみついている何万匹もの青白いシラミ達によって形作られているのだ。
また面白いことに、クジラシラミ科の仲達は先ほど登場したワレカラ科、別名スケルトン・シュリンプの下位グループでもある。クジラシラミ達はクジラの体に適応すると同時に肉食の習性を失ったのだ。
4.テッポウエビ
テッポウエビ科に属するこのエビ達は、その体に驚異的な兵器を備えていることで良く知られている。広げたハサミをパチンと鳴らすことで圧力差による泡を生み出して破裂させ(キャビテーション)、その音と圧力で小さな魚を麻痺させたり、殺したりするほどの衝撃を与える。
彼らの生体的なスタンガンは見事なものだが、ここでテッポウエビを取り上げている理由は他にもある。アリやシロアリのように繁殖だけを行う”女王”と、繁殖力の無い労働階級といった社会性を有するコロニーで暮らすという甲殻類は少ないが、テッポウエビ達はひたすら海綿の内部で暮らし、その過程で有害な寄生生物を除去し続ける。彼らは超音波の”針”と集団生活を送る”巣”を持つ”海の蜂”なのだ。
3.アンカー・ワーム
甲殻類に含まれるケンミジンコなどのカイアシ類の中には、通称アンカー・ワーム(イカリムシ)という生物がいる。すでにこの名前からして彼らの奇妙さが伝わるのではないだろうか。これらの寄生生物は大人になると節足動物らしい部分を失い、脱皮して盲目で脚の無い筒状の体へと姿を変える。そして魚のみならず、仲間の無脊椎動物にまで張り付いている時がある。
アンカー・ワームの中には吸血するものいて、宿主の体の奥深くに”根”を食い込ませ、その血液を吸い込む。また、自分の体を魚の目玉に潜り込ませて、ゼリー状のガラス体を食べるというもっと恐ろしい種類もいる。奇妙なものだと口の先が象の鼻のように柔軟になっていて、外側から宿主をどんどん食べていく、という種類もいくつかいる。彼らは一生かけて同じ宿主を外側から食べ続けるのだ。
ちなみに最も迷惑なアンカーワームはTrebius shiinoi という奴だろう。彼らはカスザメの雌の子宮の中にいる。多くの場合、彼らは生まれる前のサメの子に繁殖するのだ。
2.タルマワシ
日本ではタルマワシと呼ばれる”プラム・バグ”は深海のハンターグループに属していて、映画”エイリアン”と比較されることが良くある。それは両方共に薄気味悪く伸びた頭を持ち、凄惨な一生を送るためだ。子育ての時期になると、雌はゼラチン質の体を持つ濾過摂食者(餌を濾し取って食べる生物。ここでは脊椎動物の遠縁にあたるホヤなど。)を捕獲してその体を刻んで掘り、筒のようなものを一つこしらえる。そして彼女はその筒状の死骸を移動式の保育室にして、いくつもあるパドル状の脚で舵を取りながら水の中を進み、卵に酸素を送る。彼女は定期的にその保育室の中に獲物をとりこみ、幼い我が子とシェアできるように八つ裂きにして食べるのだ。
1.ハイパー・パラサイト フクロムシ
甲殻類に寄生する甲殻類、フクロムシは生活史が複雑なことで知られる。フクロムシの雌は体の90%を捨てた後、宿主であるメスのカニの体全体に行き渡るぐらいの網状の組織に成長する。と同時にこの宿主はフクロムシによって不妊にされて、寄生生物の卵を育てるように騙されてしまう。ちなみにフクロムシは宿主がオスであれば、彼らが自身を母親だと思い込み、そのように振舞うまで宿主のホルモンレベルを操作する。
この”赤ちゃんすり替え”作業をうまく進めるまえに、メスのフクロムシは同種のオスを見つける必要がある。彼女は完全に成長し終えると、エキステルナと呼ばれる大きな袋状の組織をそのカニの体の外に広げる。すると幼生期にある小さなフクロムシの雄達がこの露出した袋に自ら入り込み、残りの人生を内部から彼女を受胎させることに費やす。
しかし残念ながら、そのエキステルナはフクロムシより一枚上手の連中にその姿をさらすことになる。その連中とはLiriopsis pygmaea といい、等脚類(ワラジムシやダンゴムシ)の仲間で寄生性を有し、フクロムシのような寄生性の蔓脚類が外部にさらす袋にのみ住み着くのだ。つまり寄生生物に寄生する生物だ。学者はこれを”ハイパー・パラサイト”とよんでいる。
彼らもその宿主と同じように、大人になるとその種だと見分けられるような特徴の大半を失い、ただ真っ白でぼってりとした真珠になる。そしてその蔓脚類が宿主であるカニの生殖能力を奪うのと同様に、これらの丸い生物も蔓脚類を不妊にさせてしまうのだ。
美味しいの?
くじらのあれ模様じゃなかったんだ
今まで気にしたこともなかったけど、大変勉強になった
すごく関係ない話だが学生の頃ワレカラをワカレラとかカレワラとかカワレラとか思っていた
寄生虫に寄生するとかうーむ
すげえわ
フクロムシの画像でビクッとなってしまった
カニとフクロムシとLiriopsis pygmaeaの生存競争ドロドロしすぎだろ
フクロムシ怖いなあ…… カニ買って、甲羅を開けたらあんなんだったらトラウマ以外の何者でもないわ
イカリムシよりアニサキスの方がなじみ有るんでない?
サンマからニョロ~って出てるキモイひも状の奴
>>8
アニキサスは甲殻類ではないな
フクロムシこええぇぇ
どんなSFだよ
小さいカニがシラス干しに混じっているとちょっと嬉しい。
勉強になりました。
ワレカラやイカリムシは和名そのままじゃいかんのか?
クジラシラミにまとめて火炎放射攻撃したい
寄生生物って聞くと問答無用で気持ち悪さを感じるが、カクレガニだけは何か負のイメージが無いよな
貝からしたら迷惑なんだろうけど
あさりの中でこんにちはするカニさんの正体が判明しただけでも、読んだ甲斐があった。
キクイムシもムケデエビも寄生生物も、よく今まで存続できたなってくらい限定的な生息環境だよなあ…
まあ、それで上手く続けられた種だけ生き残ったってことなんだろうけど、不思議
クジラシラミって吸血性の生き物だってずっと思い込んでた。
テッポウエビ外してヘラムシ入れてあげよう!
意外とグロくないむしろ綺麗な写真だな、とかスライドしたら最後のフクロムシにやられた…
クジラのは模様じゃなかったんだなあ
カクレガニと宿主に間には何も無いのかね?
魚に寄生といえば、タイノエが素揚げにすると美味いって記事が前にあったね
学者とかクジラの白い模様で個体識別するとかどっかで見た気がするんだけど、シラミは移動してったりしないのかね?
このテッポウエビは十傑集に入れるな
宿主不妊にしておきながら自分の子を育てさせたり、騙されて不妊にさせられて他者の子を育てさせられたり、オスは残りの生涯を一生殖器に成り果てたり、なんてゆーか修羅な世界ですね。
フクロムシは知ってたけどそれに寄生するのがいたとは、上には上がいるもんだな
フクロムシ「カニに寄生して不妊にさせたつもりが不妊にされたでござる」
カクレガニかわいい。見つけるとちょっとラッキーって思う
テッポウエビはそのうちテラフォーマーズに出てきそうだね
意外と元から丸い生き物って発見されてなかったのね