南極の氷下には、眠れる火山たちが存在している。気温の上昇とともに氷床が薄くなると、その圧力の減少が地下のマグマに影響を及ぼし、噴火のリスクが高まることが新たな研究で明らかになった。
研究者たちは、厚さ1kmの氷が薄くなるシナリオをもとに、火山活動がいかに進行するかをシミュレーションした。
その結果、マグマの膨張とともに氷床崩壊のリスクが増大する「悪循環」が確認された。もしこの連鎖が進行すれば、地球規模での海面上昇が避けられないという。
氷河の融解が引き起こす地球内部の変化
氷河が融けると、様々な秘密も露わになる。西南極氷床の下には、現在も活動中の火山が潜んでおり、気候変動による氷の融解に伴い、その活動が活発化する可能性があるという。
「西南極地溝帯系」には、たくさんの火山が集まっている。地溝帯系は、地面の下で地殻という地球の表面の硬い層が引っ張られて割れ目ができる場所のことだ。
この割れ目付近では地下の熱や火山活動が特に活発だとされている。西南極にある火山には、エレバス山のように地表に見えるものもあるが、多くは氷床の下に隠れているため、これまでは詳しいことが分かっていなかった。
火山が噴火する理由の一つは、地下にあるマグマという非常に高温の溶けた岩石だ。このマグマは液体のように動く性質を持っており、ガスを含んでいることが多い。
そして、地表の重さや圧力が弱まると、マグマが膨らみやすくなり、地表に向かって押し上げられる。今回の研究では、氷河が融けることで、氷の重みが「蓋(ふた)」のような役割を果たしていたのが失われ、マグマが膨張しやすくなることが分かった。
ブラウン大学やウィスコンシン大学マディソン校などの研究機関の研究チームは4,000回以上のコンピューターシミュレーションを行い、氷の重さが減るとマグマがどのように変化するかを調べた。
例えば、1kmの厚さの氷が300年かけて融けた場合、火山活動が増えて一部の火山では毎年大量の熱が発生し、一部の火山では年間10テラジュールもの熱を放出することが確認された。この熱量は、年間300万立方m以上の氷を溶かすのに相当する。
氷河と火山の危険な負の循環
この研究で明らかになったのは、氷河が融けることで火山が噴火しやすくなり、その結果、火山から放出される熱やガスがさらに氷河を融かすという悪循環が起こる可能性だ。
このサイクルが続くと、西南極氷床が予想よりも早く崩れる危険性がある。
もし西南極氷床のすべての氷が融けてしまうと、地球全体の海面が3.3mも上がると考えられている。
これはたくさんの国で沿岸地域が海に沈んでしまうことを意味する。
さらに、2024年には南極の海氷が観測史上2番目に少ない量にまで減少したことが報告されており、すでに危機的な状況が進行している。
南極だけでなくアイスランドやアラスカも危険
この現象は南極だけに留まらない。アイスランドやアラスカの氷河の下でも似たような動きが観測されている。
過去の氷河後退期には、環太平洋火山帯で火山活動が急増したことが記録されており、これらのデータを比較することで研究者たちはさらに精密な予測モデルを作り出そうとしている。
この帯には日本、アラスカ、インドネシア、南米のアンデス山脈などが含まれ、世界の火山の多くがここに集中している。日本もこの環太平洋火山帯に含まれているため、火山や地震が多い地域となっている。
手遅れにならないためには
気候変動は、地表だけでなく地下にも影響を与える可能性があるとわかってきた。この変化は短期間で起こるものではなく、何百年もかけて進むと考えられているが、その影響はとても大きい。我々はまさに茹でガエルのような状態だ。
例えば、温暖化によって氷が溶けると、その重さが減ることで地下の火山にかかる圧力が変わる。これが原因で火山が活発化し、噴火が起きやすくなる可能性がある。
そして、火山が噴火すると熱が発生し、その熱でさらに氷が溶ける。このように、氷の融解と火山活動が互いに影響し合う連鎖が起こる。
この連鎖を止めるためには、科学者たちが現象を詳しく研究し、私たちもその仕組みをしっかり理解することが大切だ。
この研究は『Geochemistry, Geophysics, Geosystems.』誌に掲載された。
References: Melting Antarctic Ice Could Awaken 100 Hidden Volcanoes
ふむ、素人がなんとなく予想しているモノも科学的見地から論理的に説明するとなると大変なんだなぁ。