薬の増量が希望を打ち砕く。
出口の見えない長い長いトンネルに入り込んでしまったようなこの一ヶ月。風薫る新緑の溢れる清々しい季節だと言うのに、春と夏が同居しているようなこの時季、激しい気温差や、低気圧が近づいて来ると酸素が薄くなるため、その影響で体調不良を訴える人も多い。
5月10日、循環器・腎臓内科の外来へ。一時増えた体重は63キロ台に戻り退院時と同じになったにも関わらず、病院までの足取りは重く息切れも酷かった。長い連休明けの外来はどの科も普段の倍に近い患者たちで混雑しており、座るスペースを確保出来ないほどだった。
退院後の体調があまり芳しくない事を主治医に訴える。日中から夜にかけて両脚が浮腫み、近所のコンビニまで買い物に行くだけで息切れが起こる始末。これまでとは明らかに違う心臓の違和感に不安を抱き、その影響で心も疲弊していた。
電子カルテを覗き込み、処方されている薬の種類を見詰めながら眉をしかめる主治医。「これ以上増やすとしたら利尿薬くらいしかないですね…」「サムスカ増やせます?」「うーん、それは最後の手段かなぁ…」。「そうなんですか…」。内科的治療の限界点に近づいている事を示唆しているような会話のやり取りだった。
思い付いたような口調で主治医が言った。「アルダクトン出してみましょうか」。アルダクトンもサムスカやラシックスと同じ利尿薬であるが、前者とは性質の違う利尿作用はそれほど強くはないが、カリウムの排出を抑える心不全治療薬である。カリウムを体内に溜め込むため、高カリウム血症のリスクが増える。そのため定期的な血液検査は必須。
現状の病態を改善出来るのであればどれほどリスクの高い薬であれ、藁にも縋る思いでその処方に理解を示した。何れにせよ3回目の心臓手術が現実味を帯びて来たことは言うまでもない。
あと何年この心臓が持ち堪えられるのか、それはおそらく主治医にも分からないだろう。年々悪化して行く心臓に希望をもたらす新薬が登場してくれる事を願って私は今日も生きている。
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