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ビーチサイドの人魚姫
俊樹

2019年9月Nikon D700で一眼レフデビュー。カメラは独学。2020年4月、Nikon D810へアップグレード。いつか写真展を開く為、日々精進。勿論、詩、小説、エッセイ、作詞は継続中。2021年夏、Nikon Z7Ⅱへと更にアップグレード。2022年10月、3回目の心臓手術に耐え抜き現在に至る。2023年8月ペースメーカー植え込み。

2016いたばし花火大会in荒川土手。

2016年09月10日
その他 21
花火2016

 8月6日、愛猫タラの癒し効果が背中を押してくれたのか、足取りも軽く花火会場の荒川土手へと出掛けた。家を出たのは16時だが、西台駅から会場まで徒歩で30分程度。夕暮れ時とはいえ、真夏の陽射しが容赦なく照り付けていた。気温は35℃を越えていたと思う。
 僅か10分も歩いただけで首筋が汗で滲んでくる。冷えた緑茶と氷を入れたマグボトルに早くも手を付けた。ほんの少しだけカップに注ぎ、グイッと一息に喉の奥へと流し込む。1日の水分量は厳しく制限されているから、喉の渇きに任せて飲む訳にはいかない。制限されているからこそ単なる緑茶が格別に美味しく感じるのだろう。
 17時少し前に会場に着き、昨年と同様の場所を見つけ、そこで時が来るのを待った。沈みかけた真っ赤な夕陽が背中に痛いほど突き刺さる。花火見学に来る人の殆どは家族、友人同士、そして恋人同士のようなカップルばかりで、私のように一人で花火を観る人はまずいないだろうと思った。
 それでも寂しいとか羨望の眼差しを投げるような気持ちは全くなかった。色とりどりの浴衣を着た若いお嬢さんたちの姿は眼の保養になったし、手を繋いで歩くカップルたちの姿はとても微笑ましく思えた。
 そんな浴衣姿を見て、ある夏の日の情景が浮かび上がって来た。勇樹の母親「ゆみ子」と出会って迎えた最初の夏だった。私は21、彼女は18歳になったばかりであった。安倍川花火大会を見に行く約束をしていたその日、待ち合わせ場所はいつもの「すみやレコード店」。彼女が来るのを待ちながらレコードを物色していた。
 「シュンちゃん、お待たせ」彼女の声に振り向くと、紺色に花火模様を散りばめた浴衣姿が飛び込んで来た。彼女は長い髪を後ろで結びポニーテールにしていた。「浴衣、似合ってるねー、なんかすごく艶っぽい!」、「うん、ありがとう、初めて着たんだよ」そうつぶやきながらはにかんだ。その表情には「シュンに見せたく着てきた」と言わんばかりだったが、そんな気持ちをぐっと堪えているようにも見えた。
 駿府城のお堀を眺めつつ、人混みの波に二人身を任せた。私の右手をぎゅっと強く握りしめるゆみ子、死んでもこの手は離さないといった、熱い愛情が私の心臓にまで伝わって来るようだった。
 時を告げるかのように花火が夜空に向かって打ち上がる。「オオーっ」という歓声とともに見事な花火が舞い散る花びらのように夜空を彩った。「シュン、わたしもあの花火のように咲いてみるね」「うん?う、うんうん…」。「でも、散り際も花火のように潔くね…」。ゆみ子の呟いた言葉に返す言葉も浮かばなかった。愛などという成熟した感情など持ちあわせていなかった。「恋は下心、でもその恋を二人で育てて愛にする」この境地に辿り着くまでどれほど遠回りしただろうか…。
 気が付くと、打ち上げ開始のアナウンスが風に流されそこら中に木霊していた。今年この花火会場に来れたことに感謝、そしてまた来年も同じ場所に訪れようとささやかな願いを込めて。

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俊樹
この記事を書いた人: 俊樹
本名/神戸俊樹
静岡県藤枝市出身。
19歳の時に受けた心臓手術を切っ掛けに20歳から詩を書き始める。
2005年3月詩集天国の地図を文芸社より出版、全国デビューを果たす。
うつ病回復をきっかけに詩の創作を再開。
長編小説「届かなかった僕の歌」三部作(幼少編・養護学校編・青春編)父を主人公にした(番外編)を現在執筆中。
詩、小説、エッセイ、作詞など幅広く創作。
2019年9月、一眼レフデビュー。Nikon D700を使用。
2020年4月、Nikon D810にアップグレード。
2021年夏、ミラーレス一眼 Z7Ⅱへと更にアップグレード。
2022年10月3度目となる心臓手術を受け、大成功を収める。
2023年8月徐脈性心房細動で心停止(失神)したため、ペースメーカーを植え込む。

コメント21件

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purotoko

No title

お早うございます。さすがに物書きさんだけあって文書が隅から隅まで神経が行きとおっています。私もこのような文書かけたらと思いましたよ。花火は夏の風物詩ではありますが写真に収めるのは非常に難しいです。花火が終わると夏も終わったのだなと想いますが今はどこかで花火やっています。皆さん花火を見てどんなこと思い浮かべるのでしょう!

2016年09月10日 (土) 03:48

双子パンダ

(*´ω`*)

素敵な花火見られてよかったですね♪
私は今年も花火を見ていないです( *´艸`)
キレイな花火の写真ありがとうございます☆

2016年09月10日 (土) 18:59

ichan

No title

こんばんは。

花火大会を満喫し、なおかつ、想い起こす
こともできて何よりでした。

この開放的な時間こそが大切ですよね。

2016年09月10日 (土) 20:49

青空

No title

こんばんは
奥様との思い出 素敵ですネ!

私は最近は花火大会に行っていません
なのでこの花火の写真はとても有難いです。
花火大会に行くと必ずお願い事をしてしまいます
何故だか分からないのですが・・・願い事を!
また花火大会の様子を教えて下さいネ。 (*^-^*)

2016年09月10日 (土) 21:00

みゆきん

No title

夏の終りの花火って綺麗よね
こっちは明日にでも雪が降りそう・・・しくしく

2016年09月10日 (土) 21:52

はなこ

No title

暑いのに水分量が制限されているのはお辛いですね・・
そのぶんよけいに冷たいお茶がおいしいのでしょうけど。

花火にまつわるやさしい思い出、
花火のことを直接書かれているわけではないのに
花火のきれいさ華やかさ、そして儚さが行間から伝わって
わたしも一緒に花火を見たような気持ちになりました。

2016年09月10日 (土) 22:01

koyuri

奥様の御名前が

読みは従姉妹の名前と一緒。

不思議な縁を感じます。

2016年09月10日 (土) 23:32

Miyu

おはようございます。

花火いいですね。最近見たことがないですが、花火を見たくなりました。もう、秋になりましたが・・・。
若かりし日の素敵な思い出がよみがえって来るのでしょうね(●^o^●)

2016年09月11日 (日) 07:08

ネリム

おはようございます
花火綺麗ですね

2016年09月11日 (日) 09:26

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2016年09月11日 (日) 14:52

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2016年09月11日 (日) 15:38

かみかわ

一人でも

花火大会 楽しかり 若き思い出 共にあればと 連れだちし 姿や浴衣 姿でも かつての日々を 思いたるらむ

2016年09月11日 (日) 23:09

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2016年09月11日 (日) 23:18

まるまりもマルマリ

No title

夏の思い出は印象深いもの事が多いです。
花火のあがる夜。
すてきな思い出ですね。

2016年09月13日 (火) 19:55

なになにこ

No title

素敵な 花火の思いで・・・・
羨ましい限りです^♡^。

2016年09月13日 (火) 20:01

ころこ

No title

花火の情景と奥様との浴衣姿のデートの情景が合わさってきれいです。

2016年09月14日 (水) 19:04

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2016年09月14日 (水) 23:52

イヴまま

No title

こんばんは 俊樹さん
夜空に広がる美しい花火
しっかりと瞳の奥に刻まれたことでしょう。
素敵な素敵な夜だったのですね。

2016年09月16日 (金) 21:29

ゆう。 @Σオット寝坊したッ

喉の渇きの対処法




水でもお茶でもマッタク同じで "クチに含んだら唇をなぞって濡らす" です。登山とかポルタリングなど摂取を限定された状況でわたしはコレを実践してます

…これからの時期 花火は色鮮やかになるのにイベントは少なくなるンだよねぇモッタイナイ

2016年09月17日 (土) 12:12

雪野繭

暑い中、大変でしたね。

花火も綺麗でしたが、それにも増して、
奥様との「記憶」が、綺麗だったのでしょう。
それが現実ではないにしろ、「あの日」に帰れる場所、
みなさん、それぞれ持っていると思います。
人間やっていた良かった、と思えるような場所を。
宝物のですね。

2016年09月18日 (日) 20:13

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2016年09月22日 (木) 23:11