飛天御剣流(ひてんみつるぎりゅう)とは、漫画及びアニメ「るろうに剣心」に登場する架空の剣術流派である。
概要
かつて戦国時代に端を発し、一人対大勢の実戦闘を想定して作られたとされる殺人剣(古流剣術)。
一子相伝の流派であり、作中では主人公・緋村剣心と彼の師匠・比古清十郎が使用する。
飛天の名が示すとおり、天空へ飛び上がるほどの跳躍力や「神速」とうたわれるほどの超人的な体捌きが特徴で、文字通り相手のはるか頭上の「天空」から剣を振るい倒す(斬る)さまから名づけられたとされる。剣心に曰く「こんな剣(逆刃刀)でもない限り確実に相手を斬殺する神速の殺人剣」。
何より、この剣は時代時代の苦難から人々を守るための、どの組織にも派閥にも属さず権力に与しない自由の剣にして、「戦闘になれば、まず間違いなく加担した方に勝利をもたらす『陸の黒船』」である。
しかし当時13歳だった剣心は血気や使命感だけが先走った結果、飛天御剣流の理を真に理解しないまま比古と別れると、当時の政治勢力の1つである長州派へと加わり、本人も意図しないまま権力に手を貸してしまう事となった。
超人的な体捌きと剣捌き以外にも「相手の動きを先読みする」センスにも長けるため、転じて敵の作戦の裏を読んだり登場人物の心理の裏を見抜くほか、丁半バクチでも冴えた読みを発揮する。
とはいえ先読みに頼りがちな剣心の癖を突かれ、鵜堂刃衛や般若などフェイント技を得意とする相手には直撃を喰らったり、感情が読めない宗次郎には苦戦させられる場面もある。
また最終話付近での恵の説明によれば、「(比古のような)恵まれた体格に筋肉の鎧を纏って使う、超人の剣術」とあるため、飛天御剣流を修めるには剣の技術以外にも超人的な筋力体力が不可欠となっており、事実剣心の師匠・比古清十郎が常時身に着けている飛天御剣流継承者の証たる白マントには伝承者の力を常人並に押さえる為の重さ10貫(約39kg)の肩当てと筋肉を逆さに反るバネが仕込まれている。
剣心が飛天御剣流の剣技を使うには体格が小さすぎた為、戦闘をこなすごとに体に負荷が少しずつ蓄積していってしまい、九頭龍閃や奥義を会得して以降は症状がますます加速したためか剣心は「これから4、5年以内に飛天御剣流を撃てなくなる」事を宣告される。
その為、明治十五年(最終話)時点では剣を振るう事自体はできるものの「飛天御剣流は殆ど撃てなくなった」と言われており、弥彦と手合わせした後に自らの愛刀である逆刃刀を自らの思いと共に弥彦へ託している。
・・・という割には、30代を越えてなお、10代20代と大して変わらない、特に皺一つ無いかなり若々しい容姿を保っているのだが、弥彦や操らが指摘するように飛天御剣流には不老の秘術があるのではなかろうか?
本編以外において
なお、「るろうに剣心」単行本で描かれている読み切り版「るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-」及び「戦国の三日月」では、こちらの飛天御剣流のモチーフになったと思われる「飛天三剣流」なる流派が登場する。
OVA版「星霜編」では、原作本編のストーリーが完結後に成長した剣路(剣心と薫の息子)が、飛天御剣流を習得するべく剣心がかつて剣を習った比古清十郎の元へ押しかけている。これは元々作者・和月が思い描いていたアフターストーリーで「剣路は剣心の飛天御剣流を、話に聞いただけで体得している」という設定からくるもののようで、それを実際にものにするために京都の比古の元へやって来た。
この後、剣路に巻き込まれる形で一緒に比古の元を訪れた弥彦と星空の下で杯を交わしながら比古は「時代が飛天御剣流を必要としなくなっていった」と述べつつ、「もとより、誰にも継がせる気は無い・・・ 飛天御剣流は俺の代で終いだ」と発言している。こちらの設定も、もしかすると本編の段階で剣心が飛天御剣流を継がないと表明した時点から考えていた事なのかもしれないが。
ちなみに剣路が少年に成長した時代ゆえ、比古の年齢はもう還暦を迎えるか迎えたかといったところの筈なのだが全く変化が無いあの外見は・・・もう何も言うまい。
飛天御剣流・剣技一覧
飛天御剣流の技を紹介。総じて技名に「龍」「閃」の字が入るのが特徴。
一部の技はジャンプSQで連載された『キネマ版』では技名や設定が変更されている。
- 龍槌閃(りゅうついせん)
- 常人離れした跳躍力で相手の頭上へ跳び上がり、上空から自由落下の勢いと共に剣を振り下ろし相手を真っ二つにする。第一幕で伍兵衛を一撃で倒した技だが、左之助との戦闘にて初めて技名が判明する。
剣心の得意技の一つだが、後述の奥義を会得した後は出番がめっきりと減ってしまう。
また物語中盤以降は、弥彦が見様見真似でこの技を戦闘時に撃って見せた。
派生技に、刀を頭上から突き刺す「龍槌閃・惨」もあるが、こちらは逆刃刀でも確実に相手を殺せるためか幕末時代の頃しか使用した描写が見られないが、新アニメ版では後述の飛龍閃の後に駆け寄って刀を受け取った後この技らしき動きで雷十太の額へ鞘打ちで追撃している。
『キネマ版』では龍墜閃となっている。
- 龍巣閃(りゅうそうせん)
- 瞬速の斬撃で相手の全身を切り刻む乱撃術。
派生技に、相手の体の一部分を集中攻撃する「龍巣閃・咬(がらみ)」という技も。
- 土龍閃(どりゅうせん)
- 剣で地面をゴルフスイングのように抉り、土石の破片や石つぶてを離れた場所の相手にぶつける。
刀身への負荷が大きそうだからか原作では喜兵衛に対して1度のみ使用しただけだったが、それでも喜兵衛が顔面ボコボコになり悲鳴をあげながらのた打ち回るほどの「生き地獄」なダメージを与えている。アニメ版ではこれに加えて後半のアニメオリジナルストーリー以降は地面に刀を突き刺すことで地を這う衝撃波を飛ばす技に変化し出番も多かったが、逆に2023年のリメイク版アニメでは原作唯一の出番がカットされた。
ちなみに土龍という字は「もぐら」とも読めるが、大地を利用する以外には直接の関係は無い。
- 双龍閃(そうりゅうせん)
- 抜刀術。居合抜きの弱点たる、剣を抜き放った後の隙をカバーする為に 左手で斬撃の勢いを乗せ抜刀術と全く同じ軌跡で鞘打ちによる第二撃目を叩き込む。
攻撃が鞘打ち→抜刀、となる場合は「双龍閃・雷(いかづち)」となる。こちらは原作で比古が使ったのみで剣心は使用していないが、ゲーム版「十勇士陰謀編」では剣心も使用した。
後述の天翔龍閃と同様、「隙を生じぬ二段構えの抜刀術」であるが、こちらの場合はいずれの技も攻撃時に帯から鞘を抜くので、技を知る相手の場合は攻撃を読まれる事がある。
キネマ版では相龍閃と名前が変わり、左之助が撃った二重の極みをこの技で相殺してみせた。
実写版では唯一技名が登場している。
- 龍咬閃(りゅうこうせん)
- 飛天御剣流で唯一の、刀を使わない徒手空拳技。龍の顎で噛みつくように、相手の振るった太刀を両手で挟み込み制する、いわゆる真剣白刃取り。
原作では蒼紫の攻撃を白刃取りで止めていたが飛天御剣流剣技とは扱われず、2023年に放送されたアニメ版でこの場面の白刃取りに技名と技らしい動きがついた。原作者・和月氏自ら新しく技名を考案しアニメの戦闘シーンのために新規にネームも描き上げた、いわばアニメオリジナル技ともいえる。そのため蒼紫の回天剣舞の三撃目を制する描写も原作の白刃取り以上に迫力ある場面となっている。
この戦いを横で見ていた弥彦が後に刃止めを会得し鍛練を重ね白刃取りの達人へと成長する事を考えると、この時点から弥彦は「人を活かす剣」を学習していたともいえるだろう。
なお直接の関係は無いが、原作では後に志々雄のアジトでの再戦時も剣心は蒼紫の振るった小太刀を片手で掴んで止めながら蒼紫を説得している。
- 飛龍閃(ひりゅうせん)
- 体を捻りながら勢いを付け、親指で刀の鍔を弾き、鞘から刀身を矢の如く相手めがけ発射する飛刀術。
- 抜刀術が使えない状態でも左手のみで放つことができる。
上述の土龍閃と同様、離れた場所の相手に攻撃でき尚且つ殺さない程度に相手を無力化する事に重点を置いた(と思われる)技。雷十太戦以降出番が無いかと思われたが、続く京都編でも折れた逆刃刀を飛ばして新井青空を張の攻撃から守ったが、いずれも相手の額、変幻自在な刃の切っ先に的確に命中させているので命中精度は少なくとも剣心からすれば銃やヘタな飛び道具を用いるよりも高い。
初お披露目時剣心はこの技を「抜刀術」と呼んでおり、ゲーム版「十勇士陰謀編」でも使用する際には「抜刀術」と発言する。外したシーンがないので「隙を生じぬ二段構え」の際にはどのようなフォローをするのかは不明であるが、新アニメ版では雷十太との戦闘で原作通り刀を発射したのち、急速に間合いを詰めて飛ばした刀をキャッチした後全く同じ場所へ柄頭で刺突を叩き込んだのち上述の龍槌閃・惨らしき技を鞘打ちで繰り出し追撃している。
- 龍翔閃(りゅうしょうせん)
- 下段から、剣の峰を支えながら跳躍し斬り上げる対空技。突き上げるようにも用いる事がある。
不殺を誓ってからの剣心は相手の顎や急所を狙って、刀の峰を押し上げるようにこの技を使っている。
上述の龍槌閃の直後に、連続でこの技を叩き込む「龍槌翔閃」という連撃バージョンもある。
『キネマ版』では龍昇閃となっている。
- 龍巻閃(りゅうかんせん)
- 相手の攻撃を体を捻りながら回避したのち、回転の遠心力を利用してそのまま剣を相手の背後や後頭部めがけ一閃する。技名自体は張との戦闘が初出だが、斎藤との戦闘の際もこれと思わしき技で斎藤の牙突に対抗している。斎藤に曰く「返し技として最も効果を発揮する技」。 そしてそれを先撃ちするのは敗北フラグの定番。
空中で繰り出したり錐揉み回転や宙返りなど、技の形態によって「旋」「凩(こがらし)」「嵐」など様々な派生技が存在。
『キネマ版』では龍環閃となっているが、オリジナルとの違いは無く派生技も同様。
- 龍尾閃(りゅうびせん)
- 前方に飛び掛って相手の攻撃を回避しつつ、すれ違いざまに龍巻閃のような横薙ぎの一閃で反撃する。
ゲーム版「十勇士陰謀編」で地味にさりげなく追加されているオリジナル技。
原作の、左之助との初戦で斬馬刀の最初の一撃を回避しつつ反撃した時の動きがこれに近い。
- 九頭龍閃(くずりゅうせん)
- 奥義・天翔龍閃伝授の過程で試験として誕生した技で、比古に曰く「俺が最も得意とする技」。 剣術における9種類の斬撃「唐竹・袈裟斬り・胴・右斬上・逆風・左斬上・逆胴・逆袈裟・刺突」を、神速を最大限に発動し9撃同時に撃ち込む。ただし逆刃刀でも致命傷となりうる最後の突きに関しては剣心は柄頭で行うことにより不殺を破らないよう徹底している。
作中ではそれぞれの攻撃が「壱・弐・参・肆・伍・陸・漆・捌・玖」と漢数字で現されているのが特徴。
乱撃術とはいえ、上述の龍巣閃との違いについてはそれぞれの攻撃が一撃必殺級の威力を備えている上、突進術でもある為事実上防御も回避も不可能とされる事である。その為、この技を破るには後述の奥義「天翔龍閃」で神速を超える斬撃を技の発生より先に撃ち込むしかない。
・・・とされるが、少なくとも剣心が使っている分には、敵の強さや戦闘能力を引き立てるために利用されている感が漂う。まるで体格が違う比古との打ち合いで負けたのは仕方ないにせよ(相手も同じ技だったし)、宗次郎との戦闘では技自体を回避されたり、続く縁との戦闘では攻撃を全て受け止められたばかりか技の発生よりも早く反撃を受け完全に破られているなど・・・。技を喰らった敵が平然と立ち上がってくるのも作中ではよくある事だが、これは技を喰らった敵の大半が「精神が肉体を凌駕しており、痛みを感じない状態」である事、剣心の体格が飛天御剣流継承者にしては小柄な事、及び技を操る剣心に殺意が無く、剣心が相手を殺傷するのではなく戦闘不能にする事に重点を置いている事も留意されるべきだろう。
ちなみに比古が使った際は鬼神の如き威力を発揮し、十本刀の巨人兵・不二を一撃で倒している。
作者・和月の構想では、当初はこの九頭龍閃が奥義となる予定だったらしい。『キネマ版』では実際、天翔龍閃を押しのけてこちらが奥義となっており、読みも『ここのつがしらのりゅうのひらめき』となっている(キネマ版の剣心は後述の天翔龍閃も奥義も習得済)。
『北海道編』でも、剣客兵器・凍倉白也との戦いで九頭龍閃を一発、さらにはそこから三連撃・二十七龍閃を撃ち込んだが、凍倉を戦闘不能にする代償に九頭龍閃を四度も繰り出し体力の限界に達した剣心は疲労で倒れてしまう。そして後に凍倉は本気ではなかった事が告げられ、敵の強さを引き立てる役割も健在だった。
実写映画版の場合も同じく、「伝説の最期編」にて奥義習得後に剣心が蒼紫と志々雄相手に使用した。原作通りの9つの斬撃を目にも止まらぬ瞬速で次々打ち込む怒涛の連撃技として再現されている。
- 天翔龍閃(あまかけるりゅうのひらめき)
- 飛天御剣流・奥義。牙突や二重の極みと並んで、子供時代真似をした必殺技の筆頭。
相手に先手を取られても尚攻撃が決まる超神速の抜刀術、という一見シンプルな技だが、その要諦は抜刀の瞬間、鞘を帯びている側の左足を踏み込む事にある。通常の抜刀術では誤って自らの脚を斬るのを避けるため右脚の踏み込みと同時に抜刀するのだが、この技はそこから更に一歩踏み込むことで抜刀速度を加速し、神速を超えた、超神速の抜刀術を実現している。
宗次郎に曰く、「『捨て身』や『死中に活を見出す』などの後ろ向きな心境が一点でも含まれていると絶対に成功しない」技であり、生死を分かつ極限状態での中となると、使用者の技に対する確たる自信が必要不可欠となる。
前述の通りの「隙を生じぬ二段構え」が示すとおり、最初の一撃を回避されても初撃で剣に空気が弾かれる事で真空の空間が出来上がり、そこへ戻ろうとする空気の流れに相手が引き寄せられる事で体の自由を奪われ、尚且つもう一歩の踏み込みまで加えたより強力な二撃目で無防備な相手を一刀両断する構成となっている。
この奥義は、師が放つ上記の九頭龍閃を弟子が天翔龍閃を放ち破ることで伝授を完了するため、継承が成功すれば師は「飛天御剣流を継承した弟子の最初の犠牲者」として命を落とす事になり、逆に失敗すれば弟子は九頭龍閃を喰らって死亡してしまう一子相伝ゆえの悲しい宿命が待っているのだが(作中でも比古清十郎はかつて先代・十二代目比古清十郎の命と引き換えに奥義を会得している)、剣心は逆刃刀で奥義を会得したことで飛天御剣流の師弟の運命すらも変えて見せた。
技名は飛天御剣流の技で唯一の訓読みだが、2012年に発表された特筆版(キネマ版)では『てんしょうりゅうせん』という読みになっており、奥義とは別の技(最速の抜刀術)として扱われている。斎藤一の牙突と相打ちになり、両者の刀が粉砕され勝負は引き分けた。
- 龍鳴閃(りゅうめいせん)
- 雪代縁との最終決戦で、剣心が使用した技。抜刀術の逆の動きを行く、所謂「神速の納刀術」。
逆手に構えた剣を相手とすれ違いざまに神速で鞘へ納刀し、その際に発生する鍔鳴りの超音波を聞かせる事で相手の聴覚を狂わせる。聴覚を鍛えている者であれば、少し離れた場所でも聴覚に異常を感じる程度の影響を受ける。
作中では狂径脈で体中の神経が鋭敏化した縁の聴覚のみならず、耳の奥の三半規管をも麻痺状態にした事で戦闘続行はおろか立ち上がる事さえ困難な状態へ持ち込んで見せた。
剣を使いながらも、剣で斬らずに相手へダメージを与える点に関しては、「剣と心を賭して、戦いの人生を完遂する」事を決めた剣心の剣に対する一つの答えと言えなくも無い。
ちなみに剣心自体には何の影響も無い辺り、飛天御剣流の神速とは 少なくとも音速を上回っているのではないかと推測される。音でダメージを与える関係上、魚沼宇水にもクリティカルヒットしそうである。
関連項目