【広島】猪を食べるならば深山へ【しゃぶしゃぶ】

十年以上前からずーっと気になっていたお店。
最近同名の店舗がもうひとつある事に気づいたが、前からマークしていたコチラにまずは伺った。
扉を開くと細い通路が現れ、奥にはカウンターとテーブル席が現れた。 オカミさんが顔を出し「予約の方?」と聞くのでそうでない旨を伝えると、
「ウチは猪料理の店ですが大丈夫ですか?」
と聞かれてもちろん猪を食べたいがために伺ったので「もちろんです!」と答えテーブルに。 店内の雰囲気は昭和のスナックである(居抜きなのだろうかシブい)。
牡丹鍋は予約制。 本日の目当てはそれでなくしゃぶしゃぶ、しかも特上の。
まず突き出しが出されたが、これも猪肉との事。 甘辛く煮つけられておりビールのアテに良い。
続いてカセットコンロとかつおだしの張られた鍋が運ばれてきていよいよしゃぶしゃぶへ。 薬味は刻みニラとほんのりした辛さの唐辛子、そしてニンニク。
運ばれてきたしゃぶしゃぶ皿を前に、しばし私は言葉を失った。 かつてこれほどまでに美しい猪肉を見た事があったであろうか。 こんなにブ厚い脂肪の層を見た事があっただろうか。
ひとひらつまみ上げ、おもむろに出汁の中へ浸してヒラヒラさせようとしたが、いかんせん鍋の出汁がグラグラたぎっているのが気になったので弱めて、静かに肉を浸そうとすると、
女将さんが現れてグイと火加減を強く戻した。
そこでその沸き立つ中へ肉を浸して軽く二三度ヒラヒラした所で引き上げて食べようとすると、
女将さんが現れて「もっとしゃぶしゃぶしてね」と言う。
半生で食べて何か問題でも起きたらアレだからね。 言われた通りしっかりしゃぶしゃぶして口に運んだ。
薬味もポン酢も使わずまず肉だけを口に入れたのだった。 アッサリした中に脂のまろやかな旨味がかすかにして、臭みは皆無。
続いてポン酢に浸して食べたら…このポン酢のまた旨い事! ポン酢だけ飲んでみても旨い。 そう女将さんに伝えると、自家製らしい。
薬味とポン酢を使って食べると、薬味の味が強すぎて肉の旨味が消えもったいない事がわかったので、以後ポン酢のみで一枚ずつ大切に肉をいただいた。
肉を食べ切った後にはどっさり野菜が運ばれてくる。
出汁の表面にキラキラ光る猪肉の油の玉。 つまり出汁には猪の旨味がたっぷり含まれているのだから、それで野菜を煮て喰えば旨い事は誰でも理解できるそしてその通り、これまで鍋の野菜をこれほどまでに旨いと思ったことがないくらい素晴らしい味だった。
これまでビールを一本冷酒を二本開けている。
野菜を食べ終わったらシメの雑炊となるが、この後まだ飲み歩くので炭水化物を入れたくない旨を伝えた所、スープにして飲ませてくれた。 煮詰めた出汁をポン酢で割って飲むのだ。
ここで残っていた薬味が大変役に立った。 スープとこれらの薬味はすこぶる相性が良いのだ。
大満足の上会計を済ませると、女将さんはカラフルな和紙で折られた入れ物にくるまれた楊枝を差し出してくれた。 私が無意識のうちに欲しがっていたのは、こんなホスピタリティなのである。