「どうぶつのタマタマ学」(その5)
丸山貴史(著),成島悦雄(監修)「進化のたまもの! どうぶつのタマタマ学」の5回目。
本ブログで同じ本の書評記事を5回も書くのははじめて。
まず同じ種であっても、タマタマの大きさには随分違いがあり、それは個体がとる繁殖戦略の違いと密接な関係がある。種間(inter-species)競争だけでなく、種内(intrra-specied)競争でも、多様な繁殖戦略があるわけだ。
例にあがっているのはホエザルとクワガタムシだが、大きな顎をもつクワガタのタマタマは小さく、小さい顎のものは大きい。昆虫の場合、繁殖能力を持つ、すなわち成虫になってからは脱皮はせず、成長もしないと思うが、成虫になって、自分の体が小さいことに気づいて精巣を発達させるのか、それとも体が大きくなりそうにないと判断したら、蛹のうちに栄養を精巣に注ぎこむのか、どっちだろう。
ヒトに当てはめた場合、「色男、金と力はなかりけり」という言葉があるが、イケメンがもてるのは当然として、そうでなくても金持ちであったり、力(この場合は精力か)があってそっちで女を喜ばせる、そういう戦略がとれるということかもしれない。
変わったところでは、カバのタマタマは数十cmも移動し、それによって競争者の攻撃からタマタマを守っているらしいという。
そして、一番の驚きは、タマタマの話ではない。偽タマタマである。
ブチハイエナの雌には、オスのチンチンそっくりの偽陰茎と、その後ろに偽陰嚢があるという。このメスのオス化は、ブチハイエナの群れは基本的にメスの階層社会で、テストステロンを多量に分泌し、結果的に偽性器をもつメスが上位になるからだとされている。
ところが、このメスのオス化のせいで、メスが出産に失敗し、母子ともども死に至ることがまれではないという。
5回にわたって「どうぶつのタマタマ学」をとりあげてきた。
どちらかというと雑な感じのする本だが、知らない話題が盛りだくさんである。これも、学校教育などでは、生殖器について話題にすることをはばかるからだろう。
大人の科学だったら生殖・タマタマについても、隠さず事実をきちんと伝えるのだろうか。
たとえば、ちょっと不思議に思ったのは、よく見かける体の各部と脳の対応を表す「ペンフィールドのマップ」である。
たしかに、そこには生殖器との対応も、つつましやかに書き込まれている。
しかし、セックスの話題には誰もが過敏に反応するのだから、もっと生殖に関する脳の領域は大きくても良さそうに思う。
そうはならないのは、思うに、このマップの生殖器はせいぜい勃起にかかる制御部位が示されているだけなのではないだろうか。
生殖は全身的な行為で、マップで大きな場所を占める視覚や触覚なども総動員である。つまり、より高次に統合された活動で、特定の部位に結びつけることはできないと理解すべきなのだろう。
この本で5回も書評記事を書いたけれど、読んだのは1日、それも通勤の往復と、昼休みに15分程度。それほど量がある本ではなかった。にもかかわらず5本も記事を書いたのは、はじめて聞いた話がいろいろあったからだろう。
動物たちの多様な生殖のありかた、そしてタマタマの話、楽しんで読める本である。
本ブログで同じ本の書評記事を5回も書くのははじめて。
4回書いたのは、稲垣栄洋「世界史を大きく動かした植物」がある。
まず同じ種であっても、タマタマの大きさには随分違いがあり、それは個体がとる繁殖戦略の違いと密接な関係がある。種間(inter-species)競争だけでなく、種内(intrra-specied)競争でも、多様な繁殖戦略があるわけだ。
例にあがっているのはホエザルとクワガタムシだが、大きな顎をもつクワガタのタマタマは小さく、小さい顎のものは大きい。昆虫の場合、繁殖能力を持つ、すなわち成虫になってからは脱皮はせず、成長もしないと思うが、成虫になって、自分の体が小さいことに気づいて精巣を発達させるのか、それとも体が大きくなりそうにないと判断したら、蛹のうちに栄養を精巣に注ぎこむのか、どっちだろう。
ヒトに当てはめた場合、「色男、金と力はなかりけり」という言葉があるが、イケメンがもてるのは当然として、そうでなくても金持ちであったり、力(この場合は精力か)があってそっちで女を喜ばせる、そういう戦略がとれるということかもしれない。
はじめに | ||
第1章 タマタマの基礎知識 | ||
1 タマタマとはなにか? | ||
耳慣れないタマタマという言葉を使うわけ/生殖器って下品なの?/交尾を隠す動物もいる?/外性器と内性器/収納できる外性器/哺乳類はみんな包茎 | ||
2 タマタマの機能 | ||
タマタマは精子をつくる/精子と精液/雄性ホルモンをつくり出す/睾丸と金玉/それは私のおいなりさんだ | ||
第2章 陰嚢の謎 | ||
1 陰嚢のある哺乳類 | ||
哺乳類の分類/陰嚢のない哺乳類もいる/もともとあったか、なかったか | ||
2 陰嚢の役割 | ||
鼠径管を通って陰嚢へ/陰嚢ができたのはなぜ?/陰嚢は冷えやすい/血管による熱交換/本当に高温に弱いのか?/陰嚢をめぐるさまざまな説 | ||
3 鳥のタマタマ | ||
鳥にもタマタマはある/チンチンを持つ鳥は少ない/卵とチンチン/鳥は陰嚢がなくても平気なの?/恐竜のタマタマ | ||
第3章 タマタマを切ろう | ||
1 動物の去勢 | ||
どうして切るの?/愛玩動物の去勢/食用動物の去勢/サラブレッドの去勢 | ||
2 ヒトの去勢 | ||
ヒトだって去勢する/去勢をして出世しよう!/宗教上の理由による去勢/美声を求めたカストラート/日本の去勢事情 | ||
第4章 食べものとしてのタマタマ | ||
1 海の動物のタマタマ | ||
わりとメジャーなマダラの白子/いろいろな魚の白子/卵巣か? 精巣か? ウニの生殖巣/そのほかの棘皮動物 | ||
2 陸の動物のタマタマ | ||
意外とレア? 哺乳類のタマタマ/ブタのタマタマは出まわりやすい?/ウシのタマタマは「山のカキ」/レアな哺乳類のタマタマ/おうちでも食べられる?/わりとレアなニワトリのタマタマ/鳥のタマタマは小さい? | ||
第5章 タマタマの雑学 | ||
1 タマタマの大きさくらべ | ||
最大のタマタマの持ち主は?/最小のタマタマの持ち主は?/タマタマの大きさと繁殖スタイル/乱婚のものはタマタマが大きい/アンテキヌスの過酷な繁殖行動/タマタマが大きいと偉い?/同じ種でも大きさが変わる | ||
2 いろいろな動物のタマタマ | ||
陰嚢をなくした哺乳類/半水中生活をするアザラシ上科/カバのタマタマは移動する/おしりの穴に収納したビーパー/男勝りなプチハイエナのメス/オスも袋を持つ有袋類/穴を掘る哺乳類/中途半端に陰嚢をなくした哺乳類/タヌキの金玉は畳8枚分?/オスの体全体が陰嚢になる動物/タマタマだけで繁殖するパロロワーム | ||
解説 | ||
参考文献 | ||
著者・監修者プロフィール |
そして、一番の驚きは、タマタマの話ではない。偽タマタマである。
ブチハイエナの雌には、オスのチンチンそっくりの偽陰茎と、その後ろに偽陰嚢があるという。このメスのオス化は、ブチハイエナの群れは基本的にメスの階層社会で、テストステロンを多量に分泌し、結果的に偽性器をもつメスが上位になるからだとされている。
なおオスはメスよりずっと体格が劣る。ブチハイエナは最強の肉食獣という見方もあるようだが、それはメスのことのようだ。
ところが、このメスのオス化のせいで、メスが出産に失敗し、母子ともども死に至ることがまれではないという。
ブチハイエナにとって出産は極めて危険だということはテレビのネイチャー番組で聞いたことがあるのだが、その理由は(私の聞きまちがいかもしれないが)、ブチハイエナはメスの骨盤が小さいとかなんとか、構造上の問題だと思っていた。
ただし、この偽陰茎のせいで、出産がとんでもなくリスキーになりました。 ブチハイエナは偽陰茎を通して赤ちゃんを生みますが、偽陰茎は細長いので、初めての出産は超難産になります。そのため初産では、赤ちゃんの60%、母親の8%以上が命を落とすそうです。ただし、一度出産を経験すると偽陰茎の一部が裂けるので、二度目以降はその裂け目から安全に出産できます。
出産のリスクが高まれば、子孫を残しにくくなります。にもかかわらず、このような進化が起きたということは、それを上まわるメリットがあったということ。それほど、ブチハイエナのメスにとって、ほかのメスからの攻撃をかわすことは重要なのでしょう。
出産のリスクが高まれば、子孫を残しにくくなります。にもかかわらず、このような進化が起きたということは、それを上まわるメリットがあったということ。それほど、ブチハイエナのメスにとって、ほかのメスからの攻撃をかわすことは重要なのでしょう。
5回にわたって「どうぶつのタマタマ学」をとりあげてきた。
どちらかというと雑な感じのする本だが、知らない話題が盛りだくさんである。これも、学校教育などでは、生殖器について話題にすることをはばかるからだろう。
大人の科学だったら生殖・タマタマについても、隠さず事実をきちんと伝えるのだろうか。
たとえば、ちょっと不思議に思ったのは、よく見かける体の各部と脳の対応を表す「ペンフィールドのマップ」である。
たしかに、そこには生殖器との対応も、つつましやかに書き込まれている。
しかし、セックスの話題には誰もが過敏に反応するのだから、もっと生殖に関する脳の領域は大きくても良さそうに思う。
右の図で、右側に描かれている男の股間から、巨大な陰茎が飛び出しても良いのではないか。
そうはならないのは、思うに、このマップの生殖器はせいぜい勃起にかかる制御部位が示されているだけなのではないだろうか。
生殖は全身的な行為で、マップで大きな場所を占める視覚や触覚なども総動員である。つまり、より高次に統合された活動で、特定の部位に結びつけることはできないと理解すべきなのだろう。
ファンクショナルMRIなどで、性行為中の脳の活動を調べた研究とかはないのだろうか。
この本で5回も書評記事を書いたけれど、読んだのは1日、それも通勤の往復と、昼休みに15分程度。それほど量がある本ではなかった。にもかかわらず5本も記事を書いたのは、はじめて聞いた話がいろいろあったからだろう。
動物たちの多様な生殖のありかた、そしてタマタマの話、楽しんで読める本である。