「どうする家康」

dousuru-ieyasu-title.jpg 昨日から今年の大河ドラマ「どうする家康」が始まった。

せっかくだから第1回はBS4Kで見ようと思ったら、相撲が長引いて18:05からの放送となった(BSPは18:00から)。
そんなことはどうでも良いとして、「今までの家康とは違った家康像」としきりに宣伝されていたが、松本潤の家康なら、当然、今までの家康像にはならないと予想していた。

dosuru-ieyasu-dollplay.jpg とはいうものの、昨日まで「戦国武将の虚像と実像」の書評記事を書いたところだが、この「どうする家康」は「戦国武将の虚像と虚像」、もう一つの虚像を描いていると思う。それが悪いと言うつもりはない。大河ドラマは所詮、ドラマであって、史実を忠実に追いかけるものではない、それはそれで良い。

dousuru-ieyasu-otakajo.jpg 今川人質時代の家康の賢いところとかはエピソードがいろいろ伝えられていて、それはもちろん後世の創作ということも多いと思うけれど、さすがにいい歳になって人形で遊ぶというのは突飛だろう。
そういう部分はともかく、第一回でいきなり桶狭間であるが、大高城への兵粮運び込みについては、家康自身のアイデアなのか、だれか側近の知恵者によるものかはわからないが、丸根砦への攻撃は陽動作戦で、そこへ織田方が集まった隙をねらって大高城へ兵粮を運び込んだという説が有力なようだ。
家康が「弱虫、泣き虫、鼻たれ小僧」だと描きたいにしても、強行突破を闇雲に行う家康もいかがなものか。もしダメ武将として描くなら、忠次あたりが、陽動作戦を提案して、弱虫家康がそれならガチンコの戦をしなくてよいと安堵してそれに乗るという設定のほうがもっともらしかったかもしれぬ。

正直に言って「どうする家康」には私はあまり期待していない。
というか松本潤が演じたら、狸親爺をやっても憎めない家康になってしまうんじゃないか、去年の北条義時のような魅力的な(ドラマ的に、人間的には友達になりたくない)人物にはならないのでは、と考えている。
そして徹底的に戦国とか武将の重さを感じさせないようにだろうか、タイトルバックも、いささか評判の悪かった「いだてん」を思わせる雰囲気のロゴに、CGアニメである。ドラマづくりとして一貫性はあるとは思うけど。

昨年の「鎌倉殿の13人」はおそらく大ヒットと言っていいのだろう、私もなかなかおもしろいドラマに仕上がっていたと思う。
その成功があるから、「どうする家康」の関係者は「鎌倉殿の13人」に比べられるのが辛いかもしれない。「鎌倉殿」には軽妙なシーンが散りばめられていたが、それは悲劇の中での笑いであった。家康の天下統一の過程には数多くの悲劇がある。家康は「どうする」。

NHKも「鎌倉殿」に続くヒットを狙ってか、番宣番組、関連番組を実にたくさん流して、PRに努めている。

この記事を用意するにあたって、歴代大河ドラマで家康を演じた俳優を調べて用意していたのだが、NHKがそれをまとめて放送していた。


このドラマでちょっと気になるのが信長の描き方。信長は岡田准一が演じるのだが、その岡田准一がキャスターを務めている「ザ・プロファイラー」という番組がある。その番組の先日の放送は、「織田信長 “戦国の革命児”の実像}
この番組では、
  • 楽市楽座などの経済政策は先行事例があり、それをまねてグレードアップしたもの、
  • 天下をとるために足利義昭を利用したのではなく、足利幕府再興が目的
    (たとえば「戦国武将 虚像と実像」(その2))
などの従来のイメージとは異なる信長像を提示していた。これらの指摘は今までもよく耳にしてきたのだが、桶狭間の勝利は奇襲などではなく、周到な計画と準備によるものというのは初耳だった。

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桶狭間の戦いは、それに先立って今川が鳴海城、大高城を抑えたときから始まる。
従来は、信長はこの二城に付け城(砦)を配し、その動きを監視するとともに、兵粮輸送を遮断しようとしたとされている。

しかし同番組では、鳴海城の付け城とされていた善照寺砦は、鳴海城は見通せる場所ではなく(千田先生が実地検分)、今川方の侵攻ルートを監視するものだった。

つまり信長は鳴海城、大高城の奪還ではなく、これを囲むことで今川義元が救援に来るように仕向けるとともに、その侵攻ルートを監視してチャンスがあれば今川軍を撃破するというプランを持っていたと推定している。

残念ながら、「どうする家康」(第一回)では、このあたりのことは全く描かれなかった。「どうする岡田信長」、あんたは知ってるやろなどと楽しみにしていたのだが。

野村萬斎の今川義元って、この1回だけで終わり?


ところで、桶狭間の戦いでは信長軍に対する今川軍は10倍の兵力といわれ、今川は駿遠三の太守と言われ、信長の尾張よりもずっと大きい領国を持つが、それは面積の話であり、経済力で見ると、尾張は豊かな土地であり、石高では駿遠三の三国を合わせた石高に匹敵するという。

(尾張:57万石、駿河:15万石、遠江:25.5万石、三河:29万石)

国の広さだけを見て、今川が圧倒的と考えがちだが、国力は互角だったのかもしれない。

dosuru-ieyasu-sena.jpg もう一つ気になるのが瀬名(築山殿)の描き方。番宣では、瀬名は家康の癒しになる女性として描かれるというのだけれど、なるほど第一回では、家康に思いを寄せ、さらに平穏な暮らしをのぞむ、愛らしく、賢い女性となっていた。

とはいうものの、いくら空想をたくましくするドラマであっても、瀬名と信康を殺さないわけにはゆかないだろう。どうやって殺すのだろうか。
信長には、この二人を罪なくして殺すことにメリットがあるとは思えない。であればどちらかが武田に通じていなければならないだろう。瀬名が家康の癒しというなら、とても瀬名にはできそうにない。ならば信康が武田に通じるしかないのでは。そして瀬名が同時に殺されるとしたら、瀬名が信康を庇うなかでということだろうか。

大河ドラマで築山殿が登場した作品はそう多くない(登場しててもチョイ役で印象にないのかも)。
Wikipediaで調べたところでは、『徳川家康』(1983)では池上季実子(これはなんとなく憶えがある)、『秀吉』(1996)の石川真希、『利家とまつ』(2002)のつちだりか(この2作では全く印象がない)、そして一番活躍したのは『おんな城主 直虎』(2017)の菜々緒。菜々緒の瀬名は、史実にはないと思うが、主人公直虎と親交があり、直虎を助けて活躍する役回り。

そもそも築山殿に関する史料は数少ないという。これもその存在をできるだけ消したかった家康を含む徳川幕府の意向なのではないだろうか。「どうする家康」のとおりの瀬名なら記録がもっと残っていて良い。織田に遠慮するのは信長在世のときであって、天下をとった徳川が遠慮する必要などないと思う。
それもあるし、瀬名が生きた時空が小さいから、なかなか歴史ドラマの流れに乗っかってこないから、菜々緒瀬名のような扱いをしない限り、大河ドラマでの登場が少なくなるのはしかたがない。


それにしても、築山殿の死んだ年(1579)には、家康はまだ36歳、これからのほうがドラマに占める割合はずっと多いと思う。「鎌倉殿」では頼朝ロスが話題になったが、それはドラマの中間点だった。今川義元はたった1回で死んでしまった。瀬名の命はいつまでもつんだろう、そしてその後のドラマでは家康の妻妾はどう扱われるんだろう。

実は小説より奇なり」。最新の歴史学の成果を取り入れたほうが、より驚くべきドラマができあがるかもしれない。

NHK大河ドラマで徳川家康を演じた人
尾上 菊蔵(6代目)『太閤記』1965( 3)
松山 政路『天と地と』1969( 7)
山村 聡『春の坂道』1971( 9)
寺尾 聰『国盗り物語』1973(11)
児玉 清『黄金の日日』1978(16)
フランキー堺『おんな太閤記』1981(19)
滝田 栄『徳川家康』1983(21)
津川 雅彦『独眼竜政宗』1987(25)
中村橋之助(3代目、8代目芝翫)『武田信玄』1988(26)
丹波 哲郎『春日局』1989(27)
郷 ひろみ『信長 KING OF ZIPANGU』1992(30)
小林 旭『琉球の風』1993(31)
西村 雅彦『秀吉』1996(35)
津川 雅彦 『葵 徳川三代』2000(39)
高嶋 政宏『利家とまつ ~加賀百万石物語~』2002(41)
北村 和夫『武蔵 MUSASHI』2003(42)
西田 敏行『功名が辻』2006(45)
坂本 恵介『風林火山』2007(46)
松方 弘樹『天地人』2009(48)
北大路欣也『江 ~姫たちの戦国~』2011(50)
寺尾 聰『軍師官兵衛』2014(53)
内野 聖陽『真田丸』2016(55)
阿部 サダヲ『おんな城主 直虎』2017(56)
風間 俊介『麒麟がくる』2020(59)
松本 潤『どうする家康』2023(62)
北大路欣也 <狂言回し>『青天を衝け』2021(60)

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