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2010/11/11

china:メラミン被害者代表への処罰

NHK:“メラミン被害”代表に有罪判決

この時期、嫌中的なエントリを書くとネトウヨどもが同類かと勘違いして寄ってくるリスクがあるのだが、それでもこのニュースにはある感慨を覚えざるを得ない。


北京市の裁判所は、10日、趙氏が違法な集会を主催し、公共の場所でスローガンを叫ぶなどしたことは、「騒ぎを起こし、社会に混乱を与えた」罪に当たるとして、懲役2年6か月の有罪判決を言い渡したということです。趙氏は、中国で2年前にメラミンが混入した乳製品をめぐる問題が明るみに出て以来、自分の息子も被害を受けたと訴えるとともに、被害者団体の代表として、インターネットなどを使って政府に十分な補償を求める活動を続けてきました。

中国共産党政府の性格をよく表しているニュースである。

メラミン事件は記憶に新しいところだが、日本の食品安全委員会のページをさしあたり参考にする。

中国において、メラミンが混入された粉ミルクが原因と思われる乳幼児の腎結石等の被害が生じている、との報道がなされています。  我が国及び諸外国においても、中国産の乳・乳製品及び食品添加物、またそれらを使用した食品からメラミンが検出されているほか、中国産の卵・卵製品からもメラミンの検出が報告されています。 <中略> 世界保健機関(WHO)のQ&Aでは、メラミンが牛乳に添加された理由を、「中国の事件が発生した地域では、増量の目的で生乳に水が加えられていた。水が加えられて希釈されると、たん白質含量は低くなる。牛乳のたん白質含量は、窒素含量を測定する方法で検査されるので、窒素含量の多いメラミンを添加すればたん白質含量を高く偽ることができる。」と解説しています。

なんで毒性のある合成樹脂をミルクに混ぜるのかというと、要するに食品の偽装の一つであり、日本でもミートホープという苫小牧の食肉会社がなんと段ボールをミンチ肉に混ぜて売ったり、それから古いところでは不凍液をワインに混ぜて貴腐ワインと称して売ったり、色々と似たような手口が後を絶たない。段ボール入りミンチ肉を売っていた会社の社長は、最後まで、「ウチの商品はよそより旨いし健康被害もない」と、ばれたらまずいことは知りながら罪の意識はなかった。

追記:失礼。段ボール入りミンチは中国の会社の肉まんでした。ミートホープは鶏とかブタとか中国産鴨肉とかを牛肉ミンチに混ぜたりしたのでした。その他、色々の問題につき「ミートホープ事件」参照。

問題はそのような事案が発生したときの政府・法制度の取り扱い方である。
日本であれば、当然のことながらメーカーは様々なサンクションを受けるし、業界全体も風評被害に苦しむことになる。未だに貴腐ワインというと、「不凍液入ってんじゃないの」というイメージだ。
しかし被害者が被害回復を求めることについては、世間の風が冷たいということはあるとしても、刑罰を科すということは日本ではまずない。世間を騒がせた罪というのも、似たような刑罰は日本にもあるが、被害回復を求める被害者が様々な方法で世論に問題提起するのに適用されることはない。

そして、抗議行動が行きすぎて傷害行為に及んだとしても、その刑事訴追が検察官の公訴権濫用に当たると判断されたことがあった。
 水俣病の被害者代表としてチッソとの直接交渉を行っていた川本さんが、交渉過程で傷害罪に問われ、起訴されたという事案で、控訴審裁判所(東京高判昭和52年6月14日PDF判決全文)が、一方では水俣病を引き起こしたチッソの責任とこれに対する刑事責任追及の鈍さ、また川本さんが自主交渉に至った背景・苦境・やむにやまれぬ状況、川本さんと小競り合いを起こしたチッソ社員への刑事訴追がないことなどを勘案すると、川本さんだけに刑事処罰を求めて公訴提起することは検察官の公訴権を濫用したものと解さざるを得ないと判断し、公訴棄却の自判をしたのである。

最高裁は、これに賛同しなかったが、著しく正義に反するとは言えないとして原判決を破棄しなかった。

当時は、司法権が冷戦の影響をもろにかぶって保守反動的な傾向を著しく示していて、先頃明らかになったところでも重要判決を下す前にアメリカ政府高官と最高裁の裁判官が協議するということがあったし、占領時代の影を引きずっていたといわざるを得ない時代だった。その中にあって、この川本事件の控訴審判決は、迅速な裁判を受ける権利に反するとして免訴を勝ち取った高田事件とならび、正義が実現された希有な例ということができる。

そういう例を思い出すと、メラニン被害者の代表が救済を求めて抗議行動することに刑事罰を持って対処する中国の現状は、なんというか、未成熟社会という感じがする。

しかし、高田事件や川本事件は日本でも希有な例で、それが一般的というわけではない。不公正な刑事訴追がなくなったから川本事件のようなケースが現れないだけかというと、むしろそうではないことを推認させる事案が、つい最近現れたばかりである。漁船事件とそのビデオ漏出事件ですっかり忘れ去られた感があるが、前田検事事件はまだ公判が始まってさえいない。

中共政府のやり口を嗤うのはたやすいことだが、ニッポン政府も一歩間違えれば同類に落ち込み易い存在であり、かつそれは自民党政権から今の民主党政権に至るまで変わっていないのである。

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コメント

>日本でもミートホープという苫小牧の食肉会社がなんと段ボールをミンチ肉に混ぜて売ったり、

ミートホープの牛肉偽装事件と中国の段ボール肉まんをごった混ぜにしてませんか?

投稿: しげる | 2010/11/11 15:15

これは酷い…。
ちゃんと訂正した上でミートホープに謝罪すべき。

投稿: tk | 2010/11/11 17:27

こわいこわい。
識者の顔して。こんな混同して…。
自身のブログを盛り上げる為に、こんな基本的な裏付けもとらずに、ありもしない罪を「盛る」なんてな。
ここにリンク張ってる方も、どうかと思うけど。
早く訂正&謝罪しないと、ここに台風が上陸する…かも?

投稿: 通りすがり | 2010/11/11 17:42

日本でもミートホープという… と書かれていますが、段ボール肉まんと混同なさっているのでは? 調べてみましたが、田中社長がその手があったか!と言ったという都市伝説みたいなものしか見つかりませんでした。まあ、悪臭を放つ肉とかサルモネラを検出しているのに出荷とか、どちらにしてもまともじゃないですが。

また、不凍液の問題も知らない世代には日本の会社が行ったようにも見えますが、オーストリアで行われて、世界中に輸出された中、日本にも輸入されていたと言う事かと…。国産ワインにも入っていましたが、不凍液を入れたのではなく水増しで入れたオーストリアワインが原因だったのが真相ですよね。

投稿: moni | 2010/11/11 17:47

たびたび失礼します。

管制官の言い間違い(←無意思行為)に対して刑事罰で臨む国に棲む我々としては,かの国よりはマシだとしても,あまり偉そうなことは言えないようにも思うのですが如何なものでしょうか。

投稿: 峰村健司 | 2010/11/11 22:54

うーん、それは同一次元の話ではないようにも思いますが。
それ自体説得力のある話でも、変なのと一緒に論じるとかえって逆効果になることもあると思います。

投稿: 町村 | 2010/11/11 23:21

ご指摘ありがとうございます。
ご指摘のとおり厳密には次元が違う話だと思います。ただ,何らかの法のありようを以て国の成熟度を考えるということであれば,成熟度という点ではもしかしたら50歩100歩なのではないかという気もしたもので,書きこませて頂いた次第です。他の国の人から見たら「よく言うよ」と思われやしないかな,と思いまして。法律の専門家からご覧になればそうはならないのでしょうが,法律素人である私から見ればそんな気がしました。

投稿: 峰村健司 | 2010/11/12 00:18

いきなりネトウヨという偏見に満ちた発言に目をむいたが
中国のニュースで公式には捏造とされた、真偽不明のダンボール肉まんの情報を日本企業のものと勘違いするとは。

偏見に満ちた人間というのは軽率だから偏見を持つのだろうな

投稿: 清流 | 2010/11/12 02:47

ブログ更新していらっしゃるのに、ご自身の間違いは振り返らないタイプ?

投稿: 神立 | 2010/11/12 11:31

 日本でも40年ほど前に、AF2 商品名トフロン と言う食品防腐剤の危険性を発表した郡司篤孝と言う人が 虚偽の事実を流布したとかで逮捕され、刑事裁判をされた事がありました。

 裁判中にAF2の超強力な催奇形性が国によっても確認された事で、幸いに無罪判決が得られましたが、この事実は、町村さんが罵倒しておられる中国と全く同じ事を「民主主義国家である」ニッポンもやっていた事や、司法の完全に法を無視した状況を見れば、ニポンも中国と全く同じか、それよりも悪質な国家だと言えるでしょう。(ついでにいえば、このAF2の大量摂取(当時の国民一人当たり1g)によりそれ以後のがん患者の増大が生じた、と言う学者も居るそうです。全国民が広島型原爆を被爆したと言えるほどだそうです。)

 なぜなら、中国では大きな汚職や脱税・職権乱用などをしたりすると、最悪死刑にして悪事を償わせていますが、日本では公人の犯した殆どの悪事は無罪放免、いやそれどころか焼け太りのようになっているのが常態だからであります。

 最後に、他人を批判するときは「わが身を振りなおす」事も大事であります。勘違いされると困りますので言わずもがなのことを書いておきますが、他人とは中国、わが身とはニポンのことで町村さんのことではありません。

投稿: 井上信三 | 2010/11/14 15:31

追記

>そういう例を思い出すと、メラニン被害者の代表が救済を求めて抗議行動することに刑事罰を持って対処する中国の現状は、なんというか、未成熟社会という感じがする。

 ↑のトフロンの件も層ですが、1958年に起きた「本州製紙公害事件」でも、何の落ち度もない被害者の漁師たちが、大企業の撒き散らした公害に、最小は法に従って「粛々と」解決しようとしていたが、大企業とつるんでいた国家権力がかきけつしようとしなかったために、漁師側が実力行使に出て、漁師側に重軽傷者約150名、逮捕者8名を出し、逮捕者は起訴された。

 これも、報道されている中国の現状と全く同じ。「未成熟社会」と中国を誹謗するのはお門違いではないでしょうか、町村さん。

投稿: 井上信三 | 2010/11/14 16:06

>井上信三 さん

>これも、報道されている中国の現状と全く同じ。「未成熟社会」と中国を誹謗するのはお門違いではないでしょうか、町村さん。

井上さんが紹介された例は40・50年前の日本ですよね。その当時の日本が同様だったからといって、現在の中国を批判したらいけないという理屈にはならないと思いますが。

投稿: Enzo Romeo | 2010/11/15 17:19

Enzo Romeo さん

 どこの国も一応の発展段階に達するまでは、発展することだけで精一杯で他の事を行う余裕がない事は、産業革命以降の歴史を見ても明らかです。

 日本も全く同じで、公害と言う言葉が世界共通語になるほどものすごい公害を垂れ流し、その過程で「無辜の」人たちがいわれのない被害をこうむり、しかも国家権力が公害発生企業の側に立って被害者を弾圧した事実も、現在の中国の状況と瓜二つ。決して好ましい事ではありませんが、経済発展の歴史的過程の中でそういう状況の発生が「不可避」であるらしい事を認めるのであれば、過去に同じ事を行ったことには頬かむりで、他国の現状をただ批判する事が果たして正しい事でしょうか。

投稿: 井上信三 | 2010/11/16 09:36

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