Book:ChatGPTの法律
今年読んだ15冊目はChatGPTの法律
Yahoo!ニュース経由の朝日新聞によると、弁護士ドットコムがChatGPTを使って法律相談を実施するそうだ。
弁護士ドットコムでは、これまで本物の弁護士を使って、一般からの法律相談に回答をさせるというフォーラムを運営してきて、その質問と回答例が100万件以上蓄積されている。これを人工知能に学ばせることにより、ChatGPTが日本の法律問題を質問すると過去の弁護士回答に準拠した回答が出てくるというわけだ。
ただし、日本の弁護士法は弁護士・弁護士法人以外の法律相談など法律事務を有償で行うことを禁止しているので、当面無料とのこと。また法律は変化するので、古い法律を前提とした回答の通用力にも疑問は残る。例えば100万件の大多数は、瑕疵担保とか時効中断とか法定利率が5%とか言っているに違いないし、錯誤は無効とかも言っているに違いない。そういった改正前の回答を自動的にバージョンアップする技術も構築してくれると、これはこれで凄いことになりそうである。
小向太郎先生の定番の教科書『情報法入門〔第6版〕』を頂いたので、ご紹介する。
小向先生にもずいぶん長いことお世話になっているが、本書も版を重ねること第6版で、初版が2008年であるから2〜3年に一回改版されていることになる。
岡山大学で行われた6歳未満の男の子(ドナー)の肺の1歳の女の子(レシピエント)への移植手術を、TBSから請け負った制作会社が5ヶ月にわたって密着取材し、番組中でドナー遺族に宛てた感謝状の内容が映されたり、移植される肺がモザイク無しで映されたり、執刀医が肺について「小さいな」「目論見どおり」「軽くていい肺」などと発言したのが放映されたことについて、ドナー遺族の精神的苦痛を生じさせた不法行為に当たるとして、移植コーディネータの法人、制作会社、テレビ局、執刀医とその使用者たる岡山大学に対して損害賠償を求めた事例。移植コーディネータ法人についてはドナー遺族との間の準委任契約不履行と構成されている。
いつも刺激的な論調で注目を集めている山本龍彦先生の論文が、最新のKDDI論文誌に載っていた。
題して「思想の自由市場の落日」ということで、憲法学のパラダイムシフトというのか、地盤崩壊というのかを予感させるような内容であった。憲法学者の面目躍如というべきかもしれない。
内容をかいつまんで紹介すると、人々の注意を引きつけるという性質が交換価値を持つ経済構造(アテンション・エコノミー)がネット時代とプラットフォーム全盛期に増幅するとともに、AI技術によるプロファイルが人の心理状態に立ち入って深化していくと、人の注意を強制的に奪うことにも繋がり、思想の自由市場の前提となる思想内容の競争や対抗言論による吟味の余地をなくしてしまい、「自由放任が未だに尊重されている唯一の領域」にも国家が何らかの介入を必要とするという考え方が、あのアメリカでも、強くなっているというのである。
「終わりに」において山本先生は、国家の関与の在り方についてプラットフォーム間の競争を維持することやプラットフォーム内にある思想のサブ市場の健全性を維持する仕組みを構築すること、選挙時におけるマイクロターゲティングの規制などが考えられるとの試論を提示されている。
わいせつ作品上映で精神的苦痛、学校法人に賠償命令 ヌード美術史講座 東京地裁
「京都造形芸術大学(現京都芸術大学) 芸術学舎」による表記の公開講座を受講した女性が、わいせつな動画や絵画を見させられて精神的苦痛を受けたとして30万円の賠償請求認容判決を受けたようだ。
もっとも、この見出しから一般的に受ける感じは記事を読むとだいぶ中和される。
発信者情報開示請求に関する研究会の最終取りまとめが公開され、これに対するパブリックコメントが12月4日締め切りで募集されていたので、今日の午後を費やして書いてみた。
なお、対象となる最終とりまとめは、こちらにある。
ファイルも貼っておこう。
ダウンロード - e69c80e7b582e381a8e3828ae381bee381a8e38281e6a188.pdf
<要旨>
現在の二段階・三段階の裁判手続は被害者にもプロバイダにも不相当な負担となっており、一刻も早く是正する必要がある。 発信者情報の範囲は、省令で決めるにしても、限定列挙ではなく例示とすべきである。基本的に発信者の特定につながるものはすべて開示対象とする必要がある。
またログイン時情報も発信者の特定に資する情報として当然開示対象とすべきである。開示された情報が示す者が真の発信者かどうかは本案裁判で明らかにすることであって、裁判提起段階で確定する必要はない。
新たな裁判手続の創設は基本的に賛成だが、まだ厳密さを欠いた内容にとどまっている。現在の開示請求権に「加えて」非訟手続を創設するとある割には、非訟手続と訴訟手続は同一の権利実現の手続で、並行しては行使できないものとなりそうだが、それ以外の制度も考えられる。
提案されたフローには、まずCPにAPを特定できる情報を開示する命令が欠けているが、それではAPに裁判所が開示命令を出せないことになるので、APの情報を開示させる必要がある。それを被害者に秘密にする必要はない。むしろ、被害者と裁判所の調査官ないし専門委員がCPとともにAPを特定する作業をする必要もある。なお、CPへの命令を強制する手段が必要である。
発信者の手続保障は、現行法の意見照会を非訟手続では裁判所がAPに命じることにし、発信者の書面提出や意見陳述も発信者の責任において認めるべきである。なお被害者に立ち会わせない発信者の意見陳述も非訟では認められてよい。
開示要件は、CPへの開示命令は申立てだけで出せるようにすべきだし、APへの開示命令も被害者が本来の発信者に対する訴訟で要求される以上の要件事実を主張立証しなければならないというのは背理であり、権利侵害の「明白性」は緩和すべきである。
海外事業者への法執行や複数CP・APの関与の場合の仕組みなども検討した上で立法されることを望む。