僕たちのパラドクス2 -Acacia1429-
あらすじ
普通の男子高校生・高崎青葉は、ある日学校の帰り道で謎の男たちに襲撃される。逃げまどう彼を救ったのは、霧島榛名と名乗る日本刀をさげた少女。青葉は榛名から、時空監査法院があなたの命を狙っていると告げられるが……。前作では主人公たちの敵に回った彼女が、なぜ青葉の前にあらわれるのか? 今回の物語は、未来ではなく過去、中世フランスのある人物に関わる事件。パラドクスに満ちた続編がいよいよ登場します!!
レビュー
一巻よりかなり面白くなって続編登場。
いやーしかし榛名の乳は素晴らしい。
挿絵の榛名の乳がことさらに強調されてるのは気のせいだろうか。
第6回富士見ヤングミステリー大賞<大賞>の第2作。
続編出るとは思ってなかったので驚き。
タイムパラドクスをこういう風に使ってきたかという続編。
完全に「ミステリー」からは逸脱してしまったが、どっこい良い出来に仕上がっている。
一巻でのハルナとアオバのラストを頭に残したまま二巻読むと混乱する。
今回は確率的に同時並立する世界、分岐した歴史軸の榛名と青葉の物語。
ぱらっぱーな(?)ハルナではなく、ツンデレが可愛い榛名がメインヒロイン。
歴史干渉を軸に、複数の世界の思惑が入り乱れ混迷を極める。
時空間を超えて隠された謎という点ではミステリーと呼んでもいいのか?
400P超と多めのページ数だが途中で空洞化することなくきっちり中身が詰まっている。
ちょっとページが嵩みすぎな気もするが…。
世界史を勉強してた人はより楽しめるネタかもしれない。日本史専攻だった私は予備知識による相乗効果は得られず。
二巻でありえないくらいに話を広げてきた。
もうそれはそれは大きな風呂敷が展開。タイムパラドクス+世界の歴史=無限の可能性。
なにげなく一巻の内容がかなり重要な部分を占めている。
二巻読了後に一巻をパラパラ読み返してみたら疑問が色々と氷塊していった。
一巻の巻末にある年表の謎が二巻読むとほぼ全部わかる建て付け。
一巻の内容忘れてると二巻読む上でもきつい。
でも扱ってる内容が細かい上にややこしいのでどうしても頭から抜けてしまう…。
どうしたものか。
全体感としては見事に構成されているとも言える。
話が入り組んできたので読者が混乱しないように続編を書いてくれたらと思う。
一巻のレビューではそれなりに叩いたけど、二巻読んで評価が変わった。
掘り出し物を見つけたような気分。
続編は積極的に読むことにする。
ただ、早く次が出てくれないと内容忘れてしまうので刊行ペースを上げて頂きたい。
GOSICK Ⅵ(6) -ゴシック・仮面舞踏会の夜-
あらすじ
ベルゼブブの頭蓋と呼ばれる修道院から辛くもヴィクトリカと脱出することに成功した一弥。ようやく、乗り込んだ列車「オールド・マスカレード号」の車中で殺人事件が起こった。乗り合わせた乗客たちは、誰もが自らの存在をねじ曲げるように語る。まるで、仮面を被ったかのように……。ブロワ警部の前で繰り広げられる数々の証言に隠された真実を、ヴィクトリカの知恵の泉が解き明かす! そして、さらに明らかになる歴史の闇に隠された先の大戦の謎とは!?
レビュー
本格ミステリー。
帯に「furi! furi!」と戯けた文言が踊ってはいるが、どっこい中身はきちっとミステリー。
これまで以上にミステリー分への配分が大きい。
今回は一弥とヴィクトリカの周りに起こる事件というより、事件の周りに二人が居た、といったスタンス。
事件が起こる現場に唐突に紛れ込んでしまった名探偵とその助手、といった具合。
シチュエーション自体はよくあるミステリー小説。
しかしそこは桜庭先生。抜群の安定感を持ってしてラノベとミステリーを上手に共存させている。
重すぎず、軽すぎず。
ラノベでありつつ、ミステリー小説でもある。
ゴシックシリーズは最近ほのぼの短編集ばかりだったので、こういった重い本編も良いなと思う。
現在ラノベでこの作品ほどミステリーしているのは無いだろう。
ミステリー文庫最後の砦はいつまで保つだろうか。
今回の事件で、ヴィクトリカは「人を愛する」ということの断片を掴んだ。
以降、その気持ちがどう育っていくのかも見所の一つ。
舞台は巡りに巡って、再び聖マルグリット学園へ。
ゴシック本来の流れに戻る次回作に期待は募る。
ちなみに(下手したら本編以上に)楽しいあとがきは、今回も健在。
こちらもお楽しみに。
遠く6マイルの彼女
あらすじ
6年前バイク事故で亡くした、兄・究への劣等感を抱きながら高校生活を送る研。そんな彼の元に、兄の元彼女である京子が教師として現れる。研に、兄の面影を重ねる京子。6年前から止まったままの彼女の時間を動かしたいと思う研だが……。研と京子の間にある、究という存在。不器用な二人の恋の行方は……? 甘酸っぱい初恋の思い出。叶った人も叶わなかった人も、あの頃、を思い出して読んでみて欲しい。ビタースィートな初恋が心に沁みる、青春小説!
レビュー
“まったく恋はすべてを変える”
「描きかけのラブレター」のタッグが贈る等身大ラブストーリー第二弾。
富士見「LOVE」文庫を象徴するような一作。
恋をしてるぞー!と全力で語っている。
今回は6才年上のお姉さんへの恋。
ラブラブいちゃいちゃではなく、恋に悩み、苦しみ、一生懸命相手を振り向かせようと頑張る青少年の物語。
人を好きになることで世界の見方が良い方向も変わっていく姿は、前向きで見ていて気持ちいい。
直情的な高校生の手に余る「わかりにくい女の人」
一歩進んでしばらく停滞。
一歩進んだら二歩後退。
上手くいかない恋路への研の葛藤にも揺さぶられる。
人を好きになることの素晴らしさと辛さ。
恋をしているとき、好きな相手と居るとき、ちょっとしたことで喜んだり落ち込んだりするあの感覚がフラッシュバックする。
沁みてくる、心にじんわりと沁みいってくる。
ヤマグチ作品は忘れて久しいこういった感情を蘇らせてくれる。
背景設定も凝っていて物語を見事に引き立てている。
亡き人である兄の影の使い方が実に絶妙。
「6」という数字は実はこの物語のキーワードだったりする。何気ないギミックだが意識して物語を追うと面白い。
(ネタバレな内容では無いのでご安心を。)
「描きかけのラブレター」とは全く違う話だがラブストーリーとしての出来は一級品。
あとは好みの問題。
ちなみに私は「描きかけのラブレター」の方が好みだったりする。
しかし繰り返しになるがこれは好みの問題。
どちらも是非読んで貰いたい本であることに違いはない。
僕たちのパラドクス-Acacia2279-
あらすじ
高校生の高崎青葉は、学校の帰り道で恐るべき光景を目撃した。怪しげな倉庫の中で、少女が男を日本刀でまっぷたつに切り裂いたのだ。その少女ハルナは、青葉に「自分は未来からやってきた」と告げた──。タイムマシンの発明によって時空犯罪が生まれた未来。ハルナは時空犯罪捜査のために現代に現れたのだという。だが、時空犯罪者を処刑した直後、彼女の帰るべき未来が消失してしまう。青葉は、ハルナとともにその謎を探りはじめるが……。
レビュー
良作だけど、ミステリーでは・・・無いような。
第6回富士見ヤングミステリー大賞<大賞>受賞作。
タイトル通りタイムパラドクスをテーマにした作品。
時間モノはありがちなようでラノベでは結構少ない。そして少数精鋭な名作揃い。
高畑京一郎先生の「タイムリープ」は本当に凄かった。
ミステリー文庫から出版されたタイムパラドクスもの。しかも大賞。どの程度のミステリーが詰まっているのか非常に楽しみであった。
技術として時間移動が確立された時代の時間に関する理論等はよく考えられていて面白い。
特に未来への影響度を表すというガーランド指数なんて概念が印象的だった。
大きなどんでん返しもしっかり用意されていて、「時間」という扱いにくいネタを上手に使っている。
王道というかベタな部分もあるがそれも魅力の一つだろう。
しかしアクションと恋愛が前面に出てきすぎ。パラドクスはどこへ行った?という疑問も発生する内容でもある。
「麗しのシャーロットに捧ぐ」ではなく、この作品が大賞に選ばれたということが現在の富士見ミステリー文庫のスタンスを如実に表している。
つまり ミステリー<<<L・O・V・E!
ミステリーやる気無いんだな…と思わせるには十分。
タイムパラドクスというネタは上手く使えばミステリーになりうる。というかミステリー向きといえるかも知れない。
でも恋愛系、アクション系に傾倒気味な本作をミステリーと言い切ることは私には出来ない。
確かに完成度は高い。取っつきやすさを重視した総合的な評価としての大賞なのかもしれない。
でもそれだと富士見ファンタジアとの違いがどんどん無くなっていく訳で…。
決して「僕たちのパラドクス」が駄作だと言っている訳ではない。むしろ良作だと思う。
ただ、あまりに<佳作>のシャーロットがミステリーしていたので比較してしまうのだ。
だだの新刊としてなら良かったのだが、『ミステリー大賞』なんていう大仰な修飾語が付いていた為に色々肩すかし。
賞の名前変えた方が良い。
なにやら編集部への文句ばかりになってしまったが許して欲しい。
ヴァーテックテイルズ 麗しのシャーロットに捧ぐ
あらすじ
都市部では近代化が進んでいるが、辺境ではいまだに前近代的な社会が残っている時代。人形作家フレデリックの屋敷でメイドとして働くシャーロットは、5年も住み込んでいながら、フレデリックの妻ミリアムを一度も見たことがなかった。ミリアムの正体は人形なのでは? 疑いだしたシャーロットは、真実を確かめるため、屋敷に出入りする墓守の家を訪ねるが……。これはそんな時代に存在した、ひとつの屋敷で起きる三つの時代にまたがる愛と狂気の物語!
レビュー
これは凄い!正統派ヤングミステリー!!
第6回富士見ヤングミステリー大賞<佳作>受賞作。
ミステリーという看板に偽り無し!
こういう作品を待っていた。
後半までイラストが山本ケイジ先生だと気づかなかったことが不覚…。
序盤が重めだが一端エンジンが掛かってくるとドンドン引き込まれる。
ライトノベルお得意のちょっとしたファンタジー要素をアクセントに、正統・本格なミステリーが展開される。
富士見ミステリーのことだからそういった架空の要素で謎をうやむやにしてくるのかと思いきや、物語の道筋はしっかりと通っていた。
一つの屋敷で起こる三つの時代にまたがる事件。
それぞれの時代の登場人物の愛や狂気が絡み合い、物語はより謎めいていく。
薄暗い場所で一人黙々と読むことをオススメする。
蛍光灯の光ではなく、白熱灯の光が似合う。読む場所の雰囲気もこだわりたい一品。
読み進めれば進めるほど謎は深みを増し、狂気は加速していく。
頭を働かせながら読んでいかないと楽しめないかもしれない。少し茫漠としている箇所もある。
でもミステリーってそういうものだ。全てを解りやすく解説されても面白くない。
ラストの謎明かしでの狂気の結末には驚きと寒気を覚える。
濃厚で重厚。それ故に読み終えたあとの満足感もひとしお。
名作です、この作品は。
これが佳作で「僕たちのパラドクス」が大賞であることがよくわからない。
本格ミステリーだからこそ辛口評価を受けたと編集部後記に書いてあるが、それで佳作…本末転倒じゃないか?
審査員はミステリーに厳しい人達だったから今作が落とされたみたいにも受け取れる。
大賞作品が辛口評価されなかったのはラノベに厳しい人達がいなかったという裏返しの意味でもとれる…。
穿った見方が過ぎるとも思うが、そんな風に思ってしまうほど<佳作>であることが微妙に納得できない。
そういえばミステリー大賞って新人賞のはず・・・。
凄い新人さんが出てきたものだ。是非ヴァーテックテイルズシリーズで続編が欲しい。