ロゴージン露副首相のセルビア訪問とバルカンの今後
Dobry vecer!
エリシュカです。
ロシアのロゴージン副首相がセルビアを訪問しました。
行く前の記事では経済関係の議題が中心と報道されていたのですが、やはり軍事分野での関係強化が目的だったようです。
この件についての記事を見る限りロゴージンの主な目的はS-300などの兵器・兵器システム売り込みで、ここのところセルビアがしきりに気にかけているクロアチアの軍備増強の懸案を煽るような発言が目立ちました。
クロアチアはここのところMRLS導入やノルウェーとNASAMS導入の交渉に入るなど軍備の更新に活発な動きを見せています。
ロゴージンはこれに関して、ロシアをバックにしたセルビアの軍備増強はバルカン域内の勢力均衡に資すると強調しています。
この件でセルビア側の最大のネックは財政難です。ただこのあたりは、セルビアがロシアに取って地政学的に重要なものであるならばなんとかするのではないかと思われます。
総じて、現在のバルカンの安定はセルビアの現政権の存在にかかっているといってもいいような状況です。
セルビアのヴチッチ首相は、ボスニアで憲法違反と判断されたスルプスカ共和国の建国記念式典に参加し物議を醸しました。
スルプスカ共和国のドディク大統領は、ボスニアは国家として維持できる代物ではないと強調し独立への意欲と住民投票の実施に向けて動いています。
しかし前述のヴチッチ首相は式典において無難な発言を行い、またニコリッチ大統領もスルプスカ共和国の住民投票は支持しないと発言しています。
また先日、コソヴォでセルビア人の自治体設置とモンテネグロとの国境画定に抗議する大規模デモがありましたがその際デモ隊がセルビア正教会の建物をトイレとして使用していたことが報道され物議を醸しました。
この件でセルビアのダチッチ外相は、欧州で教会をトイレとして使用するのはコソヴォだけだと非難しつつも、この件を外交問題に発展させる気はないようです。そもそも一連のコソヴォでの抗議デモでセルビア人自治体設置が遅々として進まないことに不満を表明しつつも強硬な措置を取ることには言及していません。
スルプスカ共和国の独立に向けた住民投票への不支持表明、コソヴォ・アルバニア・クロアチアと良くないながらも先鋭的な関係にならないよう配慮、親露姿勢を見せながらも過度に露に寄り過ぎないセルビアの現政権の存在が今のところバルカン安定の要になっている観があります。
しかし、今後このまま安定状態が続くかどうかとなると、まだ不安は残っています。
セルビア国民(この場合セルビア民族)にはバルカン人特有の自分だけが最悪の被害者という意識があり、NATOに対する猛烈な被害者意識が蔓延している状態であり、今後EUの経済的神通力の弱まりとセルビア国内の政局変化如何では事態は動く可能性があります。
いまのところセルビアに過激民族主義を標榜しかつ政権担当能力のあるような政党がいないのでそう簡単にはいかないかもしれませんが将来について確定的には言うことはできません。
あとは、やはりロシアの今後の出方です。
セルビア人に対するロシアの影響力はユーゴ崩壊以降も強いものがあります。
クロアチア・ボスニア内戦ではロシアから「義勇兵」が参加していましたし、99年のNATO空爆で一向に音を上げる気配のなかったミロシェヴィッチ政権が事実上の降伏に動いたのは、ロシアからの強い働きかけが最も重要な要因であったという分析は多くなされています。
ミロシェヴィッチ退陣後のセルビアもロシアとの関係は維持していました。
今回、スルプスカ共和国のドディク大統領は住民投票にはロシアの支援が必要だと述べています。
NATOに対する被害者意識もあり、セルビア人の親露意識は強いものがあります。
最近の世論調査では多くのセルビア人はロシアに好意を持ちつつもEU志向という結果が出ましたが、それもEUの経済力の神通力が健在である間のみでしょう。
上に書いたように、現在のバルカンの安定のために現セルビア政権の存在が非常に重要な要となっています。
これが崩れれば、バルカンの情勢は一気に不安定化する恐れがあります。
セルビアのロシアへのプレゼンスが強まれば、コソヴォに駐留しているNATOのKFORは撤退できなくなるでしょう。またNATOの対露対策の一環としてルーマニアやブルガリアへのプレゼンスを強化しています。
しかし、肝心のバルカン半島西部の紛争については、西側に本腰を据えて取り組む意思があるかについては疑問が残ります。
米国も、墺など西側諸国もセルビアの繋ぎとめに努めていますが、米の駐セルビア大使は、米国の抱える重要事項の中でバルカン問題は優先度が低いと述べています。
西側主要国のバルカン管理の持続は必要不可欠です。 不安定化して有事になりかけた場合、頭に血が上ったバルカン人には通常の抑止が効かないのです。99年や1913年のブルガリアが好例です。バルカンは注意深く平時より管理していかねばならない地域なのです。
さて、セルビアのサンジャク地方で自治権付与を求める大規模デモが行われました。
記事は写真しか乗っていないのですが、民主行動党の旗とスレイマン・ウグリャニンがメインに映っているあたり、もう一人のサンジャクの政治指導者で現政権内にいるラシム・リャーイッチとの権力闘争の側面があるのかもしれません。
この点については今後書いていきます。
今回はこんなところでしょうか。
それでは、Na shledanou!
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