Marketing HPV Vaccine: Implications for Adolescent Health and Medical Professionalism
By Sheila M. Rothman and David J Rothman. JAMA. 2009; 302(7): 781-786HPVワクチンのマーケティング:青少年の健康とプロフェッショナリズムに対して何を示唆しているのか。
JAMAという、アメリカ最大の医師会、日本で言うと、日本医師会に相当するのでしょうか。そこから刊行されている医学雑誌(国際学会誌でもある)からの紹介です。
著者は、ニューヨークの米国アイビーリーグの一つである、コロンビア大学公衆衛生学の社会医科学専攻のS. ロースマンと、医学部社会医学専攻のD. ロースマン(二人は夫婦の学者かもしれません)です。文章もかなりセンセーショナルで面白いので、拙い概訳を自分勝手にしてしまいます。
この論文は、製薬会社主導の新薬普及キャンペーンに対する痛烈な批判ではあるのですが、自分的には資本主義下で、利潤追求を目的とする私企業の行動としてみると、メルク社がしていることは当然のことであって、非難するには値しないと思うのです。
そこで、日本の皆さんに、医療を製造業やサービス業のように産業の一つとして位置づけているアメリカ合衆国とはどのような国であるのか、日本は今までのように、医療についてもアメリカの後追いをしたりして良いのかどうか、ご自分の良識でもって考えて頂く参考になればと思います。
青年期の健康増進において、予防接種は往々にして、対費用効果の良い対策である。それは青年自身の健康を向上させるだけではなく、成人期の健康維持、生活の質(quality of life)の向上にも繋がる。メルク社の新薬ガーダシル、4価のHPV ワクチンはそのような目標を達成するのかもしれない。正しく用いれば、青年の健康と公衆衛生に貢献するのかもしれない。にもかかわらず、重大かつ未解決な疑問が残る。この論文はこれらの疑問について問いかける。
1. このワクチンを第一義的に、抗癌ワクチンとして市場に売り出すという製造者である製薬会社の決定は何をもたらすのか?
2. ワクチンは、それによって最も恩恵を受けるであろう、ハイリスクの青年層に照準を当てているか?
3. 製薬会社から補助金を受けている医師会や学会は、薬の用法、適用について、公正なバランスの取れた教材の供給、用法の推薦を行っているか?
4. 医師会や学会は、製薬会社の宣伝戦略が、臨床の場での用法推奨を歪めたりしないか確認したか?
5. 青年へのワクチン接種へのポリシーの形成や導入は、科学的知見に基づいているのか?
HPVワクチンはアメリカ食品医薬品局(US Food and Drug Administration: FDA) によって2006年に承認され、2008年の世界市場での売り上げは、14億ドルにのぼった。
これまでワクチンは、それが予防する、はしかや水ぼうそうのように、病気によって命名、定義されるか、ソーク・ワクチン、サビン・ワクチンのように、その開発者の名がつけられて来た。
HPVワクチンはこれらとは異なる。商品名であるガーダシルがその名であり、ワクチンの主作用は、HPV感染症や性病に対するのではなくて、子宮頚癌を防ぐ、「ガードする」と銘打ったのである。商品の宣伝は、瑕疵(かし)なく、実にスムースに進んだ。
2006年、ガーダシルは、あたかも希薄な空気のような、ほとんど無から、その市場を作りだ出したことにより、製薬業界の“ブランド・オブ・ザ・イヤー”に輝く。
製薬会社の宣伝、「子宮頚癌の予防」という謳い文句は、HPVワクチンが性病の予防薬であることに対して、思春期の子供の親や社会一般が受け止めるであろう戸惑いを、うまく回避することができた。同時にワクチンのリスクに敏感な、公衆衛生に携わるの役人の目をもバイパスした。
すると次に、製薬会社は、利潤追求団体であるから当然、できる限り多くの青少年にワクチンを接種させようと欲した。しかしこの欲求は、対費用効果にも、公平なワクチンの供給にも結びつかなかった。
ワクチンの宣伝キャンペーンは、子宮頚癌による死亡率の高い地域の人々、南部の黒人、テキサス・メキシコの国境領域のラテン系の人々、アパラチアン山脈領域の白人人口に対してではなく、すべての少女は等しく、将来子宮頚癌を起こす感染症の危険にさらされているとして行われた。
医師がワクチンをすすめることは、ワクチンのプロモーションに対する一般の受容に重要であると認識された。同時に、医師によるHPVワクチンのすすめは、医師会・学会が後押しするものでもあった。メルク社は医師会・学会を通じ、青年と女性の健康、癌科学の分野に卒後教育への補助金と称して、かなりの金額を供給していた。この資金援助は、多くの医師会・学会がワクチン接種運動の強化を担う(になう)ことを促した。
<つづく>
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