昨日からの続きです。
1. ワクチンの新規性
2. HPV感染の本質は性病
3. HPVは通常の学校生活環境では感染しない
4. HPVワクチンの製造業者が義務化の立法にかかわっていると言う事実に対する戸惑い: 立法に携わる人に義務化を躊躇させた4番目のファクターは、ワクチンの製造者、メルク社が立法に関わっているという驚愕でした。メルク社は多方面に渡り、義務化の法制化を推し進める、宣伝・キャンペーンを行って来ました。メルク社の営業マン・代表者はワクチン普及のために、立法家に会い、政治コンサルタントを雇いました。また、“Woman in Government”という国立の女性の立法家の組織に、無制限の補助金を拠出したのです。HPVワクチン接種は必要であるという法案の多くは、この組織のメンバーによって導入されました。メルク社のロビー活動は、当初、義務化に向けてのかなめでしたが、立法家の多くは、この同社の努力を裏目に出た、むしろ障害であると、ネガティブにとらえるようになりました。メディアが同社のアグレッシブな宣伝活動に注目する報道をすると、ワクチン義務化という政策決定は、新薬を利用した営利目的なのではないかという疑いが起こったのです。そのためワクチン導入に支持的であった人々は引いてしまいました。義務化の法案はメルク社の金銭的利益のための動きだという風評は、HPVワクチンは何のために接種すべきなのかという、もともとの基本的な議論を深めることなく、議論そのものを闇に葬ってしまいました。
5. ワクチンの価格: 連邦政府の推奨どおり、3回接種のフル・コースだと320ドル(1ドル=80円では、2万5千600円、日本での承認時5万円だったんですが、今、円高で半額近くのはずです。どうなったんでしょうね) というガーダシルは、他の接種が必要なワクチンに比べて高価です。連邦政府は“Vaccine for Children (子供のためのワクチン)”というプログラムで、18歳を上限として接種の必要な子供のワクチンのコストをカバーしています。そしてほとんどの健康保険会社は速やかにHPVワクチンの保険適用を進めました。それでも、家庭によってはワクチンが買えるだけのお金が無く、HPVワクチン義務化はメディケイドや公費予算に大きく食い込むいう懸念があがりました。これに対し、財政が確保されるまでは、接種率を徐々に上げて行くのが良いという意見もあれば、対費用効果に疑問を示す意見もありました。価格に対する懸念は、ほかの要因より影響が低いという見方もありますが、しかしこれは、カリフォルニア州では大きな問題でした(カリフォルニアはこのレポートが出た時点では「予算の危機状態」でしたが、現在は一層悪化して「破産」しています)。実際には、義務化が州財政に与える影響は明らかになってはいません。
6. ワクチン政策形成に関する要因、行政による強制に対する反感:法律によるワクチン接種の義務化ということになると、一般に接種の義務化に関わる3つの要因が、強く影響します。第一に、義務化の提案は、行政による強制に対する反感を呼び起こします。ニューハンプシャーやテキサスのような、行政による強制に対して抵抗するというのが、目だった特徴という州では、反対意見を考慮して、個人や親の自律性に対する、政府の介入に対しては、施行の設置基準を極めて高くすべきということになります。しかし他の州でも、HPVワクチン接種義務化は、先例により、非常に難しいものになっています。たとえばインディアナ州では、青年の精神衛生向上のため、メンタル・ヘルスのスクリーニングを義務化する立法をめぐって、最近激しい論争がありました。行政が未成年者に特定の製薬会社の製品を押し付けるという、行き過ぎの強要をするというものでした。「ガーダシル出現以前に、誰もが製薬会社に対して怒りを感じている。」とインタビューに回答した人もありました。
7. 反ワクチン運動:ワクチン接種義務化に関する議論は、反ワクチン運動によっても影響されていました。これらの活動家は、ワクチンは自閉症やその他の子供の健康問題の原因であると信じています。これらの活動グループは、ガーダシルが自閉症を起こす可能性があるという議論をしてはいませんが、HPVワクチン問題 を、ワクチンの安全性一般に対する問題に注目を集める道具として使っているのではないかという指摘があります。実際彼らは、立法者や公聴会に直接接触して懸念を表明しています。反ワクチン運動は以前からあり、彼らの影響力は、立法者をHPVワクチンの法制化に対して消極的にさせるには十分なものでした。
8. ポリシー・メイキングの過程の性質:最後に、ポリシー・メーキングのプロセスそのものが義務化提案の失敗につながっています。義務化を考慮あるいは採択した州は、サンプル6州中の5州でしたが(6つ目の州はニューハンプシャーで、義務化を考慮していませんでした)、その5州すべてにおいて、健康課の内部の決断というよりむしろ、立法府あるいは州知事命令で義務化の採択をしたのです(健康あるいは公衆衛生課の内部の決断とは、日本で言うと専門家委員会による決定のようなものではないかと推察します。いずれにしろ、議会にかけて全体に通すのでなく、速やかな行政の決断、施行を促すものだと推測しています)。そのうち3つの州では、上記の議会を通さない速やかな法制化メカニズムがあるにもかかわらず、立法の過程は克服不能なほど面倒だと認識されている州もありました。その要因として、委員会長(committee chair)の影響力、短かすぎる立法会議、立法プロセスに入るために競合しているあまりにも多数の法案の存在があげられました。
テキサス州は、州知事令という特権によって、これらの難点を捻じ伏せましたが、しかし、リベラル、保守双方における立法家と大衆の怒りを挑発しました。立法家はこれを権力による行き過ぎた介入とし、彼らの活動はその後、「知事が義務化を推し進めた」ことに集中し、本質であるHPVワクチンの利点や、よりおだやかな政策アプローチの模索についてはあまり触れませんでした。表向き4年の間は義務化を禁ずるという形に収まりましたが、これは単なる立法家のジェスチャーだとされています。なぜなら義務化法案が、州の保守派優勢な議会を通過するチャンスはほとんどなかったからでした。
カリフォルニア州でもまた、HPVワクチンの義務化は、誰がワクチン接種の義務化を実行させる権威を持つかに関してまとまらず、紛糾しました。立法家は、自分たちが法案をコントロールしなければならないと、大変堅固な態度である一方、別のステーク・ホルダーは、公衆衛生課の役人が、いつ義務化を要請するか、あるいは必要とするかを決めることができるべきであると主張し、そのために、どうやって導入するかについて、一層、論争が大きくなってしまったのです。
以上、連邦政府の推奨により、一度は速やかに採択されたHPVワクチン義務化法案が、その後、次々にくつがえされ、白紙化された要因、8項目について紹介しました。
<つづく>
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