知らない間に世の中便利になったものです。New England Journal of MedicineことNEJMが日本語で読めるようです。http://www.nankodo.co.jp/yosyo/xforeign/nejm/xf2hm.htm
訳が出る前に最新号(1月13日号)から記事を紹介しようと思ったら・・間に合いませんでした。
にもかかわらず、Wiki情報をまじえて、はしょって紹介。
ワクチン後進国といわれるようになってしまった日本の現状としては一読の価値のある意見です。
<視点>
昔から衰えを知らないアンチ・ワクチン派との闘い
Perspective
The Age-Old Struggle against the Antivaccinationists
Gregory A. Poland, MD and Robert M. Jacobson, MD
NEJM 2011; 364:97-99
日本語版では「予防接種反対派とのたたかい」という表題になってます。購読しないと読めないみたいですが、元記事はタダでネットでアクセスできます。ヘンな訳つけてたのがバレバレですが、そのまま放置です^_^'
ワクチンは発明されたその時点から常にそれに反対する人、アンチ・ワクチン派(Antivaccinists)がいました。
ウィキペディアによれば、天然痘の種痘に相当する手技は紀元前千年頃から既にインドで行われていたらしい記録があり、ジェンナーによる痘瘡の発明は1796年ですから、18世紀の終わりには既に普及可能は技術として存在していました。
しかし種痘が天然痘撲滅をめざして本格的に広く普及したのは1940年代になってからのようで、発明から実に150年ほどかかってやっと普及したことがわかります。天然痘の撲滅宣言がWHOによってなされたのは1977年でした。
こちらの種痘に関する日本語版のウィキペディアでは、今も“ワクチンは重大な副作用という厄災をもたらすもの”というニュアンスをにじませた紹介になっています。英語版の、いかにも百科辞典というフラットな事実の記載と比べ、“おどろおどろしさ”さえにじませた日本語版の記載は、日本人らしいウェットさにあふれ、お茶目です。
表題のNEJMの記事から
牛痘-あるいは-新しい接種の素晴らしい効果 .J. ギルレイ(J. Gillray),1802年.(国立医学図書館:National Library of Medicine の好意による)
新しいワクチンが出るたびに、18世紀以来、人々は、これを恐怖と不信でもって迎えて来ました。(病原体そのものを利用して病気を防ぐという、毒をもって毒を制するという考えに、人は拒否反応を示すのかもしれません。)
1940年代から1980年代の初頭にかけては、ワクチンの科学、発見、製造のブームにあたり、ワクチンへの不信感は後退してた時期でした。はしか、おたふく風邪、風疹、百日咳、ポリオなどの流行により、感染症に対する公衆の関心が高まり、ベビーブームの影響もあって、子供の病気を予防したいという願望が高まったのです。
ところが、その後、感染症は影を潜め、つぎつぎと新しいワクチンが加わってゆくと、科学的根拠の貧困な、エピソード的ワクチンの害が、メデイアを通じて広められ、1970年代から再び、アンチ・ワクチン思想が隆盛になったのです。
テレビとインターネットがアンチ・ワクチン思想の流布の主流で、科学的根拠から目をそむけるよう世論を方向付けてきました。
たとえばジフテリア、百日咳、破傷風の混合ワクチンはDPT と呼ばれますが(DPT: diphtheria-pertussis-tetanus)、“DPT=ワクチン・ルーレット”のようなキャッチ・コピーで、根拠の明確でない害についてテレビが華々しく報道。議論が巻き起こり、反対運動が広がり、多くの国でDPTワクチンの一律接種は取りやめられました。
1970年代から1980年代に百日咳ワクチンの一律接種をやめた国では、ワクチン接種を継続している国に比し10倍から100倍の百日咳の発生率をみるようになり、結局、ワクチン接種を再開した国もあります。
米国では訴訟の嵐が吹き荒れ、ワクチン製造会社は製造中止に追い込まれたため、被害者のための補償プログラムを作って、製造者がワクチンを供給する能力を維持できるよう救済されました。
1998年に発表された、MMRと呼ばれる、はしか、おたふく風邪、風疹(measles-mumps-rubella: MMR)ワクチンは自閉症を起こすという報告は、英国、アイルランド、米国その他の国でMMRワクチン使用を低下させました。その結果アイルランドでは、はしかの流行が起こり、300例以上の症例と、100例の入院、3人死亡という結果になりました。
アンチ・ワクチン派には単なる科学的無知から、故意に虚偽情報の流布、暴力による使用阻止・反対意見の押さえ込みまであります。彼らには、政府や製造者に向けて100%の不信感、陰謀説、否認、複雑なことを認識できない思考能力の低下、論理破綻、データを感情的な逸話(いつわ)の挿入でさしかえる、といった傾向がみられます。
アンチ・ワクチン派の努力は、混乱とコストの増大をもたらして来ました。これらには個人から健全な社会・共同体へのダメージまでが含まれます。かつては制御されていた病気の流行、ワクチンの市場からの撤去、国防(アントラックス、天然痘ワクチン)、そして生産性の低下です。
2009年から2010年のH1N1インフルエンザの蔓延でも、公衆のワクチンに対する強い恐怖がしめされました。米国では7千万投与量に及ぶワクチンが、ワクチンによる害という証明の無いまま破棄されました。
この間MMRワクチンには何の害も無いことが、12件を超える研究で報告されて来ました。MMRワクチン反対派は、公衆をワクチンから遠ざけ続けています。結果として、この世代にわたる恐怖感は、はしかとおたふく風邪の流行により、子供の命を奪っています。かつてはコントロール下にあった病気が入院、休学、欠勤、医学的合併症、社会混乱、そして死をもたらしています。
過去50年で最悪の百日咳の流行が、現在カリフォルニアでおこり、乳幼児の間に既に10例の死亡が報告されています。
このような負の遺産に直面して、アンチ・ワクチン・キャンペーンを撲滅するために、私達ができることは何でしょうか?
1. ワクチンの安全性について質の高い研究とそれを支える予算を確保すること
2. 本当の稀な副作用を知るために、副作用モニタープログラムを維持すること。そのためには、副作用被害者の補償制度を、全ての被害者に行き渡るよう拡張すること
3. アンチ・ワクチン派の虚偽かつ害のあるクレームに対して、どうやって抵抗したらよいかを、医療従事者、両親、患者にを教育する4. 一般の人を教育し、世論を説得する。患者と親はリスクと利益のバランスを目指すようにする。そのためには科学的リテラシーを上げる。誤情報には法的手続きで対処することも、必要に応じて考慮する
現在予防すべき病気に対するワクチンのリスクは、1900年初頭の天然痘のワクチンに比べたら、はるかに小さいものです。これは不幸にも、アンチ・ワクチン派は自分達を安全な場所に置いたままで、小児、老人、病弱な人々を危険にさらすようなやり方で偽りの科学情報を流布し続けることができるということを意味しています。
かつては、天然痘の撲滅や、そのために多くの人を障害者にした原因だった病気のコントロールの達成という、素晴らしい歴史的勝利があったのです。
そしてワクチン反対派が主張するような、ワクチンによる広範な被害など、時間の経過にも科学の上においても耐え得るような主張ではないのです。筆者は、アンチ・ワクチン派は、公衆の健康に著しい害を与えて来たと確信しています。
最後に、科学というのは、民主主義とは違って、多数派や声の大きい者が、何が正しいかを決定するものではないということを、一般社会が認識しなければなりません。
米国でも日本と類似した状況があるようです。しかし、日本では、ほとんどのワクチンが保険からはずされてしまっているのに比し、米国では公的補助や、例外規定をつけるとはいえ、就学前に接種しないと入学を認めないというようなペナルティーをかけて、州によっては普及に努めるところもあるようです。
ひるがえって、日本の現状について、皆さんはどう思われますか?