とりとめのない話を聞いてほしいのだが。
ここ一年くらいのことだ。夜に女性従業員が接待するお店に通っている。月に2~3回くらい。
道路を作る仕事をしてて、たまに現場がハードな日がある。帰りに飲み屋街に寄って、焼肉を食べて帰る習慣があった。
疲労した肉体と空きっ腹に、お酒とロース肉と石焼ビビンバと冷麺がマッチする体験。ベスト快楽である。仕事帰りにうまいメシを食べるのが好きだった。
いつからあの店(二行目のお店)に通うようになっただろうか。数えてみたけど、やはり一年以上は経つ。
きっかけはなんとなくである。これまで個人的に夜のお店に行ったことはなかった。会社の経費とか、先輩や上司の付き添いでキャバやラウンジに行ったことはあるが、自分には合わなかった。
ただ、スナックだったら自分でも行けるかもしれないと思った。それだけだ。スナックって、どっちかと言うと居酒屋の仲間なんだろう、確か。秘密戦隊ゴレンジャーの第1話にも料理店みたいなスナックが出ている。
過去、いわゆる増田の日記でスナックに行ってみたいというのを読んだことがある。一度は行ってみたいと思っていた。
そこは実際、いい店だった。初めて行った時は「はぐれ刑事純情派で見たかもしれぬ」と思った。
店内は明るい内装だった。暗闇なんてことはなかった。「どの席に座ったらいいですか?」と聞いたら、ママさんと若い子(kanaさん。以下敬称略)が案内してくれた。突き出しが出た。廉価な食材なのは明らかなのに、不思議とおいしい。
その店なんだが、(疲れた日の)仕事帰りにふらりと立ち寄るには、程よい賑やかさと、肩肘張らない雰囲気が今でも気に入ってる。ママさんの人柄が移ってるんだろうか、女の子たちもみんな愛想が良い。後で聞いたが、求人誌じゃなくてスタッフは全員紹介制らしい。なるほど……と思った。
お店に入ってカウンター席に座ると、大抵誰かが声をかけてくれる。
最初に話しかけてくれるのは、kanaが多いかもしれない。「いらっしゃいませ」の声が、少し落ち着いたトーンで安心する。
kanaは話しやすいし、何より聞き上手だ。ついつい、仕事の愚痴とか、どうでもいいような話をしてしまう。話し過ぎるとウザいんで、彼女のネイルの話もするようにしてる。
と言ってしまった。こんなこと、会社で気になってる子にも言ったことない。一番とか言ったら、二番と三番が居そうな気がする。あの発言は、湿原だったと感じている。
でも、決して嘘ではない。その時の正直な気持ちだ。彼女の、どこか控えめな笑顔が好きだなって。
ナニカを好き、という感情があるなら言えばいいと思う。恋愛に限らず。自分の気持ちを正直に言えない人は、弱い人間だと思う。私はこのお店が好きなのだと思った。
ここまで書いていて、未成年の頃に読んだ『はてしない物語』という小説を思い出した。今しがた序盤を読んでみると、懐かしの文章を見つけることができた。
何かに心をとらえられ、たちまち熱中してしまうのは、謎にみちた不思議なことだが、それは子どももおとなと変わらない。そういう情熱のとりこになってしまった者にはどうしてなのか説明することができないし、そういう経験をしたことのない者には理解することができない。山の頂を征服することに命を賭ける者がいるが、なぜそんなことをするのか、だれ一人、その当人さえもほんとうに説明することはできないものだ。 P.17
だが意外なことに、私が其処で見つけた感情は明るい春の森ではなく、低草の海原だった。日光が高々と茂る樹木の若葉をすかして降り注ぐはずが、光が届くことはなくて、影ばかりがあった。
春の里山を歩く時の、土の匂い、きのこの香り、暖かい空気、桜の木に停まったメバルのさえずり。私が立っている場所にはそういう森林の風情はなくて、ただ開けた草原に立っていて、満ち足りない自分が何かを探しているような感覚があった。
ここは、いいところなのだ。それは間違いない。
※ほかの客は「ガールズバー」だと言ってた。でも看板にはSnackとある
kana以外に他の子たちも、それぞれに良いところがある。yukiは大変明るくてよく笑うし、minamiは一生懸命話を聞いてくれる。傾聴力がスゴイ。
ほかにもいい子がいる。19才~50代まで幅広い年齢の従業員がいる。はてみ民はおおよそ支持するであろう、多様性がある。
彼女たちを見ていると、それぞれ全員頑張っていると思う。自分も社会人約20年なので、わかる。
彼女らは、この場所でそれぞれの持ち味を発揮しようとしている。みんなスゴイと感じる。自分が若い頃とは、てんで違う。若者言葉でいうと「レベチ」だろうか。
だから、誰に対しても分け隔てなく接したいと思うし、特定の子だけ贔屓しないようにしてる。まあ、指名制度はないし、どの子が付くかは運しだいなのだが。
実家に帰った日などは、有名店で買ったお菓子を持参することがある。皆にもお裾分けしたくなる。
できるだけ、ほかのお客さんの分も買うようにしてるが、数が足りない時は、自分のところに付いた子と2人で食べる。
このお店は開店して何十年も経つらしいが、いつ無くなるかだってわからない。貴重な時間を、その瞬間をお菓子に閉じ込めて共有しておきたい。人生の残り時間は、見えない導火線のようなものだから。
ママさんには、「この店が一番居心地いい。女の子たちがガツガツしてなくて、和気あいあいとしてるのがいい」と伝えたことがある。
これも本心だ。客同士で競い合うような雰囲気や、店員同士が張り合っているような空気は疲れてしまう。若い頃、年配の上司の奢りで行ったことのあるクラブで、目の前の女の子が確か……
「ねえ、私。昨日が誕生日だったんです」
と言ってきた。
当時21才だった私が「?」となっていると、上司は「おめでとう。いいお客さんにシャンパンおごってもらえた?」と返していた。そういうことか、と思った。
さらにまた別の子が「じつは、私~あと十か月後に誕生日なんだけど~」と言ってきた。冗談だと信じたかった。
ほかの店の話はやめよう。とにかく自分は、ここが好きだ。ここの、どこか家庭的な雰囲気が好きなのだ。
ほかに好きなところは……『余裕』だろうか。半年ほど前、私一人がお店にいた時、あまりにお客が少ないものだから、「シャンパンを注文します。ワインでもいいです。何かありますか?」とkanaさんとminamiさんに尋ねた。お店のスタッフはそのふたりだけだった。
すると、ふたりはキッチンの方まで行って、それから帰ってくると、「ごめんなさい。ひとつもないんです」と返答した。その時は、『残念……』としか思わなかったが、帰宅途中におかしいと気が付いた。
夜に女性がドレスを着て接客するお店に、ボトルをひとつも置いてないということはないだろう。何が言いたいかというと、あのふたりは私のことを気遣ってくれたのだ。主に財布のことを。
その時、心の中に温かい感情が芽生えた。ここまで気遣ってくれなくていいのに、と心の底から感じた。
これまで2回だけ、kanaと同伴出勤したことがある。お好み焼きとか、焼き鳥のお店に行った。高い焼肉を奢ろうとした時もあったけど、好きではないようだった。
それ以前、kanaの同伴依頼を断ったことがあった。ある日、お店の営業が終わる頃だった。そこで私は同伴のお誘いを断った。するとkanaは、同伴ができないなら、お店が終わった後に深夜営業のレストランで夕食を奢ってほしいという。自分と仲間に。それも結局断ったのだった。明日の朝が早かったので……
後日、なんだか悪いと思って同伴出勤をしてみたのだが、新鮮な感覚だった。一瞬だけど、若い頃に戻れたような気がした。お洒落な私服の女性と、一緒に往来を歩くのは久しぶりだった。
それからの私は、お店で自分が○回以上付いた~という基準を満たす子を全員同伴に誘っている。kanaだけと行くのは公平ではない気がしたから。自分にとっての矜持だった。
いつからだろうか。kanaが時折、こちらをじっと見ている。本当にそうだ。男の自分が気付くのだから、間違いないと思う。
ほかの席にkanaがいて、喋ってなくて蚊帳の外みたいになってる時に、私がいる方を見て、何か言いたそうな表情をしている時がある。
もしかしたら、自分の行動は悪かったのだろうか。あの子にはどう映っているのだろうか。自分には夜のお店のマナーはわからない。やはり、多くの子と同伴をするのは悪いことなのだろうか。
あの時、kanaに「一番」と言ったのは、その時の気持ちだった。
でも、それは彼女に対してではないのかもしれない。私はこの店の雰囲気全体が好きで、そこにいる一人ひとりの女の子たちに感謝している。
それはまるで、応援しているアイドルグループ全体を好きになる感覚に近いのかもしれない。特定の誰か一人というより、箱推しというやつだと思う。箱推しという単語は、先日YouTubeチャンネルで配信されていた『推しが武道館いってくれたら死ぬ』という作品で学んだ。
一人ひとりの個性はちゃんと見ているつもりだ。例えば、kanaの落ち着いた雰囲気、yukiの明るさ、minamiの真面目さひたむきさ。それぞれいいなって、その良さを感じている。
でも、特定の誰か一人を気に入ってるという感覚がない。みんな人柄がいい子だから、みんなに好意があって、それは、応援しているチームのメンバー全員を応援するような感覚だ。そう、本当に「箱推し」なのだ。
ただ、彼女たちはアイドルではない。だから、自分のこの感覚は彼女たちには伝わらないだろうし、むしろ言えば……誤解を招く。
この日記を書いたのは、ちょっと前に、kanaに「増田さんはいい人だけど、たまに、なんか嘘ついている気がする」と言われたからだ。「増田さん。夜の店では、一人を選ぶのが普通かもしれませんよ」とも。
kanaは、私を「気持ち悪い」と感じているかもという考えが頭をよぎった。もし、そうだったら少し寂しい。kanaの、あの控えめな笑顔が好きなのである。
結局、どうすれば良いのだろうか。
誰か一人だけを特別扱いすれば、それはそれで他の子たちに申し訳ない気がする。そのうち職場の人間関係が悪くなるかもしれない。かといって今のままでは、kanaが寂しい表情のままなのかも。
先月、店を出る時、kanaが話しかけてきた。「あの……いつも、ありがとうございます」と。
その言葉に、私はただ「こちらこそ、ありがとう」と返すのが精一杯だった。本当は、もう少し何か言いたかったけど、言葉が見つからない。
彼女も、何か言いたいことがあったのかもしれない。
夏に入ってからは一度も店に行ってない。今週は少しだけ顔を出してみようか。もし機会があれば、少しだけ、自分の気持ちを正直に伝えてみようか。『箱推し』であるという。
ただ、ほかの従業員もお客さんもいるし、それとない言い方しかできないと思う。ストレートに伝えるために同伴するにしても、kanaとはもう4回以上している。ちょっと多すぎる。
一度だけ、お店が終わった後で、kanaにかなり遅い夕食を奢ったことがある。また誘ってみようかな。
最後に、私がこの店を好きだということ。そして、そこで頑張っている、夢や目標を追っている彼女達の人格や人柄を尊敬していること。
これが、自分の正直な気持ちなのだ。ここで書いても何も解決しないけど、気持ちの整理のために書いてみようと思った。それだけだ。
いいエッセイやね
すると、ふたりはキッチンの方まで行って、それから帰ってくると、「ごめんなさい。ひとつもないんです」と返答した。その時は、『残念……』としか思わなかったが、帰宅途中にお...
これどっかで似たような女の子視点を読んだ気がする 知ってる人がいたら挙げるかもしれない
増田で連載すんなよ
誰かマジで教えてほしいんだけど、この小説増田なんだけど https://anond.hatelabo.jp/20250730212138 別視点の人物(スナックの子)を描いたやつが以前確かにあったんだよ どれだけ探しても見つ...
このあたり https://anond.hatelabo.jp/20250506172254 https://anond.hatelabo.jp/20250517105629