達者でナ
我が家にいくつかある懸案の中で、夏になると思い出さざるを得ないものがあります。それは冷蔵庫の買い換え。
今使っている冷蔵庫は二十世紀に買ったもので、数年前から氷が作れなくなり、そのもっと前から野菜室の底が凍り付くため、命旦夕感半端無いヤツでした。それをだましだまし使っていたのですが、生協の宅配で肉や魚などの冷凍品を常備するようになってから、危機感はいや増しました。
そもそもこの冷蔵庫は先代冷蔵庫が真夏に突然死したため、一番早く配達してもらえるものという理由だけで選んだものでした。それでも配達までに一週間ほど掛かった、あの地獄だけは繰り返したくありません。1998年7月の、あの暑い夏を。
とはいえ冷蔵庫の買い替えは面倒なもので、なかなか重い腰が上がりません。今年の冬、清水の舞台から飛び降りるつもりで大枚はたいて『冷凍丸ごとサムゲタン』を買った時も、冷蔵庫が壊れる恐怖に日々苛まれていたにも関わらず、サムゲタンを美味しく食べたらその恐怖を半分位忘れてしまいました。
しかし、今夏の猛暑で、私の腹は決まりました。お台所が冷蔵庫の熱で暑くて堪らないのです。二十年も経てばさすがにパッキンも劣化しているでしょう。もう買い換え時だと思いました。
ネットで色々物色した後、電気店に買いに行ったのが8月上旬。お盆前に新しいのを使えるかと思っていたら、エアコンの注文が相次いで作業する人が払底しているため、8月末でないと配達できないとのこと。他の店を探すのも面倒だったので、それまで待つことにして、お金を払ってきました。それまでうちの冷蔵庫が保つことを祈りながら。
その夜、夕食後、冷蔵庫を開けたら野菜室が水浸しになっていました。随分長いこと野菜室の底が凍り付いてはいたのですが、それが溶けて水になったらしいのです。遂に壊れたか、しかも買った日に。と思いつつ、野菜室の中を掃除していると、製氷皿が動いて氷が落ちる音がします。買い換えるに当たって、それでも本当に壊れているか確かめるために昨日たまたまタンクに水を入れたのです。丸一日何事も起こらなかったのに、突如氷が出来、着きっぱなしだった給水ランプが消えたのです。
冷蔵庫が突然元気になってしまった。
私にはそれが冷蔵庫の「捨てないで」という叫びのように思えました。
しかし買ってしまったものは如何ともしがたい。
これから八月一杯、復活した冷蔵庫を大事に使って蜜月を過ごしてからお別れしよう、私はそう考えて、それからの日々、毎日冷蔵庫を磨きました。
百均で冷蔵庫用整理カゴを今頃買ってきて、庫内の整理もしました。
手入れをすればする程、お掃除しやすく、使いやすい冷蔵庫だったことがわかりました。
もっと早く気がついていれば、もっと長く大事に楽しく使う事が出来たのに、大した手入れもせずに使ってきた自分が悔やまれました。
そして運命の新冷蔵庫到着の日。中味を出した序でに冷凍室をそのまま引き出して本体をお掃除しようとした、私の目に、劣化で壊れたプラ壁と、むき出しの断熱材が目に入ったのでした。こりゃ熱いわけだ、やっぱり買い換えて正解でした。
冷蔵庫入れ替えは、お店の人の、多分最悪のケースを想定した説明より遥に短い、15分足らずで終わりました。
新しい冷蔵庫とのご挨拶もそこそこに、私は玄関に立ち、古冷蔵庫の載ったトラックを見送りました。好きでもらわれてきた訳でもないのに、手入れもしてもらえなかったのに二十年働いて、息を吹き返したように元気になって、最後の日に自分の致命傷を見せて私を諦めさせた、我が家には出来すぎたこの冷蔵庫を・・・
私は心の中で呼びかけました。「達者でナ」
達者ではいられないだろうに、「ドナドナ」ではなく「達者でナ」。そして健気な冷蔵庫とは違うメーカーを選んでいた私は、やはり鬼と申せましょう。
三橋三智也 「達者でナ」
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