桜の話
まさかこんなに大変な年になるとは夢にも思わなかった2020年。そんな今年の最後には美しい事を書きたいと思います。
四月のある日、私は疲れ果ててぼんやりしながら車で道を走っていました。前を走るのはかなり大型のバンボディ(荷台が箱形コンテナみたいなやつです)のトラック。その後ろをそろそろ走っていたところ、突然、本当に突然、まるで雪崩にでもあったかのように何かが上から降り注いできて目の前が真っ白になりました。
びっくりして思わず急ブレーキを踏もうと思ったその瞬間、宙に浮かんだ白い物がひらひらと踊り、舞い上がり始めたのです。それは沢山の桜の花びらでした。
今度はこの場に留まりたい衝動に駆られて思わず急ブレーキを踏みそうになりましたが、さすがにそれは思いとどまり、宙に舞う花びらの中をしずしずと進みました。この頃には何が起こったのか見当が付いてきました。前を走る大型トラックの荷台天辺が道端の桜の枝を擦ったのでしょう。桜の木はさぞや痛かっただろうと思いながらひらひらと踊っているような桜花の乱舞を通り過ぎ、交差点の信号で暫し停止しました。
バケツをひっくり返したような雨という表現がありますが、あの花びらはバケツをひっくり返した様に降り注いできたのです。
その後信号が青になりトラックが動き出した瞬間、また花びらが降ってきました。枝を擦ったトラックの天井に桜の花びらが残っていたのでしょう。それが最後の花びらだと思ったのですが、トラックが揺れる度にはらはらと桜の花びらが降ってくるのです。それから数分間、私が右折するまで、ずっと桜の花びらが降り注ぎ、目の前をひらひらと舞い踊ってくれました。
何の変哲もない道路の風景なのに、花びらが空から舞い降りてくるだけでどこか別世界の様な光景に思えるのが不思議でした。桜の木は痛かったと思いますが、夢の様な体験でした。右折するときは名残惜しかったです。
前を走る大型トラックとの別れがこんなに辛く感じることがあるなどと思いもしませんでした。トラックから降ってくるものと言えば大体は雪か氷。それから砂というのがありました。あれは本当に勘弁して欲しかったです。後ろの車が状況を読めてなくて、私が車間を開けると煽るんですよ。砂がばさばさ落ちてくるのみえない?その後私は自分の車に砂がバチバチ当たる音を聞きながらトラックの文字通り後塵を拝して数十キロ走る羽目になったんです。あれが悪夢でなくてなんなんでしょう。
忘れていた昔の出来事をつい思い出してしまいましたが、トラックからは素敵な物も降ってくることがあるという事を心に留めて、2020年を終えたいと思います。
皆様、良いお年を!
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