カフェオレの話
去年の5月、私は指の手術をしました。手術と言っても手のひらに1センチほどの切り傷が二箇所できるだけの、部分麻酔で小一時間ほどで済むものでした。でも傷口にパッドを当て包帯でぐるぐる巻きにするため、看護師さんから「運転はできなくなりますから当日は車では来ないで下さい」と言われ、5月の午後、包帯ぐるぐるの左手を抱え、電車の時間の30分以上前に最寄り駅にたどりついたのです。これぞ私の狙っていたことでした。
思い起こせば2年10ヶ月前の2017年7月、朝高熱を出し動けなくなった母が私が手術した病院に救急搬送。一緒に乗せられてきた私は家に入院荷物を取りに行くためにこの駅に来たのでした。時間も同じ午後3時頃、電車の時間まで少し間があり、バタバタしていた私は朝から飲まず食わず。駅前にはカフェ。私はテラス席に腰を下ろしました。疲れていたのか寒気がした私は真夏なのに温かい飲み物が欲しくてカフェオレを注文しました。目の前に運ばれてきたそれはコーヒーとミルクの良い香り。小さく息を吐いて一口すすろうとしたその瞬間、駅にいた乗客達が一斉に改札を通ってホームに出る姿が見えるではないですか!え?うそ!もう来たの?と混乱しながらも、これは私も行かなきゃと、カフェオレをグビッとのんだところ熱い。
熱すぎる。
体が冷えていたのか喉の奥まで焼き尽くされる様な熱さでとても一気には飲めません。
荷物をまとめて車で戻らなければならない私には乗り遅れる選択肢はありません。涙を呑んでカフェオレを諦めお勘定をして駅に走りました。ホームに辿り着いた私の目の前にやって来たのは反対車線の電車でした。
それから15分以上、既に捨てられカップも洗われてしまったであろうカフェオレのことを考えながら私は乗るべき電車の到着をまったのです。
あの時のリベンジを果たすときが遂にやってきたのです。キップは往復を購入済み。急な事で電車の時刻もしっかり頭に入っていなかった前回の轍を踏まないために時刻表もばっちり確認済み。余裕をもって店に入り、堂々と注文したカフェオレ。
うっとりと微笑み口に含んでふと顔を上げると、店内の時計は発車時刻の14分前。店に入ったときは35分前だったのにいつの間に?
大丈夫だ落ち着け。14分あればカフェオレ一杯くらい飲み干せる。そう考えて呼吸を整えグビッと飲めば
熱い。どうしてこんなに熱く感じるのか、とても簡単に飲める温度ではありません。
何故?どうして?と混乱した上に熱くて味もよく判らないカフェオレを、飲み干せたのかどうかさえはっきり覚えていない状態で私は家に帰ったのです。
なんなの?どうしてこうなるの?どこで20分も経ってしまったの?
白状しますと最初のカフェオレから次のカフェオレの間に、あのお店にはリベンジの為に2回行ったのです。でも1回目はほうじ茶とおやきセット、2度目は玄米カレーを食べてしまい、カフェオレリベンジを果たせないままだったのです。今度こそ達成できると思ったのに。
あれ以来あのお店に行かないまま1年が経とうとしています。
食い気に惑わされた私はカフェオレをゆっくり味わうという野望は捨てた方がいいかもと思い始めているこの頃です。
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