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2015年1月29日 (木)

『#鶴橋安寧 アンチ・ヘイト・クロニクル』  息苦しい今の社会への処方箋

 この本はネットで記事を書いたことをきっかけに、いわゆるネトウヨと呼ばれる人々、また在特会と称する差別主義グループから攻撃の標的にされてしまったフリーライターの李信恵さんが、ご自身に降りかかる差別との対峙を記録した本です。今まで書かれてきた連載が収録されているため、記述が重複したり章によって時系列が前後したりしますが、本のトーンは統一感があり、著者の息子さんとご高齢のお母様が読んでも判る文を書くことを心掛けたと言うとおり、大変読みやすい本です。


 以下がアマゾンのレビューに投稿したものです。


 プロローグの冒頭から、在特会による排外デモで叫ばれるおぞましい罵倒の数々が現れ、身が縮むような怖さを味わわされますが、それを全身に浴びる李さんの筆致は、当事者がプロのライターだった為でしょう、恐怖を感じる自分、傷つく自分、怒る自分を冷静に見つめ、その上で「この社会を作った大人としての自分の責任」「自分は大人としての責任を果たしているのか」と絶えず心に刻みます。
在特会でもてはやされ、その後恐喝で逮捕されたS少年を著者は心配し、彼と遭遇したら何と言葉を掛けようと自問し、自分なら「おなか減ってない?」と言うであろうなど、主題の重さに反して暖かみが文章に溢れるのは「大人としての責任を果たせているか」という著者の意識が貫かれているためでしょう。
責任ある大人としてヘイトと戦うために何をなすべきか、著者の模索も丁寧に書かれています。アンチ・ヘイトには知識も必要との認識で、著者自身が受けた、あるいは朝鮮学校襲撃事件の法廷で在特会側がした筋の通らない理屈を分析し、既に用語として存在する「沈黙効果」「複合差別」などと結びつけ理解しようとしていきます。この部分は秀逸で、読むうちに、私自身の経験の中から、差別者がよく使う理屈が差別という枠に収まらず、学校で、職場で、相手を黙らせ我意を通そうとするやり口として何度も起こっていた事に気づかされました。いくら知識として知っていても、日常起こっている事例に活かすこともなく見逃してしまっては、それらに味方していたのと同じです。私もこの本で社会が今まで積み上げてきた理論を現実に活かせる様に勉強したいと思います。

 差別と戦おうと決意した著者の周りには、同じく差別と戦おうとする人々が何人も現れます。在特会側の人間を心配したりする李さんと同じような暖かみと柔らかさをもった人達です。何故このように赦せるのか。どうしてこんなに他人との違いを当たり前の様に受け止められるのか、類は友を呼ぶということなのかと不思議でした。しかしそれは差別と戦うには、あるいは差別から身を守るには、差別の根本と正反対の、寛容や公平さ、知識と理論、相手に対する想像力などを身につけざるを得ないからだと思い至りました。好むと好まざるとに関わらず。
著者は外国人児童の支援学級にボランティアとして参加しているのですが、そこで母親がフィリピン籍の女の子と、著者がかわした会話は象徴的です。お互いの違いを認めていればこそ同じ部分を発見した時に嬉しいし楽しい。同じ事が前提になっている社会なら、違いは指弾されるだけ。発見も親近感も楽しさも、起こりようがありません。

 京都朝鮮学校襲撃事件の法廷で、民族教育に触れた部分では、私自身の日本語に対する愛着に気づかされました。日本に住んで日本語を使う日本人の私ですが、この言葉や文字が、私の曾祖父母やそのまた曾祖父母も使っていて、代々受け継がれ、私の血や骨の中に刻み込まれているようないとおしさを私は初めて感じました。日本語はすごいとか、日本文化は素晴らしいとか日々聞かされているにも関わらず、文化や言葉を身近な、自分の中に流れるものの様に感じることが出来たのがこの本でだったのは、皮肉と言えます。

 最終章では李さんのご両親はじめ様々な在日韓国朝鮮人の半生が綴られています。どの人生も一つきり、みな違います。しかし同化圧力の元で、同化した人と、自分らしくと考えた人の間に亀裂も走りました。私達も同じです。日本人だからといって皆同じ訳ではありません。当たり前ですが一人一人皆違うのです。しかし違う事を声高に言えないことが多々あります。社会がマイノリティにあからさまに押しつけていることを、マジョリティもまた自分自身に知らずに押しつけているのではないでしょうか。

 違う文化を認め違う民族の人々と共生する為には、どこの国でもそうですが歴史の清算は避けて通れない問題です。私は今までそういう行為は身を切るように辛い大変なものだと思っていました。しかし清算した後の社会がこの本の端々に現れるような暖かいものになるのなら、それほど厳しく辛いものではないのかもしれないと思いました。ドイツ偉いなどと思っていましたが、結局自国をより快適にするための近道だと知って行っていたのなら、なんかずるい(著者の真似)。

 今の社会に息苦しさ、窮屈さを感じている方に是非読んで頂きたい本です。そして読後、このアマゾンのレビュー欄をもう一度見て下さい。ここには著者が指摘した差別者ロジックの生きた見本があります。そして見えにくい差別への荷担も存在していることにお気が付かれるでしょう。この社会をどうすれば良いのか、この本で著者の李信恵さんと一緒に考えてみませんか。

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