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2006年11月 4日 (土)

クラッシック音楽が放つ妖しい誘い

 山下達郎がコアなのは、それが山下達郎だからだ、と思っている全ての人に捧げる記事です。

 随分前に、「彼女と初デートに行くならクラッシックコンサートに行け。絶対に上手くいく」と学生に勧めた教授の元に、言われた通りコンサートに行ったら彼女不興を買ったという学生が現れ、教授が「一体何を聴きに行ったのだ」と尋ねると「よく判らなかったからブルックナーの5番6番」との答えが返ってきたそうで・・・。

 その時私も、この教授と同じく「そりゃ当然だ」と呟いたのですが、呟きつつもその理由を今ひとつ絞り込めない自分がいました。
何故ならば、最初に聴いたのがブルックナーだという熱心なクラッシックファン(ヲタとも言いますが)が、知る限り相当数存在するのと、ブルックナーのこの交響曲がヨーロッパでドル箱交響曲と言われているからです。 

 私の感覚からすれば、3時間も雪隠詰めにされて重厚長大な曲を聴かされたら怒りもするわな、と思うのですが、それは最初に聴いた曲がドヴォルザークのユモレスクで、今も軽い曲が好きという私の大平民な感覚のせいで、彼女が怒って帰った理由は、この偉大な曲について男子学生が何一つ「熱く語らなかった」からかもしれないのです。

 R・シュトラウスの歌劇「サロメ」を、真夜中お料理しながら聴くのがとても好き(おんぷ)、と嬉しそうにラジオで語った女性管楽器奏者を私は忘れることが出来ません。 
コンサートの後怒って帰ってしまった彼女が今、ブルックナーを大音響で聴きながら、ブライスやテディベア写真集をうっとり眺めてたり、ラヴェルの弦楽四重奏曲を聴きながら、鋸の目立てをしていないと、誰が断言できましょう。

 平安の昔、貴族の詠んだ歌は即一般に伝わり、庶民はその出来の善し悪しを噂し、もじりの歌を作って遊びました。
「リゴレット」の台本を書いたピアーヴェは、街でたまたま出会った前カノから、「女心の歌」の節回しで「あんたは間抜け」と歌われてしまいました。
歴史のあるものには蓄積があるのです。音楽界でコアな楽しみ方を見つけるには、本来山下達郎並の才能が必要で初心者には敷居が高いかもしれません。しかし古典と呼ばれるものにはコアな先人達の蓄積が、ハウツーが、既に十分染み込んでいて、聴いたその日にあなたが旅立たない保証はないのです。

 旅立つ意志がなくても安心してはいけません。仕事で関わるうちに知らずに旅立つケースもあるのです。
20年近く前のリニューアルで、「番組が平凡になった」と非難されたNHK・FMのクラッシック番組。昔と変わらない平易なプログラムのままなのに、最近何故か妖しい光を放ってきたと感じるのは私だけでしょうか。製作スタッフ、旅立ってませんか?

 初めてユモレスクを聴いてから数十年、今日も簡単で判りやすい曲を聴きながら、私は旅立ってしまった人々の世界に思いを馳せるのです。

 音楽では旅立てませんでしたが、最近記事を書いているとふと違う世界に逝っちゃってるように思えるのは、気のせいでしょうか・・・フキフキ "A^^; 

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