2026-03-18

朝日新聞記事

現場から

賃上げ満額回答だけど「生活にゆとりない」 ランチ学費も値上がり

2026年3月18日 11時25分

南日慶子 北川慧一

春闘 きょう集中回答日】大手企業の回答は? タイムラインで速報

 相次ぐ賃上げ回答も、打ち寄せる物価高の波が、生活改善の実感や手触りを働く人から容赦なく奪っていく。

 

 東京都内に住む40代男性が働く会社は、今春闘労働組合から賃上げ体系を底上げするベースアップベア要求に満額で回答した。

 

 月給は1万円以上上がる見通しだが、食料品をはじめとした軒並みの値上げを前にして「満額回答は単純にうれしいが、実感として、物価高に追いついていない」。

 

 物価高は「ひしひしと感じている」。とりわけ食費だ。よく通っていた外食チェーン店でも、以前は一食あたり千円以内で食べられたメニューも近年は1500円近くする。

 

 賃金が上がっても生活防衛は必要だ。最近はもっぱら会社食堂ランチを取る。メニューは500円程度が中心。「節約になっている」

 

ペットボトルは?オムツは? 原油高が揺さぶ家計、品薄や値上げは

 働く人の肌身の感覚数字が裏書きする。

 

 内閣府が昨年8~9月実施した「国民生活に関する世論調査」によると、現在食生活に「満足している」「まあ満足している」と答えた人の割合は計61.6%で、前年を6ポイント下回った。

 

子どもが春から大学生「初年度で170万円」

 食料品の相次ぐ値上げが影響したとみられ、単純比較はできないものの、調査を始めた2008年以降、過去最低だ。

 

 50代の男性が勤める建設会社もここ数年、ベースアップを図ってきたが、物価高がその効果をかき消している。

 

 4月子ども大学生になる。「初年度で約170万円ぐらい振り込んだ。賃金が上がっても生活にゆとりができた感じがしない」

 

 学費も値上がりが続く。文部科学省の25年度の私立大学の初年度学生納付金の調査によると、前回(23年度)調査から2.1%増えて150万7647円となり、初めて150万円を超えた。うち授業料は同0.9%増の96万8069円。15年度の86万8447円と比べると、10年間で10万円増えた。

 

最低賃金で働く留学生たち

 満額回答が相次ぐ大手企業との賃金格差が指摘されるだけに、中小企業で働く人、加えて、非正規労働者らの手応えのなさはなおさらだ

 

 宮城県介護職員女性(25)は、本業の月20万円ほどの手取りでは生活が苦しいため、月7~8日、深夜や介護仕事休みの日にスポットワークで物流会社倉庫でも働いている。

 

 そんなときに目の当たりにするのは、アルバイト留学生らが最低賃金で働く姿だ。「正社員だけでなく、最低賃金で働く非正規にも目を向けてほしい」

 

コメ1年間買っていない」 最低賃金での暮らしに映る「6.0%」

 確かに物価高に負けない賃上げ――をテーマにした春闘では、2年連続定期昇給を含め5%台の賃上げが実現した。基本給は伸び、働き手の購買力を示す実質賃金2026年1月に、13カ月ぶりにプラスには転じた。

 

写真・図版

春闘の決起集会で気勢を上げる基幹労連組合員ら=2026年3月6日午後、東京都千代田区吉田博撮影

 ガソリンにかかる旧暫定税率廃止食料品の値上がり鈍化もあり、実質賃金計算に使う消費者物価指数(持ち家の帰属家賃を除く総合)は1.7%上昇と、4年弱ぶりに2%を割り込んだことも好影響をもたらした。

 

イラン情勢が長期化なら「スタグフレーションも」

 だが、その矢先にイラン情勢が緊迫化。大手企業高水準の賃上げ回答は、他産業中小企業への好循環が影響を及ぼし、賃上げのすそ野拡大も期待されたが、原油の高騰や円安の進行が、日本経済賃上げの先行きに暗い影を落としている。

 

 原油価格指標となる「米国産WTI原油」の先物価格が1バレル=100ドル前後で乱高下し、ガソリン価格なども高騰。急速にインフレ懸念が広がっている。

 

写真・図版

東京都内ガソリンスタンド

 法政大の山田教授労働経済学)は「イラン情勢への不透明感は強いが、企業構造的な人手不足への対応が最大の経営課題となっている」と指摘。その上で「イラン情勢が長期化すれば物価高で実質賃金が再びマイナスになることが懸念され、物価上昇と景気後退が同時に起きるスタグフレーションに陥る可能性もある」とする。今後本格化する中小企業春闘来年以降の賃上げへの悪影響も懸念されるとして、「賃上げの旗は降ろさないが、賃金メリハリを付けて全体の人件費上昇をコントロールしようとするのではないか」と述べた。

 

デジタル版を試してみたい!」というお客様にまずは4カ月間月額200円でお試し

https://digital.asahi.com/articles/ASV3L050XV3LULFA01YM.html

  • コメントプラス 注目コメント試し読み commentatorHeader 首藤若菜 (立教大学教授=労働経済学) 2026年3月18日12時6分 投稿 【視点】満額回答でも生活にゆとりがない状況は、「賃上げが足り...

記事への反応(ブックマークコメント)

ログイン ユーザー登録
ようこそ ゲスト さん