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介護ロボットは日本の高齢者介護問題を救わない?

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MIT Tech Review に掲載された「高齢者介護を「自動化」する 日本の長い実験」は、原文が公開された時にこれは興味深いと読んだのだが、ワタシ自身はロボット業界に通じていないので、現役のロボット開発者である安藤健氏の解説というかツッコミを読めるのはありがたかった。

高齢化が進み続ける日本において、介護を必要とする高齢者が増え続け、一方で介護職の従事者が十分な給与を得ていないことは大きな問題であり、そこで高齢者の介護をロボットに置き換えられれば、というのは多くの人が考える解決策に思える。

アラン・チューリング研究所の研究員であるジェームス・ライトの文章は、その期待に冷水をぶっかけるものである。

要するに、機械は労働を省くことができなかった。介護ロボット自体も世話をしなければならなかった。移動、メンテナンス、清掃、起動、操作、居住者への説明の繰り返し、使用中の常時監視、使用中の保管が必要だった。実際、他の研究においても、結局、ロボットは介護者の仕事をさらに増やす傾向があるというエビデンスが増えている。

MIT Tech Review: 高齢者介護を「自動化」する 日本の長い実験

介護ロボットはどのような未来を指し示し、介護危機の「解決策」となるには何が必要なのだろうか。コストの抑制が不可欠なことを考えれば、在宅介護においてロボットを大規模に利用するための最も可能性の高いシナリオの1つは、残念ながら、よりスキルの低い人を、できるだけ安い給料で、よりたくさん雇うことなのかもしれない。

MIT Tech Review: 高齢者介護を「自動化」する 日本の長い実験

かなり皮肉な結論と言えるし、アラン・ウィンフィールドの「現実に、AIはすでに多くの仕事を生み出しています。これは良いニュースです。悪いニュースは、それらがほとんどくだらない仕事だということです。(中略)21世紀に人間がロボットやAIのアシスタントとして働くことは、退屈で、身体的にも心理的にも、そのどちらかだけでも危険なことは今や明らかです。(中略)そのような人々は、実際、ロボットであるかのように振る舞うことを要求されるのですから」というコメントがダメを押している(し、またしても「ゴーストワーク」の話を思い出した)。

これに対して安藤健氏は「ロボットありきで考える必要は全くないが、全体最適で考えたときにロボット技術が役に立つシーンは存在する」と反論しており、「介護の自動化」に対する違和感はワタシにも理解できる。何より介護分野へのロボットの導入はまだまだこれからである。

ただ本件と直接は関係ないが、少し前に O'Reilly Radar で Automating the Automators: Shift Change in the Robot Factory という文章を読んだときも思ったが、欧米人にとってはロボットといえばオートメーションという固定観念があるのかもなと思ったりする。

いずれにしても、介護問題においてロボットが「銀の弾丸」にはならないし、そのように語る人は信用してはならないのだろうな。

ともあれ Robots Won't Save Japan というズバリなタイトルの本が来月出るようなので楽しみだし、この題名自体、MIT Tech Review の記事にも触れている通り、日本で『ロボットが日本を救う』という本が複数刊行されているのに冷水をぶっかける英国人らしさの発露……などと書くと怒られそうだが、これは間違いなく邦訳が望まれる本でしょう。

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